大陸暦1526年――星粒子伝達能力
『ねーねー』
一分も経たず、ラウネが話しかけてくる。こいつは基本、本を読んでいるときと寝ているとき以外は黙ることを知らない。
「なんだ」
無視すると余計にうるさいので、ため息交じりに答える。
『キミは
「離れて会話できる魔道具だろ」
『安直ー』
「ほかに意味があるのか」
『わたしが言ってるのはーこれがどうやって作られているかーてことー』
「魔技官ではない私が知るわけないだろ」
魔技官とは魔道具を作る専門家のことだ。
『作りかたじゃなくてー仕組みだよ仕組みー』
「知らん」
『ならー無知なレイレイに教えてさしあげよー』
頼んではないが、少し興味があったので黙って聞く。
『これはねー人間の身体の一部からできてるんだー』
「……は?」
仕組みと言うので通信魔法の原理――魔法学の話でもするのかと思っていた私は、意外な言葉に虚をつかれた。
『世の中にはねーこんな道具を使わなくてもーこれと同じ能力が備わって生まれる人がいるのー。キミがだーい好きな
祝福者とは生まれながらに特別な能力を持つ人間のことだ。
人間は神が生みだしたものだから、特殊な能力も神から授けられたもの、すなわち祝福であり、だからそれを持つ者は祝福者と呼ばれている。
『でねーそれは決まって双子でー双子は生まれながらに通信する魔法セリュムス・インビリティーション、常用語に訳すと
その
『そんな双子から
「馬鹿な」
体内から粒子を抜き取ることは法で禁止されている。いや、それ以前に
動揺を覚えている私を嘲笑うかのように、ラウネがくすくすと笑った。
『心配しなくてもー死んだ直後に取り出すんだよー。死人には法は適応されないからねー。それにそもそもー
「それは、死んでも効果を発揮するのか」
現に今しているのだが、つい聞いてしまう。
『人は死んでも粒子はすぐに活動を停止しないからねー。とは言っても特性を持つ
……なるほど。死後であり意味のある摘出ならばまだ納得はできる。それどころか、よくよく考えてみたら、死後に人の役に立てるなど羨ましいことかもしれない。
「しかし、生まれたときから繋がってるとは双子も大変だな」
『最初はそうみたいだねぇ。
「へぇ」
『人間にしてもー道具にしてもーよく知らずに使うのは愚の骨頂だよー』
たまにはまともなことを言う。
「確かに。勉強になった」
『素直ー』
ケラケラとラウネが笑う。だが、それからすぐにため息をついた。
『てかこないねー』
「だな」
『暇だなぁー』
声音が明らかに退屈をしている。
「解決したら、報酬を払うんだから我慢しろ」
自分で言っておいて、そうだったなと少しばかり気分が落ち込んだ。
『むぅ。そもそもさー守備隊に連絡すれば早くないー?』
「確証もないことで兵を動かしてもらうのは流石に気が引ける」
城下守備隊の西区画隊長はリビアの同期であり、私も知り合いではある。なのでなにも気を使うことはないのだが、それでも確実に自分の言うことを信じてもらえると分かっているからこそ安易に相談がし辛かった。
それに運良く区画隊長が捕まるとも限らない。
守備隊は多忙だし、なにより区画隊長は結構現場主義者が多い。訪ねても外に出ていた場合、戻りを待っている間に犯人をみすみす逃してしまうことになりかねない。そうなると次に薬品店で犯人を捕まえる機会が来るのは、新たな犠牲者が出た後だ。それまでは流石に待っていられない。
『そう思うなら張り込まなくてもいいじゃんー』
ラウネがふて腐れたように言う。確証がないと私が言ったからだろう。だが、それは客観的な話だ。
「確証がなくとも、私はお前の言うことをわりと信じてるんだ」
『――へぇ』
「にやにやするな」
『なんで分かったのー』
「気配で」
『気配を読むの苦手なのにー?』
「じゃあ感だ」
『感かー』
ケラケラと楽しそうにラウネが笑う。こいつの笑いのツボは本当によく分からない。
そのときだった。薄闇の中から
若い男性だ。どうやら私の潜んでいる路地側の道ではなく、奥のほうからやって来たらしい。男性は少しばかり辺りを見回すと、薬品店の中へと入っていった。
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