8-5.遭遇
「ここまで来れば大丈夫だろう。」
チャックはそう言った。俺もシルヴィアももうヘトヘトだ。
「その根拠は?」
シルヴィアはゼイゼイ言いながら質問する。
「街中での私闘は厳禁だ。もし破れば周りの奴らから制裁を喰らう。それに、あいつが王都のやつだとバレたらあいつは叩き出される。人混みではこっちが有利だ。」
「なるほど。」
ひとまず安心しても良さそうだ。
「助けていただいてありがとうございます。」
シルヴィアが礼をしていたので俺も頭を下げる。
「気にするな。これで貸し借りなしだ。」
そう言って男はニッと笑った。
「えっと、チャックさんでいいですか?」
一応呼び方を聞いておく。頷いていたのでそれでいいのだろう。そのまま話を進める。
「チャックさんは何されてるんですか?」
「俺はここで冒険者としてダンジョンに潜ってる。職業は剣士だ。」
「剣士なのにハンマーを?」シルヴィアが問う。俺も気になった。
「俺の所属するパーティーというかギルドの方針として、主にダンジョンの下層でレアな素材を持ち帰るってことをやってるんだが、剣みたいな刃物は刃こぼれしたりするからな。ちょっと20層に行くくらいなら刃こぼれしたら修理しに帰るってのができるが、50層60層ともなるとそうはいかない。刃こぼれした剣で帰るなんて自殺行為だし、研ぎ屋を連れて行くわけにもいかないからな。だが、ハンマーは刃こぼれしないし、薄い壁ならぶち破れる。ダンジョンに持って行くには最適だろ?」
誇らしげに説明する。ハンマーがダンジョンに最適なのかはどうか知らないが。
「そういえば、この前地下で倒れていましたけど、下で何かあったんですか?」
ふと思い出して質問する。途端にチャックの顔が曇った。
「できれば聞かせてほしい。何があったのか。あなたほどの剣士がなぜあそこまで手ひどくやられた上に一人で行動していたのか。」
シルヴィアも質問する。
「それは…まだ言えない。」
チャックは顔を背ける。何か恐ろしいことがあったのか。言いたくないなら下手に詮索すべきではない。
「そう。変なこときいてごめんなさい。」
シルヴィアは引き下がった。
「すまんな。色々あって、今は話したくない。」
先ほどまでの快活な性格は影を潜めていた。
「あっ、そうだ。今私たちダンジョンに潜ってしばらく生計を立てないといけないんですけど、メンバーが欲しくて。よければ誰か紹介してもらえませんか?そんなに長い期間チームを組むわけではないんですけど。」
場の空気を変えるため話を変える。
「そう。一応パーティー申請はしているんです。まだギルドへの所属はしてませんが。」
シルヴィアも便乗して補足してくれた。それをきいたチャックはしばらく考え込んだ。
「短期間でいいなら俺が入ろうか?今俺はフリーだから。俺で良ければだけどな。」
「いいんですか?」
俺とシルヴィアが同時にきき返す。
「ああ、訳あって俺も仲間を探してた。」
「いいんですか?シルヴィアさんはともかく俺弱いですけど。」
昔無料オンラインゲームでレベルが低いという理由でチームからキックされた思い出が蘇る。
「まあ、後10年一緒にいるってんなら実力差の問題は大きいかもしれない。だが、短期間ならそれほど関係ないし、なによりチームに大事なのは強いかどうかじゃない。信用し合えるかどうかだ。」
チャックはキメ顔でそう言った。
「じゃあ、気が変わらない内に申請に行こう。」
そう言ってシルヴィアは歩き出した。
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