第131話 少年期 Cランク冒険者へ

「シオン様、やりました!」

 ワイバーンが動かなくなったことを確認してフェリが声を上げる。

「これで私たちCランク冒険者ですよ!」

「うん……」

 フェリは不思議そうに首を傾げる。


「シオン様、フェリさん、おめでとうございます」

 戦いの一部始終を見ていたレアーネが2人に近づいていく。

「ありがとうございます」

 誇らしげに胸を張るフェリに対してシオンは神妙な表情のままだ。


「シオン様? どうかしましたか?」

「なんか実感湧かなくて……」


 ワイバーン討伐はスムーズに進んだ。道中の移動、巣の発見、先制攻撃。それらがあったからこそ、ほとんど苦戦することなく勝利を上げることができた。もし先制攻撃が上手くいかずワイバーンが空中を飛び回っていたとしたら、こんな簡単に勝利を得ることはできなかったんじゃないだろうか。


「優位に展開が進んでましたからね……」

 シオンの様子から察したようにレアーネが口を開く。

「レアーネさん」

「なんでしょうか?」

「もし、ワイバーンが空を飛べる状態だったら勝てたと思いますか?」

「そうですね……」

 レアーネは2人の動きを思い出すように少し考え込む。


「少なくともここまで楽勝にならなかったと思います」

「そうですよね……」

「ええ、今回はかなり上手くことが運んだ印象です」

 やっぱりそうだよね。調子に乗らないように気を付けないと……。


「ですが、こうして上手く進んだのはシオン様とフェリさんの行動の結果ですよ」

「えっ?」

「戦闘だけが冒険者に必要なスキルじゃありません。作戦、その場の状況判断、事前の準備」

 レアーネは1つ1つ指を折っていく。


「そう言った部分はこれから先ランクを上げるために必要になってきます」

 彼女はそこまで言うとふっと表情を緩める。

「今回2人が楽にワイバーンを倒せたのはそういった部分が良かったからです。だから誇っていいんですよ」

「レアーネさん、ありがとうございます」

「いえ、それよりそろそろワイバーンの素材を剥ぎ取って下山しましょう。血の匂いにつられて他の魔物がこないとも限りませんし」

「はい」


「シオン君、おめでとう。これでCランク昇格です」

 ワイバーンの部位を提出した途端、普段あまり表情を変えないニーナがふっと微笑む。彼女の言葉に近くにいた受付嬢たちが一斉に視線を向けてくる。


『うそっ、あれってワイバーンの素材よね!』

『まだ12歳って聞いてるけど』

『それでCランク昇格でしょ、ここ数十年でトップクラスのスピードじゃない?』

 ひそひそと彼女たちが話す一方で、居合わせていた冒険者たちも一応に驚いた様子を見せている。


『あのガキワイバーンを討伐したのかよ』

『将来有望だな……』

『ねぇ、あの子の後ろにいるのってBランク冒険者のレアーネじゃない?』

『なんだよ、じゃあ彼女が討伐したんじゃないの? Bランク冒険者ならワイバーンなんて余裕だろ』

『いや待て、それより彼女はエルベン家に目を付けられて全く動けなくなってたんじゃなかったか?』


 無遠慮に向かってくる視線で少々居心地が悪い。

「……場所を変えましょうか」

「お願いします」

 ニーナの提案に乗って一行はギルドの2階にある一室に向かっていった。


「すいません、私が声を上げなければ……」

 部屋に入った途端、ニーナが申し訳なさそうに口を開いた。

「ニーナさんが悪いわけじゃないですから気にしないでください」

「ありがとうございます」


 そもそも彼女は大声を出したわけでもない。ただ近くにいた受付嬢たちや冒険者たちが耳ざとく反応した。それだけの話だ。


「それとフェリさんもCランク昇格おめでとうございます」

「ありがとうございます」

 恥ずかしそうにしつつもフェリがぺこりと頭を下げる。恐縮しているように見えるが、尻尾が揺れて喜びを隠しきれていないところが可愛らしい。


「これでお2人ともCランク冒険者です。シオン君は12歳でCランクになったからもしかしたらスポンサーがつくかもしれませんね」

「そうなんですか?」


 セシリー先輩からロッソさんと交渉する前にそんな話を聞いたことがあったけど、にわかには信じられない。


「はい、ここ数年遡って12歳未満でのCランク冒険者昇格は数えるほどしかいませんから間違いなくお声がかかると思います」

「そうなんですね……あの、既にスポンサーがついている場合は断ったりしても大丈夫なんですよね?」

「もちろん問題ありませんよ。シオン君はブレッチア商会と既に契約を結んでいますもんね」

「はい」

 レアーネさんを救うため、万能薬を手に入れる過程で契約を結んでいるのだ。


「でしたら、私の方で断っておくようにしますか?」

「そんなことできるんですか?」

「はい、スポンサー契約をする際に専任担当者がいる場合は必ず話を通す必要がありますので」

「じゃあお願いします」

「わかりました」

 ニーナが小さく頷いた。


「ただいま」

「シオンお兄さま、お帰りなさい!」

「わっ!」

 ニーナと別れ屋敷に戻った途端、リアが物凄い勢いでシオンに抱き着いてきた。


「リア、服が汚れちゃうから離れてくれる?」

「嫌です!」

 きっぱりと拒絶されただけにとどまらず、ぐりぐりと頭を押し付けてくる。

 無理やりはがすのは可哀想だしどうしたものか……。


 結局、シオンがお風呂に入るまでリアが離れることはなかった。


 

 

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