6. ◇ツッコミどころの多いデータ

「まずは、一番大事なシステムカードについて説明しておくよ。と、言っても心の中で念じるだけで出てくるんだけど。こんな風にね」


 その言葉通り、ハルヨシさんの手には、いつの間にか白いカードが握られている。


「自分のステータスや、所持しているエルネ、借金の状況なんかはこのカードで確認できるよ。君も……ええと、名前を聞いてもいいかな?」

「あ、失礼しました。俺は早川仁夜です」

「ありがとう。ジンヤ君も試してみるといいよ」


 ステータス確認はまさに今、俺が求めていた機能。拒否する理由もないので、ハルヨシさんの指示に従う。システムカードの呼び出しを強く念じると、あっさりと俺の手元にもカードが出現した。ただし、俺のカードは緑色だ。


「カードの色が違うみたいですが」

「ああ、うん。エルネマインには身分制度があるんだ」


 カードの色は所持者の階級を示しているらしい。平民階級が白、準平民が緑、そして、奴隷が黒。平民の上には貴族階級があって、その中でも細かく別れているそうだ。


「準平民というのは?」

「ここでは、借金があると問答無用で奴隷身分に落とされてしまうんだ。でも、転生して五年間は借金があっても、平民として扱われる。それが準平民だ」


 借金で即奴隷落ちか。なかなかシビアな世界だな。


 キャラメイクでギリギリまで強化していれば借金は2000万エルネ。奴隷落ちを避けるには一年あたり400万エルネの返済が必要となる。そう考えると、なかなか大変そうだ。


 とはいえ、不可能ということはないのだろう。ハルヨシさんのシステムカードは白。つまり、平民階級というわけだ。見た目から判断すれば彼の肉体年齢は二十代前半。おそらく、転生してから五年も経過してはいないはず。


「ハルヨシさんは平民階級ですよね。転生はいつ?」

「僕はほぼ三年前だね。ありがたいことに、今の仲間には恵まれているんだ。運が良かったってのもあるけど、ついこの間、完済できたよ」


 そう言って笑うハルヨシさんの顔に憂いはない。過去に何かあったのかもしれないが、現状は上手くいっているのだろう。


「ジンヤ君が気にしているのは、五年で借金返済が可能かということだよね? 結論から言うと完済率は50%ぐらいだ」


 残り半分は奴隷落ちか、もしくは死か。いずれにせよ、異世界ファンタジーは愉快なことばかりではないということだ。


「おっと、社会制度についてはまた道すがら教えてあげるから、まずはカードについての説明を終わらせようか」


 暗くなってしまった雰囲気を振り払うかのように、ハルヨシさんは殊更明るい声で話題を変えた。まずはキャラメイクの結果を知りたい俺としても異論はない。しばらく説明を聞いたことで、システムカードの使い方は概ね理解できた。


 端的に言うとゲーム的なインターフェースを呼び出す機能のあるカードだ。また、財布代わりにもなるらしい。ダンジョン探索者の主な収入源は魔物を倒したときに得られるクレアテ結晶体と呼ばれる塊なんだとか。システムカードにはその結晶体をチャージする機能がある。買い物の時には専用の端末にシステムカードをかざすことで決済できるそうだ。


「ステータスを確認してみるといいよ」


 そう言うと、ハルヨシさんは少し離れた場所に立った。おそらく、ステータスを見てしまわないようにという配慮だ。


 ステータス表示を望むと、システムカードは変形して、キャラメイクのときの端末のような形状になる。表示内容もほぼ変わらない。そこに映る俺の戦闘職業は――盗賊だった。


 盗賊。残念ながら戦闘向きとは言えない職業だ。ダンジョンに存在するという罠の解除や、魔物の気配を察知する能力に長けているので、チームとしてダンジョン探索をする場合には一人欲しい職業ではある。が、信頼できる仲間がいない以上、単独で力を発揮できる戦闘職業が望ましかった。


「ん?」


 だが、その表記に違和感を覚える。愛莉たちのおかげで、標準的な戦闘職業についても概ね把握していた。その記憶によれば、盗賊の性能はこんな感じだ。



◆ 盗賊 ◆ ☆

 

* 職業特性 *

盗賊技能+++

気配察知+


* 成長傾向 *

生命:D  マナ:F

筋力:C  魔力:F

体力:C  精神:F

器用:S  抗力:E

敏捷:S  幸運:B



 だが、俺のステータスに表示されている盗賊は違う。



◆ 盗賊 ◆ ☆

 

* 職業特性 *

盗賊技能+

魔術技能+

特殊スキル:盗む

特殊スキル:幻惑


* 成長傾向 *

生命:C  マナ:B

筋力:B  魔力:B

体力:C  精神:C

器用:S  抗力:C

敏捷:S  幸運:S



 名前こそ盗賊だが、これは大怪盗の表記になっていないか? 詳しく見ていなかったので成長傾向までは覚えていないが、職業特性に【盗む】や【幻惑】という特殊スキルがあったのは間違いない。


「待てよ? だったら、借金額は……?」


 大怪盗に設定すると、それだけで借金が1200万エルネ増えた。本来なら、キャラメイク制限にひっかかって設定を完了できないはずだ。


 画面を切り替え、現在の借金額を表示させる。そこに並ぶ数字は――――4760万。


「マジかよ……全然修正できてないじゃないか」


 制限ギリギリのキャラメイクで借金は2000万エルネ。だというのに、俺はその倍以上の借金を背負っている。明らかにバグだ。


「スキルは……ああ、職業の特殊スキルか」


 続いて取得済みスキルの一覧を見てみると、そこに表示されたスキルは二つ。


【盗む Lv1】

【幻惑 Lv1】


 残念ながら、大怪盗の職業特性に記載があった特殊スキルのみだ。それ以外には記載がないので、実質的にはキャラメイクでのスキル取得はゼロだということ。これは特性についても同様だった。予想はしていたが、実際にその事実を確認するとショックが大きい。


「スキルも特性も取得していないのに何でこんな借金が……待てよ?」


 4760万。この数字には何となく覚えがある。御使い男に端末の不具合を報告したとき、俺の借金表示がちょうどこの数字だったはず。


 あのときは、能力資質を最大まで上げて、戦闘職業を大怪盗にした状態だった。もしかして、俺は今、その状態になっているのでは?


 画面を切り替えて、俺自身のステータスを確認する。



名  前:No Name

戦闘職業:盗賊

レベル:1

生命: 92/ 92

マナ: 86/ 86

筋力: 42 魔力: 42

体力: 35 精神: 36

器用: 53 抗力: 35

敏捷: 54 幸運: 53



 駄目だ。資質表示がないので、どうなっているのかわからない。ただ、マナや魔力が高めの能力傾向から判断するに、戦闘職業が本来の盗賊とは異なっているのは間違いなさそうだ。


――――――――――――――――――――――

本日以降、基本的にはこの時間に投稿します!

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