第204話 巡回③
「・・・・・・・・佐藤です。」
「へぇー、佐藤さんって言うんですね!あれ?そんな人居たっけなぁ?」
「あ、実は私も今日が初めての警備作業でして、昨日はシフトが無かったんですよね!!ホント、この仕事キツ「黙れ侵入者、お前が変装した警備員なのは分かっているんだよ」ッ⁉な、何を言って「黙れと言ってるんだ!」ッッ⁉チッ」
再度、警告を促してみるが、相手は舌打ちをしたのみで、こちらを睨みつけながら警棒を右手に、右足を前に出し、半身の状態で腰を低くする構えを取った。
体格が良いせいか、どっしりとして、様になった格好にも思えるが動きは素人。ただ単に、それっぽい構えを取って威嚇しているだけだろう。
真田は、体の重心が真ん中に来るよう意識しながら左足を少し下げ、僅かに腰を低くする。
「クソッ、何でバレたんだ!この前は、上手くいったのに!!」
「・・当然だ。お前のその靴、登山用だろ?どうせ、登り降りする時にスパイクが効いて楽だから、その靴にしているんだろうが、基本、室内を見回っている警備員がそのような靴を履いて来る訳無いだろ。」
「なっ⁉そんな理由で!」
「そもそも、今日担当する警備員との顔合わせに、お前みたいな奴は居なかった。俺は、人の顔を覚えるのが、人より得意でね。お前、馬鹿だろ。」
「はぁ⁉クソ、クソ、クソッ!!!!はぁ、はぁ。」
相手から、気になる情報が飛び出て来たが表情を崩さず、仕掛けるタイミングを計る。
ちなみに、警備員の顔合わせなどは計画されておらず、真田個人が高太郎に頼んで、この時間に担当している警備員の顔写真を見せて貰っただけだ。まぁ、顔を覚えるのは本当に得意なのだが。
どんどん顔色が悪くなっていく目の前の男。
面倒だ、いっそのこと、相手から仕掛けられた方が楽なのに。
そう考えていた時、相手が決壊した。
「捕ま、捕まりたくはねぇ!やる、やってやる!しゃらぁ!!」
「ふっ、シッ!」
「ガァッ⁉ガッ!」
真田の頭を狙い、上から叩きつけられるように振られた警棒を、僅かに体の重心を右側に傾けて躱すと、警棒が顔のスレスレを通ると同時に、相手の鳩尾部分に軽く掌底を当てる。
そのまま警戒を解かずに後ろへ下がり、男との距離を開けて視線を外さないように動く。
懐かしい。俺も海外遠征の時に、初見でこれを攻撃を喰らって時は、立てなかったなぁ。
「ゴホッゴホッ!!・・痛ぇ・・・・痛ぇ・・ゴホッ・・・殺・・「チャキッ」・・・殺す!!」
鳩尾を衝かれ、苦しそうに蹲っていた男が突如立ち上がると、こちらに向かって突進してくる。よく見ると、その手には刃渡り10センチほどの折り畳みナイフが握られていた。
これは、真田も予期していない事態だったのだが、培ってきた経験が冷静さを取り戻してくれる。
まず、真田が観察した限り、衣服の隙間などに折り畳みナイフを隠している素振りは無かった筈だ。それらしい膨らみすら感じられなかったのだから。
次に考えられるのは、衣服のポケットに入れていた可能性だ。ポケットの場合、多少膨らみを見つけても、鍵や携帯電話を入れていることがほとんどの為、それほど気にはならない。しかし今回は、男が蹲ってから一度も目を離していない為、男がポケットに手を入れるような仕草を、一度もしていないのは明確だ。
そう考えた時、折り畳みナイフを隠すことが出来て、蹲りながらも真田から気付かれずに折り畳みナイフを取り出せる場所はたった一つ、男性が履いている登山靴の中だ。
「なるほど。どうしてそんな場所に隠していたのかは分からないが、完璧な不意打ちだ。ただ、相手が悪すぎる。「ススッスッ」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます