第6話 悪役令嬢の交渉
セリーヌはまさか、私から二人きりで話がしたいと言われるとは思っていなかったらしく驚きの表情を浮かべた。
「駄目だ!お前のような悪女と愛しいセリーヌを二人きりで話をさせるわけにはいかない!」
反対するのは当然アイザック。
「アイザック様……」
セリーヌは助けを求めるか如く、アイザックにしなだれかかる。
「ほら見ろ。セリーヌはこんなに怖がっているだろう?よしよし……可愛そうに。大丈夫だ、絶対にあんな女と二人きりにはさせないからな」
アイザックはセリーヌの肩を抱き寄せ、頭を撫でる。ここで本物のアンジェリカなら嫉妬に狂って、声を荒げたかもしれないが……。
「おい、見ろよ。平然としてるぞ」
「あれほどアイザック様に執着していたのに……」
「何だか様子がおかしいな……」
周囲で見ている学生たちのヒソヒソ声が私の耳にまで届いてくる。
私はそんなギャラリーたちを気に掛けることなく、セリーヌとアイザックに声を掛けた。
「大丈夫です、ご安心下さい。何もセリーヌと二人きりにさせて欲しいとは言いません。ただ、二人だけで話がしたいだけです。何なら私が手出しできないように、見張って頂いても構いません。ただし、会話が聞こえない距離まで下がって頂きたいだけです」
「何故、お前とセリーヌだけで話をさせなければならないのだ?」
アイザックは私を睨みつけている。
「アイザック様、私怖いです‥…」
セリーヌは私に何かされるとでも思っているのだろうか?怯えた様子でアイザックにしがみついている。
けれど、その様子から私は確信した。
間違いない。セリーヌは私と同様転生者だ。そして……恐らくここがゲームの世界だと知っている。
本物のセリーヌなら、どんなにアンジェリカから嫌がらせを受けても彼女を怖がる素振りなど一度も見せたことが無いからだ。
とにかく、今はセリーヌが転生者かどうかを確認した上で二人きりで話をしなければ……私はこのまま断罪されてしまう。それだけは何としても死守しなければ!
そこで私は最終手段に打って出ることにした。
「セリーヌ。聞きたいことがあるのだけど……どうやらトゥルーエンドまで辿り着くことが出来たようね?」
「え⁈な、何故そのことを……!」
途端にセリーヌが驚愕の表情を浮かべる。
やはりそうだった。私の思った通り、セリーヌは私と同様転生者だったのだ
実はこのゲーム『ムーンライトの騎士』はとても難易度の高い乙女ゲームであり、少しでも選択肢を謝ったりミニゲームで失敗すればトゥルーエンドを見ることは出来ない。
そしてそのトゥルーエンドとは、今まさにこの場面。
ヒロインであるセリーヌがアイザックと結ばれ、アンジェリカが『ルーラル』に追放されてしまうことなのだから。
「何だ?そのトゥルーエンドとは?」
アイザックが尋ねて来た。当然攻略対象であるバートやクレイブも不思議そうに首を傾げている。
「さぁ?そこにいるセリーヌは御存知のようですけど?」
私は肩をすくめた。すると……。
「アンジェリカ様!どうか私と二人きりで話をさせて下さい!」
セリーヌが慌てた様子で手を上げてきた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます