第2話 現世消滅!?

季節は5月、高校2年生の私たちには楽しみがあった。それは修学旅行だ。今年、私たちの高校は九州へ行くことになった。


しかも移動は飛行機!! うちは平凡的な庶民家庭だが、まぁ、遠くまで旅行に行くことはなくて、恥ずかしながら飛行機という乗り物は初体験なのだ。


『へへへ、九州に遠征だ! 』


そんな言葉を口にするが、それはもちろんおいしいもの食べまくってやるという意味だ。


その意見に杏美ちゃんも異議を唱えず、2人で『おいしいものリスト』を作ると、そこに評価を入れまくった。


印象深かったのが佐賀で食べたエイリアンのように恐ろしい顔をしたワラスボだ。


杏美ちゃんはその形相に背中を少し噛んだ程度だったけど、私は当然のごとくかぶりつく! なんと!見た目とは違って普通においしい魚の味だった。


自分のボキャブラリーのなさに土産話でなんと言えばいいのだろうと考えていると、『見た目はグロいけど香ばしくておいしかったね』と杏美ちゃんが言う。その言葉、いただきます!


しかし私たちの中ではワラスボのインパクトもあんかけ熱々の皿うどんも将又辛明太子も最終的には福砂屋のカステラに持っていかれた感じだった。


そんな美食の九州遠征を終え、いや、友達とのかけがえのない思い出をたくさん作って、帰りの飛行機に乗る。


飛行機の窓から手を振る空港スタッフに旅の終わりの寂しさを感じた。


離陸し始めてグングンと上昇すると、窓から見る長崎がだんだんと小さくなっていく。


となりの杏美ちゃんを見つめ、『終わっちゃったね』と何となく、目で語り合った。


ベルト着用のランプはまだついている。立ち歩けば客室乗務員に注意を受けるはず。それなのにその青年は通路に立ち私を見ていた。


彼は何かを言っている。


「これで天秤は釣り合った」


その言葉が直接頭の中に響くと、青年の目は白くひかり、その瞬間に全てが激しい光に溶けていった!


「キャァァ!!」


「ちょっと、茜! 急にどうしたの? 大丈夫? 」


私の叫びに客室乗務員も駆けつける。


「お客様、どうかなさりましたか? 」


私は震える手で杏美ちゃんの腕を掴む。


「杏美ちゃん。杏美ちゃんだよね」


「うん。そうだよ。どうしたの、茜? 」


周りを見渡して先生や他の生徒を確認すると、落ち着きを取り戻そうと深呼吸をした。


「ごめんなさい。大丈夫です。ちょっと怖い夢を見てしまって」


あまりにも強引な嘘だった。


杏美ちゃんは『なぜそんな嘘をつくの? 』と思っているであろう。


「杏美ちゃん、ちょっと乗りなれない飛行機に少しパニくったみたいなんだ。格好悪いから夢ってことにして」と言い訳をした。


思い出すだけで足がすくみ腕の震えが戻る思いだ。


あの一瞬、飛行機が光に包まれた。杏美ちゃん、学校のみんな、客室乗務員が消滅してしまった。そして飛行機まで消滅すると私は空中から真っ逆さまに地面へ激突した。


それでも生きている私が身を起こすと、そこは東京であり、母の故郷山形でもあった。さらには唐津市の町、私の想い出の深い場所の全てに私がいたのだ。再び激しい白光に包まれると、そこには砂だけが残っていた。


何もないただの砂だ。


私はあの砂漠を知っている。あの何も感じない砂。あれは異世界で「秩序の加護者」トバリの「審判の瞳」にさらされ消滅したデュバークの砂そのものだった。


私はまたとんでもない事が異世界で起きているのではないかと焦る思いだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る