第十九話 メスガキ男の娘ボクっ子と放課後デートをした件
「ボク、そんなに変かなあ?」
ここ数日、授業中、休み時間、俺は
原作と同じくボクっ子男の娘なのだが、なぜかメスガキが追加されているのだ。
おそらくこれは俺が関わったことによるタイムパラドックス的なあれなのだろう。
よくわからんが、たぶんそうだ。
原作と違うので俺の興味を大いにそそっているが、あまり話すことができない。
一線を越えようとすると、燐火に制止され、ピピピと電子音が何処からともなく聞こえてくるからだ。
「知宇はほんま変なやつやなあ。でも、かわえーわー」
「えへ……知宇さん……私よりちっこい……」
「もう! ボクをいじめないでよ~!」
燐火とはもちろん身長差がある。
未海と知宇はそこまで変わらないのだが、ほんの少しだけ小さいのだ。
そのため、未海は嬉しそうに頭をぽんぽんする。
えへえへオタクとボクっ娘はそれなりに刺さる。
何とは言わないが、刺さるのだ。
「充さん、見すぎですよ」
「え、は、はい……」
俺が危険な方向に行く前に、ひよのさんにも怒られる。
だが今日俺は決意していた。
知宇という生態系、いや、生命体をじっくり観察しようと思っている。
それこそすべてを――把握したいのだ。
放課後の鐘が鳴り響く前、知宇に連絡をしておいた。
『ちょっと用事があるんだが、裏口に来れるか?』
俺は用事があると全員の誘いを断り、裏口で待っていた。
「遅いな……」
もしかして誰かに見つかった? そんなことを考えながら待っていると、むぎゅっと抱き着かれた。
それも足元に。
ちっこくて、可愛くて、上目遣いの知宇だった。
「お待たせ、ボクのこと待っててくれたんだね。もう帰ってるのかと思ったよお……」
「俺から誘ったのにそんなことしないよ」
「ふふっ、優しいねえ♡」
ふむ、可愛いヤツだ。
しかし誤解はしないでほしい。
俺はあくまでも知宇生命体を調べたいだけで、邪な気持ちがあるわけではない。
原作とは違う属性が追加された、彼女、いや彼を隈なく調べ尽くしたいだけなのだ。
これは――攻略である。
「どこいくのお?」
「ああ、ちょっと待つんだ」
周囲をチェック。五感を使わないと、奴等の手から逃げ出すことはできない。
視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚を使い検索したが、誰の気配もない。
「実はちょっと知宇と喋りたくてな」
「そうなの? ボクもだよ!」
ういやつめ。苦しゅうない。
「とりあえずここから離れようか」
「どこ行くの?」
「着いて来てくれ」
◇
「ざあこ♡ ざあこ♡」
「く……」
「ばあか♡ ばあか♡」
「くう……」
都内某所のゲームセンター。
昔懐かしいブロックが落ちてくる対戦ゲームで、知宇にボコボコにやられていた。
落ち着け俺、こんなことをしに来たわけじゃないはずだ。
「よし、出るぞ」
「え!? 何しに来たの!?」
「お前にその文言を言わせるためだ」
「ふにゅう……。藤くん、どうして罵倒されるのが好きなの?」
「いや、意外にも好きな人は多いんだ。だがもういい。いくぞ」
「はあい♡」
サービスは終わった。
ここからは真面目に、
とはいえ別に変なことをするわけじゃない。
二人で色々と喋りたい、つまり仲良くなりたいだけだ。
一応は男同士だし、気兼ねなく仲良くしたいなと思ってる。
実は何度か悪童くんも誘ってるのだが、「今日はBLと遊ぶんですわ、すんません!」と断られてしまう。
つまり言い換えれば、俺は寂しいだけだった。
ゲームセンターで一通り欲望を抑え外に出る。
それなりに人が多いところなので、やりたいことは何でもできる。
まずは小腹が空いているので、軽くご飯でも食べようか。
「知宇、お腹空いてるか?」
「ぺっこぺこだよお……。何か食べる? ボク、あんまり外食したことしてみたい!」
そういえば引き籠りだったな。といっても俺もあんまりしたことはないが……お、いいのがあるな。
「知宇、タコ焼きなんてどうだ? テーブルもあるし、座って食べようぜ」
「タコさん! 食べよ食べよー♡」
タコ丸焼きと書かれた看板で、8個セットを注文。
売店の親父さんは優しく、俺たちを見て微笑んでいた。
何か、勘違いされてないか?
「ほいよ、タコ焼き三十個だ!」
「ん……? いや、確か八個を……」
「彼女さんが可愛いからねえ、サービスさ!」
彼女さん……? その視線は、知宇に注がれている。
そういえば女装しているのだ。そう思われても仕方ないか……。
知宇は嬉しそうに微笑んで、背伸びしながらタコ焼きを受け取る。
「ありがとー! あ、えーと……ばあか♡ ばあ――」
「ちょっ、何言ってんだ知宇!? いくぞ!」
「ふええ? で、でも藤くんが好きな人は多いって――――」
とんでもないことを言い放ちそうだったので、思わず掴んで引っ張っていく。
去り際、もちろん親父さんにお礼入ったおいた。
「な、なんだ? しかし、ばあか♡ か……なんか、いいな」
もしかしたら、一人の性癖を壊したのかもしれない。
◇
公園に移動して、さっそく二人でたこ焼きを頬張っていた。
知宇は意外にも大食いで、ぽいぽいと口に入れていく。
俺は猫舌だったので、一つ食べるだけでも精一杯だった。
それを見かねた知宇が、タコ焼きを一つ拾い上げ、ふーふーと冷ます。
「藤くん、ふーふーっしたから、食べる?」
「――待ってくれ」
五感を使う。
音はない。燐火の声もない。ひよのさんの気配もなし。
念の為、地面に耳を立ててみた。足音もない。
「よし、あーん」
「はい、あーーん」
パクリと頂く。美味しい。
ちょっとフェイトをかけたが、やはり現れなかった。
つまり無敵!?
「タコがおっきくて美味しいな」
「うん、おっいきいね♡」
ふう、落ち着け。落ち着くんだ、藤堂充。
「そういえば、知宇はどうして女装してるんだ?」
「ボク? うーん、なんでだろう。可愛いから……かな? 朝起きたらいつも思うんだよね。今日は男の子の制服がいいなあって、でも、最近は女の子がいいなあって、だから特に理由はないかも。ボクからすれば皆が不思議だよお!」
なるほど。知宇は自由に生きているのか。
性別という概念を超えて、自分の好きなように感情に素直に。
確かに変なこだわりなんて必要ないのかもしれない。
そんなことを考えていると、知宇が一段と真面目な顔になる。
そして、俺の手を掴んだ。
「どうした?」
「ボク、本当に感謝してるんだよ。藤くんがいなかったら、まだ外に出てなかったと思うの」
「……前にも言っただろ? 俺は自分と知宇を重ねていただけだ。そんな感謝されるような大したことはしてない」
しかし知宇は首を横に振る。
「藤くんはとってもいい人だし、感謝されることをしてる。だから、ボクは藤くんが好き。ボクは、藤くんが望むことも、したいことも、全部してあげたい。――ねえ、藤くん」
すると知宇は椅子に座りながら、精一杯背を伸ばして唇を重ね合わせようとしてきた。
少し肩が震えて、頬が紅潮している。
頑張って――いるのだ。
唇に青のりが付いているし、ほんのりソースの香りもがするが、それはさして問題じゃない。
頑張っている彼女に恥をかかすなんて、男の役目じゃないだろう? あ、彼だっけ。
「知宇……」
「藤くん……」
俺たちは唇を重ねあわせ――られなかった。
「はい、ストップやー」
燐火が、真ん中に手の平を置いていた。
ソース型の唇の跡が、燐火の手の平に付着する。
「り、りんか!?」
「燐火ちゃん!?」
その後ろから、ひょいと顔を出す未海。
「だ、だめです……」
「おかしいな思ってずっと着けてたんや。まあ遊ぶくらいはええわ思たけど、流石にそれはないで」
お叱りを受けて、しゅんとなる俺と未海。
まあ、確かに。公衆の面前だしな。あれ、そういうことじゃないか?
しかし、ひよのさんがいないのは珍しいなと思った瞬間「いますよ」と声が聞こえた。
横を見ると、座ってたこ焼を食べている。
「い、いつのまに……」
「ずっと前からです」
怒ってはいないようだった。いや、たこ焼を勝手に食べている所を見ると怒ってるか。
未海も悲しそうにしているが、流石に俺たちが悪い。いや、悪いか? 悪いか……。
「ほな充っち、うちクレープなー!」
「わ、私はタピオカで……」
「は、はあ!? なんでだよ! 未海まで……」
「のけもんにしたんやから、当たり前やろ!」
当たり前か……? まあ、でものけもんにはしようとしたか。
「私は抹茶フラペチーノキャラメルコーン全カスタムでお願いします」
「ひ、ひよのさんまで……」
まあいい。今日は機嫌がいいのだ。
知宇からお礼を言われ、昔の自分を救えた気分だからな。
「よし、仕方ないな。奢ってやるよ」
燐火、知宇、ひよのさんが嬉しそうに微笑む。
しかし冷静になってみると、財布にそんなお金あったっけ……。
ポケットから武骨な黒財布を取り出し、中身を確認する。
一円、二円、三十円、終わり。
「あれ……?」
記憶を思い返すと、そういえばゲームセンターで散財したんだった。
つい、聞きたくて……。
その財布を、いつのまにか未海が覗き込んでいた。
「藤くんのお財布、ざあこ♡ ざあこ♡」
まあ、こんな日もあってもいいか。
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