第17話 次は無いと言ったはずだ

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「……バハムート、あの黒い悪魔みたいなのは何なの?」

『……邪神という悪魔より厄介な奴らだ。気を付けろ主人よ。奴は実力こそ中の下から中の上だが、戦いたくない奴と言われれば、精霊達の中で間違いなく奴の名が上がる。そして何より———あのゼウス様から唯一逃げ仰た邪神だ』

「……っ、あのゼウス様から?」


 ヘラは先程のゼウスの気迫というか威圧感を思い出して首を傾げる。

 目の前のロキという名の邪神も強いが、ヘラからすれば、ゼウスからはロキとは比べ物にならない強者感を感じたからだ。

 しかし、この期に及んでバハムートが嘘を言うわけがないとヘラは考え、取り敢えず逃げた事が事実であると言う認識で剣を構える。


「あれぇ? 君はオレと戦うのかぁ?」

「勿論よ。私はこの国を誇る戦闘貴族のドラゴンスレイ家の長女なの。此処で逃げるわけにはいかないわ」

「素晴らしい心意気だなぁ……流石バハムートを手懐けているだけあるねぇ」


 そう言って妙に納得した様子で、頻りに頷くロキ。

 ロキにもゼウスにも同じ事を言われたヘラは、過去に一体何をやっていたのか、とバハムートに疑惑の瞳を向ける。


『む、昔は少しヤンチャをしていただけだ! それより奴を何とかするぞ! 今回は我も本気を出す』


 バハムートは少し焦り気味に言い訳を連ねた後、威厳を取り戻すが如く先程とは比にならない程の威圧感を纏い、鋭い眼光でロキを睨む。


『まずは———場所を変えるぞ』


 バハムートの言葉にヘラは阿吽の呼吸で魔法を唱えた。


「———《転移》!!」


 一瞬バハムートとヘラ、ロキが光ったかと思うと———武舞台から姿を消した。

    








「ハハッ、意外と懐かしい場所に来たなぁ」

『昔の様に綺麗ではないがな。それに———貴様に昔を懐かしむ余裕があるのか?」


 バハムートはロキを逃さない様に依然として睨みながら不機嫌そうに言葉を吐いた後、膨大な魔力の篭った破壊のブレスが一直線にロキへと向かう。

 そんなブレスを目の当たりにしたロキは———


「昔よりも強くなってるなぁ……まぁ今のオレよりは弱いけど」


 破壊の特性が篭ったブレスを上空へと蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされたブレスは上空で爆発すると、空を覆っていた雲を一瞬にして吹き飛ばし、空が曇りから快晴へと変化した。


『……っ、なら———』


 まさか自分のブレスをこうも簡単に跳ね返された事に驚くバハムートだったが、直ぐに切り替えて翼を羽ばたかせて浮かび上がると、その巨体からは考えられない程の速度でロキへと接近した。


「……っ、私も……!」


 そんなバハムートに感化されたヘラも、全身に漆黒の魔力を纏い———


「疾ッ———!!」


 地面が陥没するのも気にせず、全力で踏み込んで弾丸の如くロキへと突撃した。

 ヘラはバハムートに少し遅れて到着すると、ロキに猛攻を仕掛けるバハムートを援護する様に攻撃の合間を狙って剣を振るう。


「はぁああああああ!!」

「く……ただでさえ竜王の相手をするだけで面倒なのにちょこまかと鬱陶しいなぁ……」


 幾ら邪神であるロキでも、バハムートの魔力を宿したヘラの攻撃を無視することは出来ず、少し苦しそうな顔で応戦していた。

 そんなロキに、バハムートもヘラもラストスパートとばかりに全力で攻撃する。


『主人よ、決めるぞ!』

「分かったわ!」


 ヘラとバハムートは一瞬ロキを離れると、魔力を全開にして音速を遥かに超えた速度でロキに接近すると———剣と鉤爪をロキに突き付ける。



『「———《黒竜王の双撃》ッッ!!」』



 2人の攻撃はロキに迫り当たるかの様に思われた———が、突如ロキが楽しそうに嗤った。


「———《トリックスター》。面白いくらい嵌るねぇ」

『「……っ!?」』


 突如ロキの姿が掻き消え、空間がガラスの様に割れた。

 そしてそれと同時にヘラとバハムートは理解する。



 ———自分達は催眠魔法を掛けられており、ずっと夢の中で空想のロキと戦っていたのだと。


 

 だが同時に、ヘラは違和感を覚えていた。

 

(夢なのに何故、魔力を感じたり痛覚があったり苦しいの……? 何より———夢なのに何故相手の感情も読み取れるの……? もしかしてこれは只の夢じゃない……ロキの能力かしら? それとも……?)


 幾ら考えても答えは当然出でくるはずもなく……ヘラは、自分の仮説を検証するために、嗤うロキに再び攻撃を仕掛ける。

 しかし———


「はい残念」

「いや———まだよっ!」

「!?」


 再び世界が割れ、又もや自分達が夢を見ていたのだと理解する———より早くロキの感情を理解したヘラは、止まらず剣を振り抜いた。

 すると、自身の剣が何かを斬ったという感触が持ち手から伝わってくると同時に、目の前のロキが驚いたような表情を浮かべて、顔をほんの少し苦々しく歪めながら

 

「いったぁ……どうしてこんなに直ぐにバレたのかなぁ?」

「言ってなかったわね。私———相手の感情が読めるのよ。お陰でアンタが焦っているも、面白がっているだけで実際はつまらないと思っているのも簡単に分かったわ。それと同時にアンタが本物だってこともね」


 ヘラの言葉にロキは本気で顔を顰める。

 しかしそれもしょうがないだろう。


 幾らロキが人を騙すのは上手いとはいえ、自分さえも完璧に騙すことなど不可能なのだから。

 つまり———ヘラはロキにとって、天敵とも言える相性の悪い存在だということだ。


 それを理解したロキの表情がスッと消え、何やらヘラを指差す。

 一瞬何をしているのか理解できなかったヘラだったが、ロキの感情が殺意一色に染まっていることを読み、反射的に回避行動を取る。

 そんなヘラの動きと同時に指先から大量の魔力が込められたエネルギー波が放出され、ヘラの肩を少し掠るようにして後方へと飛んでいった。


「くっ……」


 ヘラは地面を転がりながら肩を押さえる。

 少し掠っただけで、今まで感じたどの痛みよりも強く、肩が動かせないほどの激痛がヘラを襲った。


(な、何なのこれ……腕を食い千切られた時よりも激痛が走る……間違いなく何か攻撃に込められていたわね……)


 苦虫を噛み潰したかのような表情のヘラに、再びロキがエネルギー波を放つ。

 ヘラは今度は避けるよりも跳ね返す方がいいと考え剣を構えるが———当たる寸前に目の前を漆黒の魔力波が通り過ぎ、ロキの放ったエネルギー波を消し飛ばし、自分達の身体を守るように魔力で覆った。


『大丈夫か、主人よ。それと体を我の魔力で薄く、均一に覆うのだ。そうすれば痛みが取れる』

「……助かったわ」

『ただ……認めたくないが、我の魔力だけでは奴は倒せない。人の身体に受肉したせいか、昔よりも格段に強くなっている様だ』


 バハムートは無表情のロキを睨みながら、苦々しく呟く。

 しかし、バハムートの話を聞いたヘラは、1度心を落ち着かせる様に目を瞑ると———漆黒の瞳を爛々と輝かせて言い放った。


「でも———私は絶対に逃げないわ。此処で私が逃げたらこの国の民が大勢死んでしまうもの」

『ククッ……ガッハッハッハッ!! それでこそ我が主人だ! 奴に一泡吹かせてやろうぞ!』

「ええ、勿論よ!」

「無駄な話し合いは終わったかな? ならとっとと死ね」


 ロキは問答無用とばかりに指先どころか、自身の周りに球体の魔力を浮遊させたかと思うと、そこから同じ様なエネルギー波が何重も発射される。

 その事に驚くヘラとバハムートだったが、即座に全身を破壊の特性が付与された魔力で守る。

 更にそのままロキの下に駆け出すと、エネルギー波を最小限の動きで急所を外して受けながらも前に進み———


「捉えたわ———はぁああああああ!!」

「吹き飛べ———グルァアアアアアア!!」


 ヘラは身体強化に回していた魔力も文字通り残された全魔力を漆黒の剣に込めて全身全霊で振り抜く。

 バハムートも己の残りの魔力を凝縮して破壊のブレスを放つ。


 莫大な魔力の篭った斬撃とブレスがロキに迫る。

 そんな2つをロキは無機質な瞳で捉えると———

 

「———くだらない」


 ロキは先程よりも更に魔力の篭ったエネルギー波を放ち、ヘラとバハムートの最後の一撃を打ち消した。


「……っ、届かなかった……ッ」


 ヘラは、漆黒の魔力の花びらが空から舞い落ちるのを見ながら、最後までロキに届かなかった事を悔やむ。


「私は……この国で最強でないといけないのに……」


 自分の強さだけが、ヘラと家族を結ぶ、ドラゴンスレイ家と名乗れる唯一の取り柄だった。

 しかし、自分の力では目の前の邪神には敵わないどころか、向こうが本気で戦っていたのかすら分からない。


 ヘラは魔力切れによる疲労感で意識を朦朧とさせながら、目の前に映る巨大な魔力塊を見上げる。

 そこにはロキが冷酷な瞳で此方を見つめていた。

 

「もう終わりだ。分体が殺された原因も探さないといけな———ッ!?」


 突如———ロキの頭上にあった巨大な魔力塊に突っ込む光が現れる。

 その光は雷鳴を轟かせ、辺りに雷電を撒き散らしながら一直線に魔力塊へ突撃し、一瞬にして魔力塊を突き破ると———



「カイ———次は無いと言ったはずだ」



 ロキに意識を奪われたカイを、雷電を纏った拳でぶん殴った。

 カイは顔面をぶん殴られて派手に吹き飛ぶ。


 そんなカイを見ながら———シンは怒りを滲ませて告げる。


 

「———ヘラを傷付ける奴は誰であろうと許さない」



 ———逃げることの出来ない死の宣告を。

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