第146話 メモと記憶(2)

 れんが写真の男子生徒を指さした。担任の目線の先にいる生徒だ。半袖のシャツと学生ズボン、体型は細身である。頭髪はリーゼントのように立たせた髪からひたいに一筋垂らしている。いまではほとんど見かけないが、当時ではがった生徒がする髪型であった。街中の中学であれば、注意も受けようが、田舎で6人生徒の学校では、規則などないに等しく、ゆるりとしていたのだろう。

 次に示したのが、半袖のセーラー服の女子生徒だ。こちらは清楚という言葉が似合った。後ろに縛った髪、優しさを感じる丸い瞳、背は小学生とそう変わりはないようだ。150㎝程度だろうか、隣の女子と比べても頭一つは低い。


「この子がゆうだ。そして里子さとこ

「優さんと里子さん。二人は行方知れずになったんだよね」

「まあ、そうだ」

 

 漣は言葉をにごしかけた。事情を知っていることは明らかであり、いまさら誤魔化す必要などない。ただ、どこから話していいのか分からずに迷っていた。

 霞はそんな漣の思いをんだのか、集めたメモを取り出して学校で体験したことを実菜穂たちに説明を始めた。


 シーナは霞の色を黙って見ている。いままで誰かの言葉に従うことで自分を護って動いていた霞が、自ら状況を察して動いていることが不思議だった。


(どうした霞。御神体ごしんたいを取り戻してから、ずいぶんとたくましくなったような。これが成長したということ?一瞬にしてこうもなるものなのか。人は不思議だよ)


 シーナの視線は霞から写真に移っていった。



「つまり、神話では沼の神様が天上神側についたので、この地の地上神は戦いに負けた。優さんは、沼の地の人でほかの地の人からは疎まれていた。里子さんは巫女の力を持っている。優さんと里子さん、二人は突然村から姿を消した。ってことでいいのかな?」


  陽向が霞の話を要約して確認をしている。霞はウンウンと頷いてた。


「もしかして、漣さんに御神体を渡したのは、優さんですか?」

「そうだ。あっ、それから私のことは漣でいい・・・・・・えっと」

「私は日美乃陽向ひみのひなたです。こちらが」


 陽向が実菜穂みなほを見て笑った。


田口実菜穂たぐちみなほです。私たちのことは、陽向、実菜穂と呼んでください。そんで、私たちは漣ちゃんと呼ぶから。いいよね」


 実菜穂が陽向に笑いかると、二人して頷いた。その様子を漣は呆気に取られて見ている。


「ああ、分かった。好きなように呼んでいいよ」


(漣ちゃん?相手は天上神の巫女だ。それを名だけで呼べなど、どういうつもりだ。考えられない。だけど、そう言うのなら従うしかないか)


 漣はゴニョゴニョと口ごもっていたが、話へ意識をもどした。


「優から申し出があった。『土の神の御神体を護るために、預かってほしい』と。土の神の御神体のうち二つはすでに天上神の配下のもとに奪われていた。これ以上、呪を広げないためにも御神体を護る必要があった。この地で残っている地上神の配下は私とごく僅かのもの。それゆえ、優の申し出を受けた」

「あーっ、ちょっとタンマ。情報がトビトビで断片的だから、頭が混乱してきたぞ」


 実菜穂が棒きれで地面に図や文字を書きながら、情報を整理していた。それを見て、みなもがフッとため息をついて笑った。


「実菜穂よ。お主の行いは間違ってはおらぬ。じゃが、ここで一度に整理しても情報があまりにも散り散りでまとまらぬ。じゃからいまは、優と里子のことについてだけ纏めよ。そこから掘り下げていけば、いずれ真相に行きつこう」

「うん、分かった。漣ちゃん、優さんは御神体を持ち出す条件に何かお願いをしたんじゃないですか」

「ああ、優から頼みごとが一つあった。それは、里子をこの村から逃がすこと」


(・・・・・・!?)


 実菜穂、陽向、霞は互いの顔を見合わせた。


「それは、里子さんが巫女であることと関係していますか?」


 実菜穂の問いに漣はコクリと頷いた。

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