第139話 呪縛と解放(21)

 霞の足と少女の足がぶつかり合う。両者とも前蹴りを決め込んだのだ。だが、二人とも1ミリも動くことなく、足と足を合わせて止まっていた。互角のスピードと威力。作用反作用、どちらか一方でもわずかに勝っていたら、相手はきれいに消し飛んでいたであろう。

 

(さすが卯の神を襲っただけのことはある。こいつ、本当に何者なんだ。油断できない)


 少女が睨んでいると霞はプルプルと震え、涙目になりながら大声を上げた。


「いったーい!」


 突き出していた右足を押さえながらピョンピョンと片足で飛んでいる。どうやら威力は互角であったが、スニーカーの霞に対して下駄の少女の方にあったようだ。


(こいつ・・・・・・アホだ)


 ジワジワとくる痛みを堪えている霞に少女はひざを突き出し、襲い掛かった。痛みが治まりかけたことに安堵した霞は、凄まじい圧を感じるとすぐさま身構え、少女の膝に手をつき宙に舞ってかわした。


(素早い!)

 

 フワリと着地をして振り向く霞を、少女は目で追った。


「ねえ、あなたは天狗さんですか?」

「見て分からぬか」


 霞と距離をおき、少女は身構えて戦闘態勢をとっている。霞の方は構えなどとらないで、少女の姿をまじまじと見ていた。霞があまりに真剣に見ているので、少女は身体を隠すように捻って身構えた。


「あーっ、もしかしてその姿、烏天狗からすてんぐさん!女の子の姿だと可愛い」


 霞は空気を読むことなく、少女の姿に見入っていた。


(あの衣装でスカートがミニなら絶対、可愛いよね。あーっ、この系統なら香奈さんかな)


 全く戦う気のない霞に業を煮やした少女が声を上げた。


「いったい、お前は何者だ。少なくともただの人ではあるまい。私を見ても恐れることがなければ・・・・・・いや、むしろ好奇な目で見ている。攻撃をかわす速さ。人でなければ何だ?」

「わっ、わたしは早瀬霞はやせかすみです。この村はいますごく危ないんです」


(やっっぱり、こいつはアホだ。そうでなければとんだ策士さくしか。村が危ないだと?そうか、この状況をはぐらかす魂胆こんたんか)


 いきなり自分の名前を叫ぶ霞を見ながら、少女はスルリと刀を抜くと切りつけるために突進した。


 霞はあたふたとしながら、机を少女に放り投げた。机に遮られ、霞の姿は見えなくなるが、少女が刀を一振りして机を真っ二つに切った。二つに切れた机の隙間から、二人の瞳は互いを見つめ合った。


(逃がしはしない!)

 

(どうする?わたし)


 霞が先に動いた。窓際の方に身をかわすと、机を少女の方に突き飛ばした。少女は流れてくる机を踏み台にし、頭上から霞めがけて刀を振り下ろした。すかさず霞はサッカーのリフティングのように椅子を蹴り上げると、そのままシュートの如く少女にはなつ。少女は怯むことなく、椅子を粉々に切り刻んでいく。霞は同じように周りに散らばっているものを蹴って飛ばしていく。少女は次次に飛んでくる物体を的確に刀で切っていった。そうこうするうちに、霞の周りにはもう投げるものはなくなってしまい、少女の足元にその残骸が散らばっていた。


「ちょっ、待って。話せばわかる」

問答無用もんどうむよう!」


 切りかかろうと少女が足を前に出した瞬間、霞は腕を頭上に掲げ旋風つむじかぜを起こした。少女の足元にあった残骸が風に巻き込まれると宙に舞いながら、少女を取り囲んでいく。風をくぐり抜けるだけでも厄介であるが、それに机や椅子の残骸が刃物のように取り囲んでいるため、身動きが取れない状態だった。


(これでなんとか間合いが取れる)


 霞がホッとしたのと同時に、少女はフッと笑った。


「この私に風を使うのか。アホだな」


 少女が羽団扇はねうちわを手に取ると大きく一振りした。


 取り囲んでいた風と残骸が今度は霞に襲い掛かってくる。


「うそ!」


 霞は窓を突き破り校庭に吹き飛ばされていった。


 土埃が舞うなか、霞の身体は地べたを転がった。

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