第172話 守られてた?
「こちらでございます、リュウト様!」
モグラ眷属のモグランが、地表を泳ぐように掘って移動している。俺たちはそれについていく。
俺たちがいるのはドラクル国の東にある国の薄暗い森だ。
ここにアリエスの両親に似た吸血鬼がいると聞き、さっそくやってきたというわけだ。
なお一緒に来ているのはイーリとミナリーナだけだ。アリエスは置いてきた、というか両親が生きているかもなんて迂闊に伝えられないし……。
だってさ。本当にアリエスの両親かも分からないし、仮に本物だったとしても吸血鬼になってたらそれもそれで困る。
いや生きているにこしたことはないのだが、両親が実は生きてたけど吸血鬼になってました……うーん。
悩みながら森の木々の間を進んでいく。たまに草の茂みに突入してしまうが、吸血鬼の身体ならダメージはない。
でも草木が髪の毛について鬱陶しいな……一度首を落として再生して綺麗にするか?
「あそこでございます! あそこの家に住んでいると!」
モグランが指さした先には、小さな木の家があった。小さすぎず大きすぎず、ちょうど二人くらいで住めそうなサイズ。
薄暗い森の中にポツンとあるのが、なんかいかにも吸血鬼というか化け物が住んでそうな雰囲気凄い。ホラー映画の舞台にありそう。
「なんか不気味だな。鬼が出るか蛇が出るか……」
「吸血鬼でしょ」
「そりゃそうか」
なんか一気に怖くなくなったな。吸血鬼って聞くともうホラーに思えなくなってしまった。
そうして家に向けて進んでいこうとすると、謎の男が茂みの中から出てきて俺たちの前をふさぐ。
どうやら普通の人間の男のようだ。吸血鬼ではないのか。
「合言葉は?」
強面で顔に傷がある男は、いきなり妙なことを言い出した。
合言葉? なんだそれ? どう答えるべきか……迂闊に返したら面倒なことになりそうだし、ここは慎重に……。
「吸蜜鬼」
「てめぇら何者だ! 関係者じゃねぇな!」
「イーリ!? お前少しは慎重という言葉を覚えろ!?」
毒舌少女がいつものごとくやらかしてしまった! 吸蜜鬼が合言葉なわけないだろうが!?
「いいじゃありませんの。たかが人間風情に下手に頭を使うより、力づくでゴリ押した方が早いですわ!」
「なあミナリーナ。お前は相手が人間でも吸血鬼でも同じじゃないか?」
「細かいこと気にするんじゃないですわよ」
「おいてめぇら! 吸血鬼だからって調子に乗るんじゃねーよ! 俺はよ、優れた吸血鬼狩りなんだぜ? 剣術の免許皆伝の腕を持ち、さらに聖魔法も使える天才だ! そんじょそこらの奴とはわけが違うんだよ! 銀剣のドスキーノとは俺のことよ!」
吸血鬼の男は腰につけた鞘から銀剣を引き抜き、不敵な笑みを浮かべる。
なんだろう。どこかで聞いたことのある来歴だなぁ……。
剣技が強くて強力な聖魔法を放つ……あ、思い出した。
変態クソ神父のロディじゃん。あいつも元優秀な傭兵で、かつ聖魔法が使える逸材だったとか聞いたな。
「ははっ、俺の名前を聞いてビビったか! なら逃げてもいいぜ! サイディールの命令は、合言葉を間違えた奴は追い返せってだけだからな!」
「ん? サイディール? 死んだ奴の命令をまだ聞いてるのか?」
わざわざ死んだ奴の指示を聞き続けるとは、このドスキーノとやらは忠臣なのだろうか。
あるいはサイディールが実は部下に慕われていたとか? いやあの性格でそんなことないと思うが……。
「はぁ? サイディール様が死ぬわけないだろ。あんな化け物みたいに強い人だぞ? どうやって殺すんだよ。くだらねぇこと言ってないで……」
「いや死んだんだが……」
「馬鹿か。吸血鬼としても特級以上の強さを持ち、かつ聖魔法も使えるんだぞ。死んでも死なねーよ。それに死なれたら困るんだよ」
ドスキーノは俺の言葉に耳を貸そうとしない。
確かにサイディールは殺しても死ななさそうなのは同意だが……。
「ねえリュウト、面倒だから脅して言うこと聞かせよう。どうせ話しても平行線だろうし」
そんなこと考えていると、独眼毒舌の少女が物騒なこと言い出した。
「おおやってやろうじゃねーか! この銀剣のドスキーノ様に勝てると思うなよ!」
ドスキーノは両手で銀剣を握ると、俺に向けて構えてきた。
……ひとつだけ突っ込ませて欲しい。なんで今の流れで俺に剣を向けてくるんだ。
俺はなるべく会話を試みたはずなんだが? 喧嘩を売ったのはイーリとかミナリーナなんだが?
「なあミナリーナ。お前が戦うべきじゃないか?」
「面倒なので任せますわ」
「おいゴラァ! よそ見してるんじゃねぇよ! 去らねぇなら死なない程度に腕の一本も持って行ってやらぁ! 死ねぇ!」
よそ見していたらドスキーノが襲い掛かってきていた。
剣で切りかかってきたのでとっさに右腕でガードすると、
「あ、ああああぁぁぁぁぁぁぁ!? お、俺の銀剣があああぁぁぁぁぁ!?!?!?」
ドスキーノの銀剣がポキリと折れてしまった。
やはり銀って武器に使うには微妙な素材だよな。優秀なら鉄の代わりに使われてるだろうし。
「て、てめぇ! よくも俺の銀剣を……! 弁償しやがれ!」
「あーあ。リュウトが折っちゃった」
「待て、今の不可抗力……というか正当防衛では?」
いやそもそも別に敵の武器を折っても問題ないのでは? なんかドスキーノが妙な奴のせいでペースが狂わされている……。
うーん、なんか悪い奴じゃなさそうだし。ここは手加減しておこうかな。
俺は瞬時にドスキーノの背後を取って、彼の両手を掴んだ。
「なっ!? て、てめぇいつの間に!?」
「悪いが暴れないでもらおうか。誰かロープとか持ってないか? こいつの両手を縛りたい」
「さっきあっちにイバラのツルが生えてたよ。トゲトゲすごそうなやつ」
「鬼かお前」
結局イーリが何故かロープを持っていたので、ドスキーノを気絶させて縛っておくことにした。
「ところでなんでロープ持ってたんだよ」
「アリエスの両親が逃げた時、捕縛するのにいると思った」
そうして改めて木の家に近づくのだった。
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