第37話 吸血鬼狩りギルドの余裕


 吸血鬼狩りギルドシルバリア支部。


 そこの会議室では豪華な衣装をまとった代表者たちが、円卓を囲んで席について話し合っていた。


「そういうわけであの村は危険です。大きくなる前に潰しておくべきです」


 吸血鬼狩りギルドの者が集う円卓に、ひとりだけ異物が混ざっていた。サイディール、吸血鬼狩りギルドに所属する吸血鬼である。


 彼はこの集会の中でリュウトの危険性を訴えた。上級吸血鬼であるベアードが瞬殺されたことを。だが代表者たちは興味なさそうに話を聞いていた。


「サイディール君、もう少しうまい嘘をつきたまえ。吸血鬼が聖魔法だなんてあり得ぬよ」

「自分で自分の身体を燃やすようなものだ。自殺志願者かね?」

「本当ですよ。私は確かに見たのです。ベアードが浄化されたところを」


 サイディールは犬歯をきらりと光らせる。だがやはり他の参加者はさして興味も持たない。


「そもそもだ。仮に聖魔法を使えたとしてだから何だと言うのかね」

「吸血鬼狩りに聖魔法は効果がない。そしてそいつは吸血鬼である以上、聖魔法を撃てたとしても弱点に変わりないだろう」

「火を吐ける人間も自分の身体は燃えるからな」

「所詮は吸血鬼だな。その程度のことも分からないとは」


 吸血鬼狩りギルドの面々は馬鹿にするように笑いだした。サイディールは目を細めて表情を消す。


「もうよいサイディール君。それより君には他の村を襲ってもらいたい。追って指示するから、救世主になる吸血鬼狩りと共に頼むぞ。もう退席してよい」


 吸血鬼狩りギルドは吸血鬼を使って、自分達に寄付しない場所の村を襲わせていた。そしてその現場で吸血鬼狩りを差し向けることで、自分達を英雄に祭り上げている。


 そうすればその場所一帯の民たちは吸血鬼狩りに感謝し、ギルドへの厚い信頼を持つようになる。そうなると領主は寄付金を出さないわけにはいかなくなるのだ。


 出さなければ領民は領主に対してこう思うのだ。自分達を吸血鬼から守る気がないのかと。そうなると領主に対して一揆でも起こされる恐れが出てくる。


「……そうですか。ならば吸血鬼狩りをお借りしましょう」


 サイディールは立ち上がると恭しく頭を下げた。そして円卓の間から立ち去っていく。それを見届けた後に代表者たちはあざ笑い始めた。


「吸血鬼風情が調子に乗りおって。我らが本気になれば貴様などすぐ浄化できるのだぞ」

「まったく愚か者は困りますな。聖魔法が効かない吸血鬼などと戯言を抜かしたのも、間違いなくブラフに違いありませんな」

「ドラクル村は放置でよいでしょう。ウエスト領主が音を上げるまではね」

「吸血鬼の脅威がもう少し膨れ上がったところを、我々がアッサリと解決させる。これで我らの名声は更に上がる」

「完璧な策ですな」


 吸血鬼狩りギルドの面々は愉悦そうに笑った。


 すでに彼らの中ではドラクル村を滅ぼせる算段はついている。多少強い吸血鬼だろうが所詮は吸血鬼。聖魔法や銀などで何とでもなるのだと。


「そもそもドラクル村はどうやって運営していくつもりなのか。外貨を手に入れる手段もないだろうに」

「自給自足では? 吸血鬼風情の頭ではそれくらいしか考えられぬ」

「ははは。もはや何百年前の人間の暮らしでも、もう少しまともであろうにな。鉄がなくなれば詰む、服がなくなっても詰むと」


 彼らは知らない。


 ドラクル村にハチミツや金銀山があることを。相手は吸血鬼だから何も考えていないとタカをくくっていた。


 だが彼らの慢心には仕方のないところもあった。何故なら――。


「とはいえ強力な吸血鬼ではあるのだろう。ここは銀の聖者に出陣願おうではないか」

「新たに生まれた神器を渡した者か。過剰ではないか? あの『銀翼の天神剣』はあまりに強力過ぎる聖なる力で、吸血鬼どころか人間まで浄化する代物だぞ」

「だからこそ物語が生まれるのだ。堕ちた聖女を、銀の聖者が聖なる力で浄化したのだと」

「なるほど。それはよいな」





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 サイディールは側近の男と夜の街を歩いていた。側近の男は腰に剣を帯びていて、冒険者のような姿をしている。だが口元には鋭い犬歯が存在していた。


「例の吸血鬼狩りをドラクル村に攻めさせます。手はずを整えましょう」

「よいのですか? 吸血鬼狩りギルドの決定では放置と」


 サイディールの言葉に対して側近の男は怪訝な顔をした。


「私があんな奴らの命令を聞く道理などありません。奴らは私を飼い犬とでも思っているようですが、利害が一致しているから協力していたに過ぎない。利害が相対すれば聞く価値もない」

「なるほど……」

「なので銀の聖剣使いはドラクル村に攻めるように誘導しましょう。ちょうど彼が執心していた吸血鬼が村に逃げたらしいですし。サフィという名を教えれば勝手に向かってくれるはず」


 サイディールは側近の男に微笑みかけた。


「ただアレは私の言うことは聞かない。なので貴方の人脈で普通の吸血鬼狩りも集めて欲しいのです。少し前まで吸血鬼狩りだった貴方ならば可能でしょう? そのために

「もちろんでさぁ。俺に任せてくだせえ。同期を誘ってみますよ」


 吸血鬼の力、それは怪力や変身能力など多種にわたる。その中でも特に厄介なもの、それは……噛んだ者を吸血鬼にすることができる能力だ。


 人が吸血鬼を恐れる最たる理由。それは自分たちがいつ化け物にされてしまうか、という恐怖がある。無論、吸血鬼にされたからと言って自我がなくなるわけではない。変わるのは身体だけで、心に直接的な影響はない。。


 強い心を持つ者ならば身体のみが変質することもあるので、理屈上では吸血鬼でありながら吸血鬼を憎悪する者だって現れるだろう。


 だが大抵の人間は吸血鬼になったことに絶望した後、自分を噛んだ吸血鬼に従う傾向にあった。もはや人として生きられないならば、吸血鬼として存分に生きてやろうと。


 ようは身体が変質したことで、心も影響を受けてしまう可能性も高い。


「よろしくお願いします。おっと、その牙や爪は隠すのですよ? 貴方はもう人ではないと心得なさい」

「はい、わかっております。では」


 側近の男は背中からコウモリの翼を生やすと、バサバサと空へと飛んでいく。


「しかしまあ……アレに狙われたのは同情しますが……。人を恐れる吸血鬼などもはや生物として欠陥ですね。人から血を吸えないならば生きて行く術を失ったも同義。あっさり殺してもらった方があるいは幸せやもしれません」


 サイディールはボソリと呟いた。



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今のサフィはこんな感じです。

狼「羊怖い」

一応アレ以外は多少怖がってるだけですが……わりとヤバイ状態かも?


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