第30話 新たな仲間
サフィとシルバリオンがやってきた翌夜。
俺は村の広場に村人全員を集めて、新たな住人である二人を紹介していた。広場にかがり火を焚いてうすぼんやりとした中で自己紹介が開始される。
「村に新たな住人が二人加わった。片方は吸血鬼だ」
俺の言葉に村人たちがざわつきだす。俺という吸血鬼がいるとはいえ、やはり吸血鬼が新たな隣人となるのはなかなか慣れないだろうな。
「見ろよあの太い腕にガタイ……俺らなんて簡単にねじきられそうだ」
「吸血鬼だけあってヒゲが常人離れしてやがる……!」
「豪快に人の生き血をすすってても違和感ねぇぜ」
「いや待て、吸血鬼そっちじゃない」
村人たちはシルバリオン、銀細工師兼鍛冶師の方を見ていた。気持ちは分からなくもない。
華奢で身長も低くおどおどしたサフィと、豪快に腕を組んでクマみたいなガタイのシルバリオン。二人並んだら吸血鬼に見えるのは後者だ、というかサフィは単体で見ても吸血鬼とは思えない。
ミナリーナに吸血鬼は堂々としろと言われたのを思い出す。確かにおどおどな態度だと吸血鬼に見えないなこれ。
「ワシはシルバリオンじゃ! 銀細工に命を賭けている職人じゃ! ほれ自慢の銀ハンマー! これを持てるのがワシが人間である証明じゃ!」
シルバリオンは魔法で手に純銀のハンマーを出して掲げた。あれは召喚術ではなくて収納魔法だな、体内にしまっていたようだ。
だが村人たちはなおも怪訝な顔でシルバリオンに視線を向けている。
「吸血鬼って銀持てるよな?」
「んだんだ。村長は全身銀だったアリエスちゃんに触ってただ」
「本当に吸血鬼じゃないべか? 他のことで証明するべ」
シルバリオンはまさか疑われると思ってなかったようで、目を見開いて驚いていた。すまん、ここの村人にとっての吸血鬼は俺だから……。
「なんじゃこいつら……仕方ない。なら明朝になれば太陽を……」
「あ、日光浴びれるやニンニク食べれるもダメだべ。村長が平気だし」
「聖水平気とか流れる水を渡れてもダメだべ」
「どうせい言うんじゃ!?」
俺は心の中でシルバリオンに謝る。ほんとごめん。
「安心しろ? シルバリオンは本物の人間だ。考えてみろよ? いくら何でも吸血鬼が銀の細工なんかしないだろ。明日にでも働いてもらえばすぐにでも……」
「「「村長ならやりかねないべ」」」
……吸血鬼検査キットみたいなの欲しいな、うん。とりあえず後で吸血鬼講座を開くことにしよう。俺基準で他の吸血鬼に接していたら、いずれニンニク事故とか発生しかねないし。
「とりあえずシルバリオンは本物の人間だ! じゃあ次はサフィ、自己紹介してくれ」
「は、はい……」
サフィはもじもじして、桃色の髪を揺らしながら少し顔を赤くしている。いや本当に吸血鬼には見えないな、この彼か娘か分からない子は。
「さ、サフィと言います。こ、これでも吸血鬼です……がおー……な、なんちゃって……ごめんなさい……」
サフィは若干噛んだ後に両手を小さく広げて、恥ずかしがりながら怪獣みたいなポーズをした。気恥ずかしかったようですぐにやめて、更に真っ赤になった顔を手で隠してしまう。
なんというか吸血鬼とは思えないベクトルで可愛い。つまり普通に可愛らしい。
さて俺とは別の吸血鬼に対して村人の反応は……。
「か、可愛いべ……やっぱりあのオッサンが吸血鬼だべ!」
「んだんだ。こんなかわいい子が吸血鬼なはずがないべ。おっさん、正体を現すべ!」
「なんでワシはいわれなき吸血鬼扱いされとるんじゃ!?」
良好だ。幸いにもサフィが吸血鬼離れしているおかげで、全然欠片も微塵も怖がられていない! これでよいのかと思ってしまうがヨシとする!
シルバリオンは……後でフォローをいれておこう。少し時間を置けば村人たちもすぐにサフィの方が吸血鬼だと理解するだろうし。サフィは夜しか活動できないからな。
「そういうわけで新しい村人たちだ。今後とも仲良くやって欲しい。特にサフィに関しては色々と問題もあるだろうから、まず村人たちは彼女との昼の接触を禁じる。サフィの家に行くのも禁止だ」
「な、なんでだべ!? オラ、サフィちゃんに足が滑った態で抱き着きたいべ! 吸血鬼と仲良くするために! そのためには昼だべ!」
「ざけんなぶっ飛ばすぞ!? 仲良くなるためなら何でも免罪符になると思うな! 昼夜問わず禁止だボケ!」
やばい村人いるな。そういやあいつ、以前にアリエスを覗いてたとか言ってたような……要注意人物としてマークしておこう。
「コホン、真面目に昼は近づくなよ。たとえば迂闊に昼に扉を開けて、サフィが太陽の光でも浴びたらどうする!」
「わかったべ、夜に抱き着くべ」
「サフィ。もしこいつが襲ってきたら捻りつぶしてやれ」
「え、は、はい……」
吸血鬼は夜はすごく強靭だが、昼はともすれば縁日の金魚みたいにあっさり死にかねない。かなり気を付けて取り扱わないとな。
特に彼女は吸血鬼村人第一号だ。彼女をモデルケースとして吸血鬼の村人を募集していく予定なので、気を使いすぎるということはない。万が一があったら今後は誰も来なくなる恐れがあるし。
他の村人は納得したようでうんうんと頷いている。
「わかったべ。仕方ないベ」
「二人ともよろしくだべ。困ったことがあれば相談してくれ」
こうして広場の集会は解散した。村人たちは二人を問題なく受け入れてくれそうだ。
これなら今後に住人が増えて行ったとしても大丈夫そうだな。そんなことを考えているとアリエスが俺に寄ってきて、イーリは何故か背後を取ってきた。
「二人ともどうした? 何か用か?」
「ねえねえ。サフィ基準で他の吸血鬼見たら、差がありすぎて逆に怖がられない?」
「…………」
「確かにそうね。私は吸血鬼狩りとして数年活動してるけど、こんな吸血鬼は見たことないわよ。まあ貴方みたいなのも初めてだけど」
「ま、まあアレだ。最初に来た吸血鬼がサフィでよかったと思うことにしよう」
ベアードみたいなのがやってきたら、鉄拳制裁から始めないとダメだったからな。
するとイーリは首を小さく横に振った。
「そもそも初めて村にやってきた吸血鬼はベアード」
「イーリ、それ以上いけない。あいつは村に踏み入る前に消したからノーカン。よしあんな奴のことよりも今後にやりたいことを記載するぞ」
俺はベアードの記憶を上書きするように、近くに生えていた木を板状に手刀で削った。そして懐から血の入った小瓶を取り出すと、木の板に血を落として操って文字を描き始める。
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サフィは吸血鬼というよりサキュバスでは?
それと村人たちはすでに吸血鬼への恐怖心が、よくも悪くもだいぶ薄れています。
リュウトとずっと暮らしてればそりゃね……。
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