黒猫と最弱の僕
カロ。
第1話 この展開しってる!あれでしょ!?
1.この展開知ってる!あれでしょ!?
ガララッ
「はーい、座って~。受業始めるよ~」
教室のドアを開けて入ってきたのは今年から先生になったばかりの新任の教師で、身長150ぐらい、その可愛らしい容姿から生徒に人気のある古森 駒先生だ。コマちゃんの愛称で呼ばれていて主に女子生徒達が可愛がっているのをよく見かける。
今日は6月の23日。湿気が多くて気温も高くなってきてしんどい季節になってきた所だ。
机から筆箱や教科書を出して受業の準備をする、ついでにポケットに忍ばせておいた飴を取り出し糖分補給をしておく。
「それじゃぁ教科書の42ページを開いて。今日は───」
コマちゃん先生の声をBGMに受業は進む。ノートに内容を書き込みながらも考えるのは今日の学校終わってからの事。
昨日途中で終わったRPGの続きを進めるのにまずはレベル上げからかな~とか考えていたその時だ。
突然目の前が真っ暗になった。
「ふぁっ!?」
「きゃっ!?何!?」
「な、何だぁぁぁぁぁぁ!?」
突然の事態に教室は大パニックだ。机や椅子がぶつかりがたがたと大きな音をたてている。何人も声を上げ、友人同士で視界が無い中何とか手を取り合っているのが気配から何となくわかる。
「みんな落ち着いて!慌てないで~!きゃっ!?今度はなにぃ~!?」
コマちゃん先生の声が聞こえたかと思うと今度は突然光が現れる。一人一人を包むように次々と光が溢れていく。
光っている所をよく見るとゲームやアニメの様な魔法っぽい文字がクルクルと回っている用に見える。
「この展開知ってる!あれでしょ!?いs───」
何か叫んでいた男子生徒が他のみんなと同じように光に包まれて消えていってしまった。
一体何がどうなっているんだよ!?少し時間が経って落ち着いてきたが、それでも未だに訳が分からない。
クラスメイトはどんどん光に包まれて消えていってしまうし。周りはずっと暗闇だし。
学校の教室のカーテンを閉めたぐらいじゃこんなに暗くなるはずがないし。
「あれ……?誰もいないっ!?」
気が付くと暗闇の中、自分一人だけになっていた。多分おそらく、万が一。億が一。もしかするともしかするかもだけど。この暗闇の中、一人だけになってしまったかもしれない。
さっきまでの騒がしさが嘘のようにシンと静寂が場を支配する。
「僕の番は!?何で来ないんだ……?」
数分待ってみるが、待てど暮らせど自分の体が光ることは無かった。
「えぇ……どうしよう?ホント…どうしよう………」
真っ暗な中、独りぼっちという恐怖と寂しさから独り言が止まらない。
「あれ?そういえば何で手が見えるんだ?」
あれやこれやと驚きの連続で今まで気づいていなかったが、ここは真っ暗闇のはずなのに何故か自分の体は普通に見える。
すごく不思議な感じだが、もうそういう物として考えるしかない。
もうこの時既に色々ありすぎて脳のきゃぱおーばーでほぼ思考停止していた。
「今度は何なんだ……あれは…人?」
遠くに膝を抱えてうずくまっている人が見える。はっきりとは分からないが大人の女性のような気がする。
どうしよう?そもそもここは動けるのか?歩いてあそこまで行けるんだろうか?
試しに右足を前に出してみる。
「足は動く……と」
続いて左足を出して歩けることが分かるとそのままどんどん進みだす。
数分も歩くとその姿が徐々に明らかになってきた。
どうやら彼女は生きているようだ、息をしているかどうかとか、心臓が動いているかどうかとか。そういったことを調べたわけではないが、生きていると。そう感覚で理解した。
もう手を伸ばせば届く距離まで来たが彼女はうずくまっていて動かない。
「あの、すみません。聞こえていますか?」
「─────」
「ここはどこなんでしょうか?あなたは何か知っていますか?」
「─────」
「今日はいい天気ですねって、ははっここじゃ分からないか…ははっ…………」
「─────」
つ、つらぁぁぁぁぁぁぁぁい!何だこれ!?本当にこの女性は生きているのか!?僕にだけ見える幽霊とかじゃないよな!?
手を伸ばせば届く距離まで来ているがあえてもう少し近づいてみる。体育座りの体勢でうずくまっている彼女だが、何とかその顔は見えた。
目をつぶりうつむいているからはっきりとは分からないがこの人、ものすごい美人だ………芸能人とかアイドルとか非じゃない程のある意味この世の者とは思えないほどの顔をしている。
黒く艶やかな長い髪に細い体。服は星のきらめきの様な物がはいったローブの様で、太ももあたりからスリットの入ったセクシーな物だ。この姿を見て1番に頭に浮かんだのは【魔女】だ。何だかコスプレっぽいが彼女が美人過ぎて似合っている。
あと…おっぱいが大きい……
『───け、て─』
「うぇっ!?」
しゃ、しゃ、しゃべったあぁぁぁぁぁ!?
慌てて数歩後ろに下がる。
「…………?」
気のせいか?喋ったよな…?動く気配が無いんだが。聞き間違いだったか?
今度はさらに慎重に近づく。
『た───けて』
やっぱり喋っているよな……?
疑惑が確信になったのでさらに近づく。
「えっ!?ここで!?今なの!?何でぇぇぇぇぇぇぇぇえ」
もう少しで彼女が何を言っているのか聴き取れそうだったのに、突然光が僕の体から溢れて視界が真っ白に染まる。
「もうちょっとだったのにぃぃぃ───」
最後まで残っていた彼の声が虚空へとむなしく響く。彼が消えるとそこには先ほどと同じ様に女性が体育座りでうずくまっていた。
『──すけて……』
『たすけて………誰か私をここから…たすけて』
彼女の言葉もまた、闇が支配する空間にむなしく響くだけだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「────ぃぃぃぃぃ…………あれ?」
視界がはれるとそこは大理石みたいな物が壁を覆い、足元には絨毯がひかれ、柱が何本も立っていて。よくわからないが海外にある教会のような荘厳な雰囲気を感じる場所に思える。
「ん?何だ…?まだいたのか?おい!ここに後から出てきたやつがいるぞ!」
「え?何ですか!?っていうか誰ですか!?」
真横には中世の鎧のような物をきたコスプレしたおじさんがいた。
何だここ?コスプレ会場か?
「はいはいはいはい、落ち着いて。自分の名前は言えるか?」
「人が増えた!誰っ!?」
今度は神父のような恰好をした人がやってきた。やっぱりここコスプレ会場だろ!?
「いいから落ち着きなさい。<クリア>……どうかな?落ち着いた?名前は言えるかな?」
突然白い霧みたいなのが僕の体を吹き抜けていった、するとさっきまでの混乱が嘘のようにスンッっと落ち着いた。
どうやら突然事態に混乱していたようだ。
「あ、はい……えっと八雲 草一と言います。」
「ソーイチ君ね。はいはい。それじゃぁ今からこの状況を説明するから落ち着いて聞いてね?」
「はぁ………」
落ち着いてはいるが、また何かあればすぐ混乱しそうだ。
「ここは君達が言う所の異世界というやつだ。クラス召喚?だっけかな、さっきの子が言っていたがそれで通じるかな?」
「はぁ……………はぁっ!?異世界!?クラス召喚!?」
それってあれでしょ!?最近頻繁にアニメ化してるシリーズの異世界転移ってやつ!?
「はいはい、落ち着いて。<クリア>………まだ話す事はあるからね?」
またしても白い霧みたいな物が僕の体を通ると気持ちがスンッと落ち着く。
さっきからこの神父さん呪文っぽい物を唱えているんだが………めっちゃ気になる。
「はい、すいません」
またしても混乱してしまったが今度はちゃんと話を聞こう………
「うん、それでね。異世界からやってきた君達はこの世界に来てから一度だけ願いを叶える事が出来るんだ」
「願いを?それって何でもですか?」
「何でもでは無いね。願いで貰えるのはスキルだったり武器だったり防具だったり。この世界で役に立つ物だよ」
スキル!?武器!?防具!なんだその魅力的な言葉は!すごく気になる!
「そ、それは一体どういった物を!?」
思わず神父さんに詰め寄る。
「落ち着いて、ちゃんと説明するから。そこに魔法陣があるのが見える?」
詰め寄った僕を両手でふわっと受け止めると、神父さんは僕の後ろを指さす。その指さした方へゆっくりと振り返るとそこには円形の、アニメとかで出てきそうな魔法陣が書いてあった。
魔法陣は石造りの土台の上に彫刻されており。横を見ると同じものがいくつかあるのが分かる。大きさは………いつだったかテレビの相撲の番組でみた相撲の土俵ぐらいの大きさだ。
「これですか?何て言うか中二病心をくすぐられる見た目をしてるね……」
「中二……?何でかよくわからないけど今回召喚された子達はみんな似たようなことを言うんだね………」
そりゃぁね………これを見たら誰だってそう思うでしょう。しかも僕達なんてまさにそう。
中学2年生なのだから。
「それで、どうすればいいんですか?」
「うん、この魔法陣の中に入ってほしい物を思い浮かべて。出来るだけ具体的にね。曖昧だと何を貰えるかランダムになってしまうから」
「任せて下さい!」
「う、うん………」
神父さんに言われたように石造りの魔法陣の中へと入っていく。真ん中少し手前で止まり手を組んで祈りのポーズをとる。
スキルに武器や防具かぁ~何がいいかなぁ。やっぱりアイテムボックスとか転移系のスキルが人気なのかなぁ?
でも聖剣とか魔剣とかも捨てがたいよなぁ。伝説の鎧とかも欲しい。
全てがオールインワンパックになったスキルとかないんだろうか?
うーん。悩む………何がいいんだろうか?むしろここは一旦撤退してこの世界ではどんなスキルが有用か確かめてから貰うべきでは?
その方がよさそうだな………ん?
「何だ……?黒…闇………?あっ」
視界の端にさっきまでいた空間の暗闇がちらついて連想的にあの女性の事が頭に思い浮かぶ。すると突然魔法陣が輝きだした。
「えっ!?あれっ!?今のがトリガーになっちゃうの!?ってかこわっ!ナニコレェェェェェェ」
バチバチと黒い雷の様な物が周りからどんどんと集まっていく。音はどんどんと激しさをまし目も開けていられない程になっていく。
「こ、これは!?まさか!?」
「えっ!?何!?何なの!?その深刻そうな呟きこのタイミングでされるとめっちゃ気になるんですけどぉぉぉぉ!」
後ろで神父さんが何か気になる事を言うが何もこんなタイミングで言わないでほしい。余計に怖くなってきた。
神父さんはスキルや武器防具が貰えるって言ってたよな!?もしかして人間も出てきたりするのか!?考えてた事ってあの女性の事だったし!
黒い雷がどんどん大きくなりバチバチという音も大きくなり何もわからなくなってきた。
このまま爆発したりしないよな!?
黒い雷がどんどん収束していき、ついには弾ける。
おっぱいなのか!?おっぱいか!?
「ん…………あれ?黒猫………?」
「猫ですねぇ」
「にゃぁ~ん」
魔法陣の中央には可愛らしい黒猫がお座りしていた。
おっぱいでは無かったみたい。
「え~っとこれはどうなるんでしょうか?」
「これは従魔ですね」
「従魔……?何となく意味は分かるけど」
想像しているような存在でいいのか?
「恐らくソーイチ君が考えている様な物でしょうね。一応説明を聞きますか?」
「お願いします………あ、可愛いもふもふ」
「にゃん」
神父さんと話していると黒猫が近づいてきて足元をすりすりしてくれる。なのでそのまま抱き上げて撫でてみたがものっすごいもふもふだこの子。
「従魔とはテイマーと呼ばれる職業の人達が連れている、魔物をテイムした存在ですね。本来ならばスキルでテイムする必要があるのですが、今回の場合は魔法陣を介した呼び出しですので既に契約状態のはずです」
「なるほど?契約状態かどうかはどうやってわかるんですか?」
神父さんの話しを聞きながらも黒猫をゆっくりと撫でる。
「恐らく手か足に模様が出ているはずです。従魔の方にも体のどこかに模様が」
「ほうほう?ちょっとごめんねぇ調べさせてね。あ、ここに肉球マークがある。ってこの子女の子だ……「にゃっ!」あいたっごめんごめんって確認しないといけないでしょ?」
黒猫を目の前で持ち上げて見ると左足の肉球の中に肉球マークが書かれていた。そして自然な流れで性別を調べたんだが黒猫パンチをされてしまった。
「僕の体には、あーここはホントだ同じ模様がある」
左手の手のひらの親指の下あたりに黒猫にもあった同じ肉球マークが刻まれていた。
「それが従魔の証ですね。従魔を飼う場合はその子が起こした問題も飼い主であるソーイチ君の責任になるので、きちんと面倒は見てくださいね?」
「分かりました。それで、この後はどうすればいいんでしょうか?」
「他のみなさんと同じ場所へ連れて行きます。そこでもまた説明があるでしょう」
「はい」
「では、ついてきてください」
神父さんがそう言って歩き出したのでその後ろを黒猫を抱えて歩いていく。
「他の皆か………クラスメイトはどうしてるんだろうね?」
「にゃぁん」
思わず抱えていた黒猫に聞いてみるが。興味なさげに鳴かれるだけだった。
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