第2話 カラフルな顔見知り

「喫茶店はいいものだ。」


注文したアールグレイを飲みながら、今日も俺はしみじみと思う。


普通の飲食店とは違う落ち着いた雰囲気。


飲食を楽しむお客たちも、騒がずそれぞれがこの雰囲気を楽しんでいる。


今は昼の15時。少し小腹が減ったので、いつものアールグレイの他にニューヨークチーズケーキを注文した。


しっとりとした舌触りに、濃厚なチーズの旨味。

少ししつこめの味付けだが、紅茶と合わせるにはこういった味がよく合うと思う。


お皿の横に添えられているイチゴジャムも、酸味が程よくとてもグットだ。


こうして、美味しいケーキに舌鼓を打っていると、いつも見かける常連客が声をかけてくる。


今日店でたまたま出会った顔なじみは・・・・・・・・「カラフルな宇宙人」だった。


「高宮さんもよく来ますよね、日曜日はいつもじゃないですか?」


高宮 凛、それが俺の名だ。

女みたいな名前をしているが、れっきとしたおっさんである。


「イヤー、すっかりこの喫茶店の紅茶にはまってしまってね。

軽食類も多いから、飽きずに通ってしまうんだ。

そういうネイキットさんも、結構な頻度でいますよね」


ネイキット、俺と同じくこの喫茶店の常連で、20代後半の男性だ。

このネイキット、服装こそスーツ姿だが色合いがおかしい。


スーツの上が白色、ズボンが黒色で中のシャツは黄色。ネクタイは赤色である。

100歩譲ってもスーツの上下は色を合わせないだろうか?


「なるほど、確かにここのサンドイッチは私も好きですね。

香ばしい食パンに挟まれたチーズやハムがたまらない」


そういって、ネイキットは手元のサンドイッチにパクつく。


ここのサンドイッチは、トーストされた食パンにハムとチーズが挟まれたシンプルなものだが、時々無性に食べたくなり、私もよく注文するメニューである。


「二人ともよく食うねえ、俺はこのコーヒーがあればそれで満足だよ」


となりに座るスカルが声をかけてくる。


そういえばこいつが軽食類を頼んでいるのを僕は見たことがない気がする。


「スカルさんに至っては、毎日いる気がしますよ。

仕入れのお仕事だってあるはずなのに、一体いつ仕事に行ってるんです?」


「最近はネットや電話のやり取りで、交渉が進められるからな。

それに例のウイルスで在宅化が進んで、PCがあればどこでも仕入れができるんだよ。俺たちにとっちゃいい時代になったもんだ」


こうして話していると忘れそうになるが、こいつらはれっきとした宇宙人だ。

人間社会で大問題となっているウイルスも、対岸の火事状態なのだろう。


「そういうネイキットさんこそ、一体なんのお仕事をされてるんです?

あなたも結構な頻度でここに来てますよね?」


色彩がおかしいとはいえスーツを着ている以上、会社勤めなのだろうが、この人も地球に何をしに来ているのだろうか不明である。


「人間社会での仕事はやってないんですよ。

地球に存在する微生物や虫なんかの生物を母星に持ち帰って研究するのが、私の仕事です」


おっと、いきなり宇宙人的な話になってしまった。

スーツを着ているからてっきりサラリーマンかと思ったのだが、よくよく考えるとこんな派手な色彩の会社員など普通はいないか。


「ネイキットは惑星環境〇〇ザざ==観察機構の研究員だからなー。

他の惑星の生態を研究して自分たちの星へ研究成果を持ち帰るのが仕事だ」


スカルの奴が補足してくれるが、一部翻訳されない概念があるようだ。

まあ、研究者なのはわかった。


「へー、やっぱり地球の生物って宇宙人から見ると珍しいのか?

ネイキットさんはどんな生き物を持ち帰ってるんです?」


こうしてお話をしていると忘れてしまうが、宇宙人にキャトられるなどの都市伝説もある。


人間をさらっているとは考えたくないが。


「昆虫全般が多いですかね、トンボやハエ、バッタなど、色んな形をして面白いです。特にこの星の生き物が持つ目という器官は素晴らしい。

あなたたち人間も、同じ目に見えて国が違うと少し変わってくるんですよ」


なるほど目か、この人も人間に見えるだけで本体は人型ではないのだろう。


「なるほど、日本人は黒い眼をしてますが欧米では青いですしね」


何処の国の人間かを判断する分かりやすい差じゃないだろうか。

人と話すときは目を見て話すし、などと思っていると、ネイキットは変な顔をしている。


「○○??ザざーkuro???aoザざー???ぱっと見、人の目に変わりってないんじゃ?」


「???」


瞳の色は分かりやすい差だと思っていたのだか、なんだかネイキットに伝わらない。


というか黒や青という言葉が翻訳されていない?


二人してきょとんとした顔をしていると、黙って聞いていたスカルが笑いながら話しかけてきた。


「はははっ!!高宮!

ネイキットに色の概念はないぜ!

「目」という器官が珍しいって言ってただろ?

光を観測する器官自体がこいつの星では存在しないのさ!」


??まあ、そういうこともあるのかもしれない。

今にして思えば、ネイキットとの話の中で香りや歯ごたえ形という言い方をしていたが、色について話した覚えはない。


??しかし、ネイキットの星には光源がないのだろうか?

地球でゆう太陽の位置付けの恒星が無ければ、生物自体が生まれないと思うのだが。


「恒星イコール高温だから光を発してるっていうのは、あくまで地球の常識だぜ?

宇宙にはある程度質量があっても、光を発してない恒星は結構ある。

でもエネルギー自体は発してるから、真っ暗でも〇〇〇ザざ==っと、いけね。

地球でいう光合成?する生き物も存在してる。

でも光なく反射しないから、色という概念自体がないのさ」


「〇〇〇ザざ==ですか?〇〇〇ザざ==ならありますが、この目という器官はそのhikari?というのを認識するためにですね」


なるほど、いつもネイキットさんがこんなカラフルな服装をしているのか、気になっていたのだが、色自体を認識できていなかったのか。


確かに服の形だけを見れば、普通のスーツ姿だし、本人の認識では周囲に溶け込めているのだろう。


まあ、とにかく


「ネイキットさん、これ食べ終わったら服屋にでもいきましょうか」


「???」

話しについてきてないこのカラフルな顔見知りに、まともな服を着せることから始めてみよう。


カフェ「Cruinne」。ここは変わった常連客が利用する。

少し変わった喫茶店である。

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