にせもの

@Tarikihonganzi

はじまり

「…続いてのニュースです。札幌市北区の帝神大学病院で、医療廃棄物が大量に盗まれていたことが分かり、大学は今日記者会見を開きました。同様の事件が他にも札幌で発生しており、警察は関連を調べています」


 地上デジタル放送をかろうじて映し出しているテレビの場面が転じ、記者会見の様子を写しだす。



「医療廃棄物の管理は徹底されてたんですか⁈」


「はい、こちら側としても管理を徹底しつつ…」


「このような被害に遭ったのは、警備が手薄だったからでは?」


「はい、こちら側としても…」



 寂れた旅館の一室で横になりながらテレビを見ていた中年の男は、一人ほくそ笑んだ。手品師はこういう気持ちなんだろうか。真相を知っている優越感というのは悪くない。わからないだろうな。貴様らに俺たちが目指すものなど。何かを考えているつもりでただ楽をするだけの日々を送る貴様らには。

 気持ちはわかる。俺もそうだった。自分は頭がいいと思っている割には、なにかと言い訳をして行動は起こさなかった。自分はやろうとしている、環境が悪いんだと自分と他人問わず訴え続けた人生は約半世紀ほど経った。だが、俺は変わった。変わったんだ。だから行動している。自分が天才などとは思わない。むしろ逆ですらある。だから、俺ができることは…。



 「行くよ」



 部屋の外から女性の声がする。盛大に咳き込みよろけながら立ち上がった男は、目を擦りつつ大きなボストンバックを持って部屋を出て行った。

 

 外は雪が降っている。予報だとこれからどんどん天候は悪化しついくらしい。テレビはニュース番組が終わり、バラエティ番組を映し出していた。



「さぁ始まりました!お笑い大乱闘クリスマススペシャル!今回は…」

 



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