キャンディ、ペットボトル、飛行船
ここは空中浮遊帝国都市グンマー。
重力に反し、浮いている数々の島から成り立つ都市だった。
島から島への移動は大型飛行船が使用されている。
そんなグンマーで殺し屋を名乗る男、
ターゲットは通称、麻薬王と呼ばれる男。
名前は、
問題になったのはキャンディ型の麻薬だった。
舐めると一分間ほど驚異的な身体能力を発揮する事ができるという。
ここ最近、この麻薬キャンディによって犯罪率が急増している。
そんな折、彼が乗る飛行船の情報を入手した鹿直は滞空バイクと呼ばれる空中浮遊できるバイクで同じ飛行船に乗り込み潜伏していた。
◇◇◇
「飛行船に乗り込んだまではいいんだが...何で俺が乗ってる事がバレてんだぁ? 」
現在、
「まさか向こうに俺の顔が割れてるとはな...」
黒スーツにサングラスをかけて船に乗り込んだ鹿直だったが、ターゲットを探す為に船内を徘徊していたら突然ボディーガードらしき人物達に襲われ逃げ出した所だった。
「こりゃ情報流して来たやつもグルなんじゃねえか? まあバレちまったもんはしょうがねぇ、とっとと終わらせて家に帰ろう」
入り組んだ通路を歩いていると、運の悪い事に曲がり角でばったり敵に会った。
「あ」
「居たぞ鹿直だ!!撃て!! 」
間髪入れずに銃声が響き渡る。
しかしその銃弾は鹿直に届くことは無かった。
「あ、危ね!!死ぬかと思ったわ!」
鹿直の能力、それは二酸化炭素を生み出し操る能力である。
銃弾が飛ぶ直前に、身体の前に固体の二酸化炭素、つまりドライアイスを生成する。
直後に生み出したドライアイスを昇華させる事で体積を膨張させ、その勢いで銃弾を跳ね返したのだ。
ドライアイスが気体に昇華するとその体積は800倍以上になる。
ただし膨張するのは一瞬の為、銃を連射されれば簡単にこの防御は突破されてしまう。
「い、いないぞ!? クソっまた逃げられた!!」
だから鹿直は逃げるしか無かった。
「一人二人ならまだしも五、六人居られるとちょっと厳しいよな!!」
しかし、逃げながらも彼は確実にターゲットの部屋へと近付いていた。
◇◇◇
鹿直は武器を持ってきていない。
単純に重いからという理由もあるが、彼には必要ないからである。
今の所持品は、上から参考用に渡された麻薬キャンディと船内で飲み干した空のペットボトルだけだった。
鹿直の現在地は既に関抜の部屋の前。
「妙だな、船内には結構ボディーガードがいたはずだが、部屋の前にいないって事あるのか?」
右手に巨大なドライアイスを生成し、ドアを開けた瞬間に放り込んで閉める。
ドアから離れて昇華、次いでドカンッ!!と大きな音がなり、ドアが反対側の壁まで吹き飛んだ。
慎重に中へと入るが誰もいない。
圧力に耐えきれず割れた窓から風が吹いており、もぬけの殻。
「...場所間違えたか?」
その時、船外から声が聞こえてきた。
「今の衝撃、鹿直ぁ!!そこに居るんだろ!?」
「この声、外か!」
窓枠を掴み外を見ると、20m程離れた所に小型の飛行船が漂っていた。
「おっ! バカのお出ましだ! まんまと騙されたなぁ! お前は俺の掌の上で踊らされてたんだよ!!」
「あぁ!?何か言ってんのか!? 全然声が聞こえないんだが!!」
「嘘つけ絶対聞こえてるだろ!? こっちはお前の声が全部聞こえてんだよ!!」
「お前、関抜か!! お前の事殺しに来たんだが何でそっちにいるんだ!?」
「殺されたくねぇからだよ!? いいかぁ!! 俺に殺害依頼を出したのも俺!! 居場所を教えたのも情報流したのも全部俺だ!!」
「おでんが何だって!?」
「おでんじゃねえよ俺だよ!! お前がどんどん商売仲間ぶっ殺すからこっちゃあ商売上がったりなんだよ!! だからお前を嵌めて殺す算段を立てた、あばよ鹿直!! お前の顔面を間近に見れなくて残念だ!!」
そこまで言うと突然脇にいた部下からロケットランチャーを受け取り、鹿直に向かって照準を合わせる。
「はぁ!? ロケランは流石に───」
「H
問答無用でぶっ放し、鹿直に直撃させる。
避ける間もなく爆発し爆風が関抜の乗る小型船にまで届いた。
「おい、今の俺カッコよく無かったか!? いい気分だぜ、バカを一人ぶっ殺した後ってのはな!!」
部下に酒を持ってこさせ、小型船のデッキ部分でくつろぎ始める。
「おい、もう船から離れろ、アジトに帰るぞ」
「はっ、只今運転手に指示します」
リクライニングチェアに座り目を閉じると、『音』が聞こえた。
「? 下から何か───」
デッキの外に顔を向けた瞬間、影が下から出現した。
「おい、別れの言葉はなしか?」
空中に滞空バイクに乗ったまま飛び出してきたのは、口に麻薬キャンディを加えた鹿直。
所々黒くなったワイシャツを着ており片手にはペットボトルを握りしめている。
「し、鹿直ぁぁああああ!!!」
「地獄で会おうぜ、ベイビー」
直後、鹿直の持つペットボトルが爆発した。
正確には、瞬間的に膨張したことによりキャップが吹き飛んだ。
狙いを定めていたキャップは超速で関抜の眼球に直撃し、脳にまで達する。
即死だった。
「任務完了」
そのままバイクと共に下へと落ちていくが、途中で軌道を変え、小型船から離れていく。
船に乗っていたボディーガードが慌てて駆け寄った時には関抜は絶命していた。
「し...死んでる───お、追え!! 鹿直を逃がすな!!!」
◇◇◇
ロケットランチャーが直撃する寸前、鹿直は麻薬キャンディを口に含んで目の前にドライアイスを作り昇華させた。
膨張した二酸化炭素が弾に衝撃を与え、一瞬だけ押し戻す。
そのタイミングで鹿直はスーツを脱ぎ振り返って走り出した。
キャンディにより向上した身体能力で一息に部屋から飛び出す。
直後に背後で弾が爆発する音、スーツを頭に被って全身を覆うようにドライアイスを生成し身体を守る。
少しでも離れようと横に飛んだ瞬間に爆風が鹿直を襲った。
「ガッ!! おああああああ!!!!」
地面を転げ、壁に叩きつけられたが重傷には至らなかった。
「痛ってぇ!! クソッ関抜の野郎ロケランなんか用意しやがって...」
その後、乗ってきたバイクに乗り込み船から降下する。
「見ーつけたっと!」
関抜の船を発見、持っていたペットボトルの蓋を開け、ドライアイスをぶち込んでキャップを緩めた。
ペットボトルロケットを作り出し、中で気体に戻す事で、逃げようとした気体が緩んだキャップに圧力をかける。
そして流星の如き速度で飛び出したキャップが、関抜の眼球を破壊したのだった。
◇◇◇
「かくかくしかじかで、任務完了しました」
「お前さ、毎回それ言うけどそれじゃあこっち全然分かんないんだわ」
「いやだから、バイクで船忍び込んでうんぬんかんぬん」
「だからそれじゃあ全然分かんないって言ってんだよ!!どうして分かんねえんだよお前!?」
「だって俺たちツーカーの仲じゃないですか」
「もういいよお前...仕事こなしてきたんだったら別に...トップが死んだんだ、製造ラインが止まった訳じゃない、今日からまた忙しくなるぞ」
「そんときゃまた電話下さい、かくかくしかじかでーってね」
かくかくしかじかで、今日も鹿直は仕事を終えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます