第11話 売却と胡椒

 昼食を摂り、午後になった。

 また二階から丘を監視する。

 丘の一本道を一台の幌馬車が登ってくる。


「きたきた、ライエル商会さんきたよ~」

「「わーぁああ」」


 みんなで孤児院の玄関に向かう。

 馬車が進んできて、玄関前に止まった。


「「こんにちは~」」

「はい、こんにちは。ライエル商会のジョン・ライエルです」

「「わああああ」」


 まずは孤児院と女子修道院の取引で、野菜とワインがハムや塩などに交換されていく。

 私たちはお手伝いをしたり、それを見学したりして、自分たちの番がくるまで待機する。


「ではあとは個人取引だね」

「ライエルさん、乾燥ホワイト草を」

「ああ、最近取引が増えてうれしいよ」


 私が採ってくるようになってから、他の子も真似してお小遣い稼ぎをするようになった。


「んじゃあ、私の番かな」

「はい、トエ嬢ね。今日は何を持ち込んだかな」

「まずは乾燥ホワイト草、それからサクラ草を」

「おお、サクラ草ね。今の時期はちょっと値段が落ちるけど、いいかな」

「もちろん。はいこれです、よろしくお願いします」

「どれどれ。そうだな、全部で金貨1枚銀貨6枚くらいかな」

「ほほう」


 思ったより高い。

 ホワイト草だけだと銀貨8枚ぐらいだったので、倍くらいだ。


「サクラ草は新しいようだし、綺麗だからね。元々ちょっと高いし」

「ほむほむ。じゃあその値段で、お願いします」

「はいよ」


 ホワイト草とサクラ草を交換した。


「あとはですね。スライムの魔核が9個、サルノコシカケの小さいのが3つですね」


 これは今日までに森を探索した時の収穫だ。

 普通のキノコは食べちゃうけど、サルノコシカケは取っておいた。


「お、おう。……金貨1枚、銀貨5枚だな」

「ありがとうございます」


 けっこうぽんぽん金貨がもらえるけど、1万円相当だ。

 本来ならそんな金貨になったりしないけれど、魔核が1つ銀貨1枚だし、私の場合はちょっと特殊なのだ。


 ちなみに計算が難しくなると誰も計算できないので、大銅貨、銅貨の分は省略されていて、けっこうどんぶり勘定になっている。

 1,980円とか異世界にはそういうのはないのだ。ずばり2,000円、銀貨2枚というふうに。


「それで、欲しいものが……」

「あいよ。あるもんしか出せないけど、見てってくれ」


 幌馬車の荷台を覗き込んで物を探す。

 といっても、今回欲しいものは決まっている。


「あのおじさん、胡椒が欲しいんですけど、ありますかね?」

「あぁ、あることはあるよ。どんくらいにする? 結構高いよ」

「金貨1枚分で」

「ああ、この子はぽんぽん金貨出すけど、価値が分かってんのかね」

「金貨でパンが100個買えるんですよね、分かってますって」

「あぁん、ああ、確かに理解はしてるようだな。普通なら100個とかすんなり計算できないもんだが」

「算数は得意なので、えへへ」

「トエ嬢は変わっているな、まあいい、はい、胡椒を金貨1枚分。これで全部だ」

「はい、ありがとうございます」


 だいたい革の袋一杯分かな。

 毎日20人の料理に使ったら2週間分くらいだろうか。


 胡椒もそれからトウガラシも高い。

 なんせ南からの渡来品だ。

 トウガラシは入ってきて日が浅い。ここエストリアでも栽培できるけれど、ほとんど普及していないので、現地調達とはなかなかいかないので、高い。


「トエちゃん、これなんの種なの?」

「これが胡椒の実だよ。トウガラシとは違った風味があって、ちょっとだけ辛いけど、これすごくおいしいの」

「美味しいんだ! やったぁ」


 サエナちゃんがよろこんでくれるなら、色々お買い物する甲斐がある。



 胡椒を厨房のおばちゃんに渡して、塩スープにトウガラシと同じ要領で胡椒を入れてもらうことにする。

 胡椒を入れるときはトウガラシは入れないで、って言っておいた。

 辛いスープにするならトウガラシに胡椒を少し入れてもいいけれど。



 午後の畑仕事をする。

 だいたいが野菜の手入れだ。

 脇芽を摘んだり収穫したり、水を撒いたりする。

 水は撒かずに、雨まかせの植物もあるので、そこまで大変ではないけれど、それなりに手間は掛かっているようだ。


 夕ご飯になった。


 挨拶のお祈りを済ませて、いただきます。


「んっ、なんか黒い粒が入ってるけど、これのせいかな、美味しい!」

「本当、美味しい、食べたことない」

「美味しい、美味しい!」


 みんな胡椒入りスープはなかなかお気に入りのようだ。

 今までほとんど塩で、この前トウガラシを使っただけだから、胡椒の風味はたまらない。


 私は領主館の料理でも、胡椒が使われていたので、塩スープを初めて飲んだときには、薄味でちょっと物足りないと思っていたのだ。


 やはり胡椒は偉大だ。

 しかし、問題は値段と、この辺では栽培がうまくいかないらしいということだろう。

 胡椒は実そのものだから、そのまま植えたら生えそうなものだけど、そうはいかないらしい。


 何はともあれ、私たちの食生活に胡椒が加わった!


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