第3話
*
ジェットコースターに乗ってみて、わかったことだけど、結論として、ものすごく楽しい。
もうなんていうか言葉にできないくらいに……うん、本当に楽しかったんだ。
というわけで、今、僕たちがいるのはベンチで休憩中である。
あのあと乗ったジェットコースターは今まで経験したことのないほどの恐怖を僕に与えてくれたが、終わってみると不思議と嫌な気分にはならなかった。
むしろ爽快感すらあったほどだ。
そんなことを考えていると、横から声をかけられた。
「大丈夫ですか? お水飲みます?」
心配そうに顔を覗き込んでくる姉さんは、ペットボトルを差し出してくれた。
ありがたく受け取り一口飲むと、冷たさが身体中を駆け巡った。
おかげで少し気分が良くなった気がする。
一息ついたところで改めて周りを見渡してみると、家族連れやカップルの姿がたくさん見えた。
みんな楽しそうに笑っている。
それはそうだろうなと思いながら眺めていると、ふいに視線を感じたのでそちらに目を向けた。
そこにはこちらをじっと見つめている姉さんの姿があった。
どうしたのだろうと首を傾げていると、今度は恥ずかしそうに目を伏せてしまった。
心なしか顔も赤いような気がする。
何か言いづらいことでもあるのだろうか?
それとも体調が悪いとか……?
そんなことを考えていた僕の耳に、小さな声が聞こえてきた。
よく聞き取れなかったのでもう一度言ってもらおうとしたその時、突然頬に柔らかい感触がした。
驚いて横を見ると、顔を真っ赤に染めた姉さんが立っていた。
そして小さな声で呟いた。
「……おまじないです」
「えっ……?」
思わず聞き返すと、姉さんはさらに顔を赤くさせて俯いてしまった。
よく見ると耳まで赤くなっている。
一体どうしたんだろうか……?
いや、それよりも今は聞かなければならないことがあるだろう。
そう思い、僕は口を開いた。
「えっと、その、今のって……?」
「……その……キス……です……」
あっ……やっぱりそうなんだ……というか……えっ!?
なんでそんなことするの!?
混乱する僕を他所に、姉さんは言った。
「そ、そろそろお昼ご飯にしましょう! 私、お弁当作ってきたんです!」
「えっ……あ……うん」
「さあ! 行きましょう!」
そう言って歩き出してしまった姉さんの後を追いかけるように僕も歩き出したのだった。
*
昼食を終えた僕たちは、その後いくつかのアトラクションに乗って楽しんだ後、最後に観覧車に乗ることにした。
ちなみに、その間ずっと手を繋いでいたせいで周囲からの視線が痛かったことは言うまでもないだろう。
そんなこんなで観覧車に乗り込み向かい合って座った僕と姉さんの間には沈黙が流れており、気まずい空気が漂っていた。
とりあえず話題を振ってみようと思い話しかけようとしたのだが、先に話し始めたのは意外にも姉さんの方だった。
「弟君」
「なに?」
「今日はありがとうございました」
突然のお礼の言葉に驚く僕だったが、すぐに気を取り直して言った。
「こちらこそありがとう。とても楽しかったよ」
僕の答えを聞いた姉さんは嬉しそうな笑顔を浮かべたかと思うと、急に真面目な顔になった。
そしてゆっくりと立ち上がると、そのままこちらに近づいてきた。
そのまま座っている僕の前に立つと、その場で膝をついた。
そしてそのまま僕の両手を包み込むようにして握ると、真っ直ぐにこちらを見つめてきた。
その瞳には強い意志のようなものが宿っているように見える。
そして一言だけ言った。
「好きです」
「っ!?」
驚きのあまり声が出ない僕の様子を見て微笑むと、姉さんはそのまま続けた。
「私はあなたのことが大好きです。世界中の誰よりも愛しています」
普段の姉さんからは想像もできないような告白を受けた僕は何も言うことができずにいたが、そんな僕に構わず姉さんは話を続けた。
「本当は、もっとロマンチックな場所で言いたかったのですが、もう我慢できません」
そう言うと、握っていた手を離して立ち上がった。
そして一歩後ろに下がると深々と頭を下げてから口を開いた。
「不束者ですが、どうか、よろしくお願いします」
その言葉にハッとした僕は慌てて立ち上がり、同じように頭を下げた。
それから頭を上げると、お互いに見つめ合ったまましばらく黙り込んでいたが、やがてどちらからともなく笑い出した。
それからしばらくの間笑い合っていたが、ふとあることを思い出してポケットからあるものを取り出した。
「姉さん」
呼びかけると、姉さんは笑うのを止めて首を傾げた。
それから僕が差し出したものを見ると、驚いた表情を浮かべた後、恐る恐るといった様子で受け取った。
それを大事そうに胸に抱くと、静かに涙を流し始めた。
そんな彼女のことを優しく抱きしめると、そっと頭を撫でながら囁いた。
「これからもよろしくね」
それを聞いた姉さんは涙で濡れた顔を上げると、満面の笑みを浮かべながら頷いたのだった。
*
遊園地からの帰り道、僕たちは手を繋ぎながら歩いていた。
その横顔はとても楽しそうで、見ているこっちまで楽しくなってくるほどだった。
そんなことを考えながら歩いていると、不意に声をかけられて我に返った。
「弟君、今日のデートはどうでしたか?」
質問の意図がよくわからなかったので素直に答えることにした。
「姉さんと遊ぶのは、やっぱり楽しいよ」
「本当ですか?」
「うん、本当だよ」
僕が答えると、姉さんは嬉しそうに笑った。
そして僕の方を向いて言った。
「私も楽しかったです!」
そう言って微笑む姿は、夕陽に照らされて輝いて見えた。
その姿に見惚れていた僕だったが、しばらくして我に返ると慌てて目を逸らした。
すると、それを見ていた姉さんが不思議そうに尋ねてきた。
「どうしたんですか? そんなに顔を赤くして……」
「べ、別になんでもないよ!」
咄嗟に誤魔化すも姉さんは納得していないようで、さらに追及してきた。
しかし、どう答えたものか迷っているうちに、結局諦めて前を向いてしまった。
そのことにホッとしていると、突然こちらを振り向いたかと思うと、僕のことを見つめてきた。
その顔は真っ赤に染まっていた。
それを見て僕もまた顔が熱くなるのを感じた。
なんだか恥ずかしくなってきた僕は、思わず顔を背けてしまった。
それがいけなかったのだろう。
いつの間にか目の前に立っていた姉さんは両手で僕の頬を包むと、強引に自分の方を向かせたのだ。
驚いている僕をよそに顔を近づけてくると、そのまま唇を重ねられた。
柔らかな感触と共に甘い香りが鼻腔をくすぐる。
しばらくして離れた唇は少し濡れていて、そこから熱い吐息が吐き出された。
それを見た瞬間、頭が真っ白になり何も考えられなくなった僕は、無意識に手を伸ばしていた。
そして次の瞬間、気がついた時には彼女のことを強く抱きしめていたのだ。
*
それから僕たちは駅に向かって歩いていた。
その間に会話はなく、ただ黙々と歩くだけだったのだが、不意に姉さんが立ち止まったので僕も足を止めると、おもむろに振り返ったので慌てて足を止めた。
すると次の瞬間、今度は姉さんにいきなり抱きしめられてしまった。
突然の出来事に驚いていると、耳元で囁くような声で言われた。
「今日は本当に楽しかったです。ありがとうございます」
「うん、僕も楽しかったよ」
「はい。それと、これからもずっと一緒にいてくださいね?」
「うん、もちろんだよ」
「ふふっ、嬉しいです♪」
そう言って笑った直後、さらに強く抱きしめられた。
正直ちょっと苦しいくらいだが、それ以上に幸せな気持ちでいっぱいになりながら家路につくのだった。
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