ずっと家族だった姉が義姉だったので、恋人同士になりました。

三浦るぴん

第1話




  *




「おはようございます、弟君」


「おはよう、姉さん。朝から元気だね」


「はい! 今日は、弟君と一緒に登校できる日ですから!」


 満面の笑顔で姉さんはそう言った。


 なんか、朝から姉さんの笑顔が見れて、僕はとても嬉しいよ。


「そ、そっか。じゃあ、行こうか」


「はい!」


 僕と姉さんは一緒に学校に向かう。


「そういえば、弟君。今日の帰りって時間ありますか?」


「ん? まぁ、大丈夫だけど」


「そうですか! なら、放課後にデートしましょう!」


「え?」


 突然のことに、僕は思わず立ち止まってしまった。


「あ、あの、もしかして、嫌でしたか?」


「いやいや、そんなことないよ。ただ、ちょっとびっくりしただけだから」


 不安そうにする姉さんを安心させるように、僕は慌てて否定する。


「そうですか。よかったです」


 ほっと安堵の息を吐く姉さん。


 そんな姉さんを見て、僕は改めて思う。


(やっぱり、姉さんには敵わないなぁ)


 それから、僕たちは学校に着くまで、他愛ない会話をしながら歩いていった。




  *




 時間は過ぎていき、放課後になった。


 姉さんと校門で待ち合わせをしている僕は、まだかまだかとそわそわしていた。


 すると、僕を呼ぶ声が聞こえてきた。


「お待たせしました、弟君」


 声のした方を向くと、そこには姉さんが手を振りながら立っていた。


「いや、僕も今来たところだよ」


「それなら良かったです。では、行きましょうか」


「うん、そうだね」


 そして、僕たちは目的地に向かって歩き始めた。


「それで、どこに行くの?」


「それは着いてからのお楽しみです」


 悪戯っぽく笑う姉さん。


 それを見て、僕は少しドキッとした。


「あ、着きましたよ、弟君」


 そう言って、姉さんは足を止めた。


 そこは、一軒のお店の前だった。


 看板を見ると、「アクセサリーショップ」と書かれている。


「ここ?」


「はい。前から来てみたかったんです。それじゃあ、入りましょうか」


「うん」


 店内に入ると、ショーケースの中にネックレスや指輪などの装飾品が置かれていた。


「わぁ! どれも素敵ですね!」


 目を輝かせる姉さん。


 その姿は、年相応の女の子だ。


 しばらく眺めていると、店員さんが近づいてきた。


「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」


「えっと、このお店にある商品の中で、一番良いものを見せてもらえますか?」


「かしこまりました。少々お待ちください」


 そう言うと、店員さんは店の奥に入っていった。


「姉さん、どうして一番良いものを頼んだの?」


「だって、せっかくの弟君とのデートですよ? 思い出に残るような、素敵な物が欲しいじゃないですか」


「そ、そうなんだ」


「はい! あ、そうだ! 弟君も何か欲しい物はありますか?」


「え? いや、特に無いけど」


「本当ですか? 遠慮しなくてもいいんですよ?」


「本当に大丈夫だよ」


「そうですか。分かりました」


 残念そうに言う姉さん。


 なんだか、申し訳ない気持ちになった。


 それから、しばらくして、店員が戻ってきた。


 手には小さな箱を持っている。


「お待たせ致しました。こちらになります」


 店員から渡された箱を、姉さんは開けた。


 中には、銀色のチェーンが入っていた。


「ありがとうございます。これで大丈夫です」


「承知いたしました。では、レジの方へどうぞ」


 会計を済ませて、僕たちは店を出た。


「今日はありがとうございました、弟君」


「うん、どういたしまして。でも、結局、僕は、ただ見てるだけだったね」


「いいんですよ、そんなことは気にしなくても。私は、弟君が側にいてくれただけで、満足なんですから」


「そっか」


 そこまで言われたら、もう何も言えないな。


「さて、そろそろ帰ろうか」


「そうですね」


 そして、僕たちは帰路に着いた。




  *




 家に着くと、玄関の前に誰かが立っているのが見えた。


 よく見ると、それは父さんだった。


「父さん、どうしたの?」


 僕が声をかけると、父さんは振り向いた。


「おお、帰ったか、お前たち」


「ただいま戻りました、父さん」


「ああ、おかえり。ところで、話があるんだが、いいか?」


「いいけど、何の話?」


「まあ、とりあえず中に入れ」


 促されるまま、僕と姉さんは家に上がった。


 リビングに入ると、母さんもいた。


「あら、お帰りなさい」


「うん、ただいま」


「お母さんも、おかえりなさい」


「ええ、ただいま」


 挨拶を終えると、父さんは本題に入った。


「今さらだが、大事な話があってだな」


「何かあったの?」


「今まで隠していたんだが、実は、お前たちは血が繋がっていないんだ」


「へ?」


 あまりにも予想外の言葉に、僕は固まってしまった。


(今なんて言った? 血が繋がってない?)


 突然のことに混乱していると、父さんはさらに続けた。


「もちろん、俺も母さんもお前たちのことを実の子だと思っている。だから、どうか、俺たちの家族でいて欲しい」


 父さんの言葉を聞いて、僕の頭の中は真っ白になった。


 隣にいる姉さんも同じらしく、呆然としている。


 そんな僕たちを見て、母さんが口を開いた。


「突然こんなことを言われて、驚いているでしょうけど、私たちは貴方たちを本当の子供だと思って育ててきたわ。それだけは信じてちょうだい」


 その言葉に嘘偽りは無いように思えた。


「本当はもっと早く言うべきだったんだが、なかなか言い出せなくてなすまない」


 頭を下げる父さんに、僕は慌てて声をかけた。


「あ、頭を上げてよ、父さん!」


「そうよ、貴方。それに、いずれ話すつもりだったんでしょう?」


「それはそうだが」


「なら、謝る必要なんてないじゃない」


「そうかもしれないが」


 それでも、どこか納得していない様子の父さんに、今度は姉さんが声をかけた。


「あの、父さん」


「なんだ?」


「そのことについてですが、私たち姉弟は両親に感謝しています。血は繋がっていなくても、二人は私にとって大切な存在です。これからもずっと一緒にいたいと思っています」


 それを聞いた父さんと母さんは顔を見合わせると、嬉しそうに笑った。


「そうか、ありがとう」


「ふふっ、そうね」


 そして、僕の方を向いてこう言った。


「お前も、それでいいか?」


「うん、いいよ」


 僕の言葉に、父さんと母さんは安心したように息を吐いた。


「よし! それじゃあ、飯にしよう! 今夜はご馳走だぞ!」


 そう言って、父さんは台所に向かった。


 その後に続いて、母さんも台所に向かう。


 そんな二人の後ろ姿を見ながら、姉さんは言った。


「弟君、良かったですね」


「うん、そうだね」


 僕も同じように返すと、姉さんは微笑んだ。


 僕もつられて笑う。


 すると、それを見た姉さんが言った。


「やっぱり、弟君は笑顔が似合いますね」


「そうかな?」


「はい! とっても素敵ですよ!」


 そんなことを笑顔で言うものだから、僕は照れてしまった。


 顔が熱い。


 きっと赤くなっているんだろうな。


 そんな僕に、姉さんは追い打ちをかけるように言った。


「ほら、また赤くなってますよ? かわいいですね」


「か、かわいくなんかないよ!」


 必死に否定するが、姉さんはますます笑顔になるばかりだ。


 これはもう何を言っても無駄だろう。


 諦めてため息をつく僕を、姉さんは楽しそうに見ていた。

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