第4話 粛清の騎士、黒百合

※  ※  ※

 中庭から悲鳴が聞こえたので戻ってきたら、怪物に殺されかけるわ黒百合さんは一瞬で変身するわで訳がわからない。えっ、まさかあのサーブル、真剣じゃないわよね……?

「きゃああ!フルール・ド・リス、黒百合の騎士様よ!」

「素敵!頑張ってくださいまし!」

 さっき逃げていたはずの生徒たちがいつの間にか戻ってきて黄色い声をあげている。

「ウ……ウガアアアアアア!!」

 怪物は、黒百合さんを見て……普段なら憧れの存在であるはずなのに……爪を振りかざして襲いかかろうとする。

「あっ、ダメよ美千代さん!!」

「フンッ!」

 黒百合さんは怪物の攻撃をひらりとかわすと、サーブルで左胸をひと突きした。

 苦しそうに呻く怪物。

「アッ、ガアアアア……ク……ユリ、サマ……」

「聖マリアンナ学園の生徒は、『清く正しく美しく』あるべきです。そう在ることができないのなら、この学園から去りなさい」

 黒百合さんがサーブルを引き抜く。それに伴い、怪物……美千代さんは黒い靄のようなものになって、消えてしまった。

「黒百合様が怪物を倒してくださったわ!」

「さすがフルール・ド・リスですわ!」

 生徒たちが歓声をあげる。……ちょっと待ってよ。美千代さんはどうなったのよ!

「ひどい!消しちゃうなんて!美千代さんをもとに戻してよ!

「あれは聖マリアンナには相応しくない存在だった。だから粛清したまでのことです」

「そんなの貴女が決めることじゃないわ!」

 私が肩を掴んで抗議しようとすると、黒百合は私のお腹を蹴り飛ばした。

「痛っ……!!」

 蹴られた勢いで尻餅をついた私の喉元に、冷たいものが触れた。黒百合がサーブルを私の喉元に突きつけている。美千代さんの存在を奪った、本物の武器を。

「静かになさい。フルール・ド・リスに逆らうのなら、貴女も学園の秩序を乱す存在と見なし、粛清しますよ」

 冷たい刃の感触に、私は恐ろしさに息を止めた。野次馬の生徒たちは、黒百合ではなく、私を、責めるように見ている。

 でも、それでも。

「……こんなやり方、私は許せない!」

「……ならば消えなさい」

 黒百合がサーブルを引いて、大きく振りかぶった。嘘、私こんなことで死んじゃうんだ。

 もうダメだと目をつぶった、その時。

「オーーーホッホッホ!!そこまでですわ!!」

 高らかな笑い声がフロア中に響き渡った。

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