命尽きるまで私は戦う。P.S魔法少女とのラブコメは大変です。
山城京(yamasiro kei)
第1話 残酷描写あり。
血で塗れていた。右目の眼球は割れたガラス片が突き刺さっており、最早目としての機能は果たしておらずただ血を溢れさせるだけの窪みになっている。
胴体も瓦礫の落下に巻き込まれたせいであちこち青あざだらけになっていた。この分だと骨が折れている部位もあるだろう。
そして何よりマズイのは、瓦礫から飛び出た鉄筋が脇腹を貫通している。出血の量を見るに内蔵を損傷しているのは間違いなかった。
もう間もなく流れる血も尽きるだろう。少年は誰が見ても死ぬ間際だった。むしろ、生きているのが不思議だった。
「転移は成功したようですね」
「みたいだなー。いやーよかったよかった。とりあえず第一目標は達成だ」
声が聞こえた。どちらも耳障りのよい綺麗な女性の声だった。
最初の声は鈴を転がすような、という表現がぴったりの美しいソプラノボイスだった。声を聞いただけで持ち主が人並みならぬ美貌の持ち主であろう事がはっきりとわかる、そんな声だった。
二人目はダルそうな、それでいてどこか生意気な感覚を抱かせる声だった。しかし、不思議と嫌悪感は抱かなかった。むしろ、気心の知れた異性の幼馴染が甘えてきた時を思わせるような猫にも似た声音だった。
そんな二人は死にかけの少年がいる事には気付かぬまま会話を続ける。
「転移の規模はまだわかりませんが、まずは活動拠点を築きましょう」
「そうだな。流石に何をするにも手持ちの武器だけじゃ心許ない。早いところパトロンを見つけよう。時間は有限だからな」
「ですね。では急いでこの場を脱出しましょう。政府にバレては厄介です」
「あー嫌な事思い出した。あたし達の身分も急いで用意しないと。この時代の制度はよくわからんけど、流石に身分証なしじゃ寝泊まりも出来ないだろうしなー」
「幸い私のメモリーに情報があります。記憶喪失を装ってSSSを尋ね――」
そこまで話して少女は少年に気付いた。
「そんな……どうしてここに……!」
「冗談キツイな。予定外にも程がある。よりによってこいつとは」
少女達は少年に駆け寄った。そして、少年の容態が手の施しようがない事に気付くと揃って沈黙し、熟考に入った。
「月光花を使おう」
そう言ったのはダウナー系の声音の少女だった。それを受けてもう一人の少女は驚いた様子を見せ何か反論しようとしたが、やがてそれ以外に少年を助ける方法がない事に思い当たると静かに頷いてみせた。
ダウナー系の少女はバックパックからシリンダーに入った花を取り出した。そしてこう少年に話しかけた。
「見えるか? まあ、見えてなくてもいい。これは月光花。今からお前にこの花の血を飲ませる。そうすれば、お前は生きる事が出来るかもしれない」
少女は月光花の花弁をひとひら千切ると、少年の口元まで持っていった。
ザクロのように真っ赤な花弁のその先から、月光花の血液が滴り落ちる。
ポタリ、ポタリとまた一滴。少女は少年の口内に月光花の血液を落としていく。
やがて月光花の血液が枯れ果てると、少女はこう言った。
「これでお前が生きるか死ぬかはお前次第だ。お前がこの世界でも、あたし達の知るお前なら、きっと生き延びて戦う道を選ぶだろう。次に会う時、その時はあたし達と同じ道にある事を祈っているよ」
その言葉を聞くと同時に少年の意識はなくなった。
「……行こう。これ以上、今のあたし達に出来る事はない」
少女二人は後ろ髪を引かれる思いでその場を去って行った。特に、ソプラノボイスの少女はただ単に怪我人を放置する以上の思いを抱いているようで、無力感や遣る瀬無さといった強い後悔の念を抱いているようだった。何度も何度も後ろを振り返りながら去っていった。
○
通称「灰色のオリンピック」と呼ばれるその事件が起きたのは2020年の事だった。
日本中が東京開催のオリンピックに湧く中、東京直上に白い球体のエネルギー塊が出現した。
政府が緊急会議を開いた一時間後、球体は周囲の一切合切を切り取るように空間ごと消滅させ、まばゆい閃光と共に弾け飛んだ。
およそ900万人の命を一夜にして奪い去ったその事件は、日本国民のみならず、世界中の人間の脳裏に刻み込まれた。だが、球体は奪い去るだけではなかった。同時に、人々に革新的な技術も与えたのだ。
切り抜かれて湖のようになってしまったかつての東京があった位置に、まるで穴を埋めるかのように浮島が現れたのだ。
その島にはアンドロイドがいた。何も無い、ただただ更地の島に、アンドロイド達は佇んでいた。
その形状は様々だった。人と相違ないほどに精巧なアンドロイドから、四足歩行のアンドロイド、丸い胴体に手足がついただけのロボットといった方が正しいような見た目のものまで様々だった。共通しているのは、それらは一様に「日本」に好意的だった事だ。
彼らは自らを、この時代の技術レベルを向上させるための存在だと言った。だが、それはあくまで日本に限った話であり、同盟国であるアメリカが訪れた際は、アンドロイド達は武力を持って敵対した。
こうして、日本は首都を失うという致命的なダメージを負いながらも、先進技術に関して他国の一歩も二歩も先を行く事になった。アンドロイド達に使用されている技術を政治的な交渉材料とし、日本は第二次高度経済成長期へと突入していった。
それから10年後の日本。
そんな地の土を踏む一人の少年がいた。
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