もたもた おそうじ
「片付けましょう」
「うん……」
交際中から、彼氏の
知ってて、一緒に住み始めたけど、ここ迄とは、思わなかった。
自分の部屋だけなら、まだ許すよ。
頼むから、共有スペース迄、物が侵食して来るの、勘弁して。
「うわッ!」
或る日、掛君の部屋のドアを開けると、積み上がった物達が、雪崩を起こし、私に襲い掛かって来た。
私は、寡聞にして、二十数年の人生で、部屋のドアから物が溢れ出る様を、初めて見た。
そこで、二人のオフが重なった今日、
思い切って、整理しよう、と言う話になったのだ。
「物って、沢山、あるだけあっても、困んないじゃない?」
「その分だけ、スペース取って、家賃と、管理の手間が、掛かってるんです!」
この兄さんの認識を変えるのは、骨が折れそうだ。
「じゃあ、もっと広い家に住もう!」
「この部屋、先月、契約したばっかでしょうが!
私達の仕事って、リーマンと違って、安定してないから、契約、取り付けるの、大変だったんですよ!?」
私が、不動産屋に話通して、敷金礼金インフラ開通その他諸々、全部、手続きしたのに、そうそう、何度も越されちゃ堪らない。
「それに、契約上、最低でも半年、住まないと、違約金が掛かるんです」
「そうなの?」
知っとけよ、成人男性。
「今度、引っ越す時は、庭付きの家に、倉庫を建てて……」
「どんだけ豪邸に住む気ですか!
他に資格0の癖に、今の仕事、廃業したらどーすんの!?」
「そしたら、俺、
あざとい上目遣いで、見詰めて来ないで。
「……/// いや、いざって時は、私が養いますけどね?」
可愛くて許しちゃう、私も私だ。
「先ず、物の総量を減らしましょう」
「お、おう」
手元に、大きいゴミ袋を用意する。
「これは?」
「あ、それは、ファンの方に、プレゼントして貰った服……」
「これは?」
「あ、それは、イベントで着た衣装……」
「これは?」
「あ、それは、台本……。
初メインキャラ出演だから、記念に……」
こんな調子だから、仲々、減りやしない。
「この、封筒は?」
「わぁ、懐かしい……さやちゃんから、貰った手紙だ」
「さやちゃん?」
「うん。俺の、初恋の子で……///」
カチッ シュボッ
「尽さん!真顔でライターに火ぃ着けないで!
顔が炎に照らされて、『呪怨』みたいになってる!」
チッ……(舌打ち)
「私が居るのに、こう言う物を取って置くのって、どうかと思うんですよね……」
「お、思い出だよ!
さやちゃんだって、きっともう、結婚してるだろうし……。
尽さんこそ、元彼の思い出の品とか、あるだろ?
高校時代の演劇部の彼に、『俺のジュリエット』とか、呼ばれてたじゃん!」
「あ、私は、いいんです」
「どう言う理屈!?」
「ふぅ。喉、渇いたから、麦茶でも飲んで来る。
尽さんも要る?」
「いや、ここに運んで、溢したら、大惨事なんで。
私は、いいです」
彼は、そう?と言い乍ら、キッチンへ消えた。
私は、部屋を、ぐるりと見渡す。
明白に、ゴミでしか無い物は、粗方、捨てたから、量は減ったと思う。
後は、物の置き場所を決めて、出したら、都度、仕舞わせる様にすれば……。
「ん?」
山の中から、オルゴール箱みたいな、小さくて綺麗な箱を見付けた。
何と無く宝箱っぽくて、少し気が引けたけど、好奇心が勝って、蓋を開けてしまった。
中には、一枚の、プリクラが入っていた。
今より少しだけ若い二人が、満面の笑みで写っている。
これ、初デートの日に、私と、初めて撮った奴だ……!
殆どは、スマホやら手帳に貼ったりして、使ったんだろうけど、
一枚だけ、大事に、取ってたんだ。
……ちょっと、何でもかんでも、捨てろって、言い過ぎたかな……?
「……今日は、この位にしましょうか」
「う~、疲れたぁ」
「続きは、次の休みに。
まぁ、部屋がこれじゃ、寝られないでしょうから。
今日は、私の部屋で寝て下さい」
「えっ……、あ、うん……///」
先月の私の誕生日から、二人で住み始めたばかりだから、
誘うと、掛君は、いちいち、恥ずかしそうにする。
「今日は、偉かったね。
好きなだけ、ご褒美、上げるからね。掛君」
「……うん……///」
耳元で、取って置きの声で囁くと、顔を真っ赤にして、俯いてしまった。
その夜は、彼を私のベッドに招き入れて、ゆっくり、美味しく頂いた。
今夜は、お楽しみでしたよ。
チュン、チュン、チチチ……
「あー……お早うございまふ……」
「お早よ。頭、寝癖、付いてるよ?」
もそもそと起き出し、キッチンを覗くと、
早起きの掛君が、エプロン姿で、朝ご飯を作っていた。
白ご飯、海苔、卵焼き、納豆、お浸し、わかめスープ。
「朝はパンよりご飯派」の私に、合わせてくれている。
起きたら、好きな人に、ご飯作って貰えてるって、幸せだなー。
「美味しいです……」
「そうかい?良かった!」
彼は、嬉しそうに笑う。
「掛君、今日のシフトは?」
「ん~、昼過ぎに出て、夕方迄……尽さんは?」
「私は、朝から。上がりは、夜になります」
「じゃあ、ご飯作って、待ってる」
「なるべく、早く帰りますから」
玄関で軽いキスをして、家を出た。
『終わりました。今から帰ります。
夕飯は、何ですか?』
スマホで、LINEのトークを送って、会社を出る。
♪~
横断歩道を渡った所で、通知音が鳴った。
『お疲れ様!今日は、肉じゃがだよ!
気を付けて、帰ってね』
おお。
ここで、肉じゃがを出して来る辺り、クソあざとい。でも、可愛い。
毎日、ご飯作りも、頑張ってくれてるし。
昨日は、片付けも、少し進んだし。
何か、喜びそうな、お土産でも、買って帰ろうかな?
マツモト●ヨシに寄って、掛君の好物のホッピーを、2本、買った。
「只今ー」
靴を脱いで、倒れる様に玄関に上がる。
キッチンから、肉じゃがの、美味しそうな匂いがする。
「……掛君?」
なのに、掛君が、出迎えてくれない。
いつもなら、私の方が後に帰ると、犬みたいにパタパタ走って来て、お帰りって、笑ってくれるのに。
コン、コン
「掛君?」
リビングにも、ダイニングにも居なかったので、
掛君の部屋のドアを、ノックする。
「あっ、尽さん……!」
中から、掛君の声が聞こえる。
ガチャッ
私は、勢い良く、ドアを開けた。
「何で、一日で、部屋、元に戻ってんのよ」
……開けたドアから、積み上がった物達が、雪崩を起こして、私に襲い掛かって来た。
「ご免、尽さん……」
奥から、「テへ☆ペロ」って効果音がピッタリの、掛君の顔が覗く。
……取り敢えず、お土産のホッピーは、2本共、自分で呑もう。
部屋のドアから物が溢れ出ると言う希有な光景を、数日間で二度も、見る羽目になった私は、
そんな事を、ぼんやりと考えていた。
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