食後追跡
「はぁ、はぁ…、どこ行ったんだ?」
耳がよくなったので足音から大体の方角は分かるが、どの程度離れているのか見当を付けにくい。町の中は家も曲がり角も多いのでなおさらだ。
腹がいっぱいの時じゃなければもう少し近づけたんだが…、こんなことならさっきがっつり食べるべきじゃなかったな。重くて仕方がない。
待てよ?屋根から屋根へ移動すれば追いつけるか?いや、すでにかなりの体力を消耗している状態でそんなことをしたら途中で落ちるのは確定だ。ここはこのまま地面を走り続けるしかなさそうだな。
……完全に見失った。
そして、もう一歩も動けない。ぶっ倒れそうになったのをどうにかこらえその場にうずくまった。
てゆーかここどこだよ?知らないとこまで来ちまったぞ。どんなルートでここに来たか思い出せたら問題はなかったんだが。
この分だと宿はどこも開いてないだろうから少し休んだら適当な場所で野宿だな。
「…さん、あんさん」
「……ふぁい?」
うっすらと目を開けるとおじいさんが心配そうにかがんでいた。
「あんさん、そんなところで寝とったら風邪ひいちまうぞい」
「ふぇ?」
どうやらあのまま移動せずに朝まで眠っていたらしい。道端で横になってる人がいたらそりゃ大丈夫か気になるわ。
「すみません、ご迷惑をおかけして」
「いや、別に迷惑じゃねーけどもよー、次からはもっとましなところで寝るんじゃぞい」
それからおじいさんに道を教えてもらいようやく知っている場所までたどり着いた。
結局捕まえられなかったな。ロル君は今頃どうしているだろうか。
冒険者ギルドの中を見回したがいないようだ。
今も必死で探しているのだろうか。だとしたら力になってやりたいところだが何の手掛かりもなければほぼ無理に近い。
およ?
「あれ?フィアじゃん」
「む?ワタル?」
酒場の隅の方の椅子に座っていたのは前に俺の命を救ってくれたパーティーメンバーの一人、フィアだった。
「今から朝飯か?」
「?何を言ってる?」
「へ?」
「今はもう昼過ぎ」
「……まじで?」
「まじ」
「まじかー」
やっぱり長時間の魔力消費は体に結構な負担がかかるみたいだな。もっと最大魔力量とか魔力制御技術が上がればそんなことは起こりにくくなるらしいけど。
「ほかの三人は?」
「今日は各自自由行動。私はこれから人と会う予定」
「なるほど。じゃあ俺は遅めの朝食でも取りますか」
ここは酒場って言われてるけど普通に食堂として朝からやってるから助かる。えーっと今日のおすすめは鶏肉たっぷりのシチューセットか。じゃあこれにしよう。
ふぃー、食った食った。さすがおすすめ、素材の味をしっかりと生かした実にうまい料理だった。食レポの仕方知っていれば飯テロレベルでこの素晴らしさを表現できるのだがそれができないのが実に惜しい。
そういえばフィアは…、あぁ今男の人と話してるな。知り合いか?
まぁひと様の会話に聞き耳を立てる趣味はないしさっさと今日の予定を立ててここから出るとしよう。ロル君のことは心配だが少なくとも今の俺にはもうどうしようもないし、適当な依頼でも引き受けよう。
ん?男の人がでかい袋から何か取り出してるな。木箱か?ずいぶんと古そうだな。でもなんか見たことが…、あ。
「あのー、ちょっとすみません」
「ん?俺たちのことか?」
そういって振り返ったのは背が高くきりっとした顔立ちの青年だった。はっきり言ってうらやましい。とくに身長とか身長とか…じゃなくて!
「その箱、どこで手に入れたんですか」
「何?」
途端に二人は警戒心をあらわにし始めた。
「実は知り合いがそれと全く同じものを持っていたんですけど、つい昨日の夜ひったくられてしまったんですよ。ちょうどここの入り口の外で」
二人は黙ったままにらみつけた。
「で、俺はそのひったくり犯を追いかけていったんですが残念ながら取り逃がしてしまいました。あいにくその人は全身黒いローブで身を覆っていたのでどんな顔をしていたのか全く分かりません。ただ…一つだけ大きな特徴があったんですよ」
「特徴?」
「えぇ、その人周りと比べて頭二つ分ぐらい身長が高かったですね。…大体あなたと同じぐらいでしょうか」
「俺が盗んだとでも?」
「もちろん絶対にそうだとは言い切れませんよ。たまたまあなたが同じ箱を持っていてたまたまあなたと同じぐらい背が高い人が盗んだ可能性もなくはないですから。だから教えてもらえませんか?あなたがそれをどこで手に入れたのかを」
しばし沈黙が続いた。こちらは笑顔で、向こうは威圧感を放ったまま一向に動く気配はなかった。
しかしやがて…
「背が高すぎるというのは、やはり短所だらけだな」
「そうでしょうか?低いよりはいいと思いますよ」
個人的にはぜいたくな悩みだと思うぞ。俺なんて…、いやだから俺の身長はどうだっていいんだよ。っていうか…。
「ずいぶんあっさりと認めますね。そこはふつう嘘の一つや二つ付くものだど思いますけど」
「何か言ったところでそう簡単に信じたりしないだろう?」
「まるで俺のことを知っているような口ぶりですね」
「別に知っているわけではないさ。ただ、俺はいろんな人の目を見てきたからな。お前が人の話を無条件に信用するタイプじゃないってのは大体わかる」
なるほど。経験則ってやつか。確かに俺はそういうやつだ。
「だが、まぁ…しいて言うなら、
なに!?
「正確には知ってるというより聞いているってほうが正しいか。人によっては大した差でもないかもしれんが」
「えっ、あの…、何を言っているんでしょうか?」
「とぼけるつもりか?お前の正体が『
ま、まさかばれたのか!?俺が魔王に召喚されたってことを。いやひょっとして魔王と知り合いか?
「どこでその話を?」
「そこにいるフィアは『鑑定』の上位スキル『解析』を持っていてな、熟練度も高い。で、お前と初めて出会ったときそのスキルをお前に対して使ったんだよ」
「なぜそんなことを?」
「お前が倒れていたあの森は魔人領の境界線に割と近い。
最近あの場所は勇者と魔人の戦場になっている。その戦いの余波でモンスターの数が激減しているとはいえ、戦場になったせいで逆に危険地帯だ。
戦闘慣れしていない素人冒険者たちがいるような場所じゃない。
にもかかわらず、装備からしてその素人であるお前がそこにいた。そんなところじゃないと生活していけないようなお尋ね者かもしれないと思うのは当然だろ?」
なるほど、確かにそれはそうだ。普通そういったやつらは堂々と町で暮らせないからな。
「そのスキルがあれば犯罪者かどうかわかるんですか?」
「あぁ、重犯罪者ともなれば魂に『前科の刻印』を施されるからそれがないかを確認したらしい。
…で、その結果『前科者』の称号はなかったそうだが、代わりに二つの称号が見つかった」
彼は一泊間を置き、
「『異世界人・召喚型』、『勇者・召喚型』、どれもおとぎ話の英雄が持っている称号だ。まさか俺も生きているうちにお目にかかれるとはこれっぽちも思ってもいなかった」
あんのか、称号!レベルやステータスとかはないのに。っていうか、
「俺、本当に勇者だったのか」
「ほう、じゃあ俺たちの話を認めるんだな?」
「ええ、まあ。認めざるを得ませんね。ちなみに称号というのは、魂に刻まれるもの何ですか?」
「知らないのか。
称号には大きく分けて二つある。
一つは単に周囲からそう呼ばれているもの、言ってみれば二つ名。
もう一つがある功績を称えられたり罪を犯したりした者が専門の魔術師によって魂に刻まれるどこでも通じる公式の称号。
一般的には後者を指す。中には『勇者』のようにある日突然獲得するものもあるがお前のはたぶんどれもそうだろう」
召喚に使用した魔法陣にそう言った術式が組み込まれていたのだろうか。
「称号って専用のスキルじゃないとわからないんですか?」
「いや、人物鑑定紙を使えばたいていはわかるな」
「それってどんな時に使うんですか?」
「基本的には警備兵が前科の有無を調べたり、あとは身分証明書を発行するときぐらいだな」
身分証明か。もしその時に俺の正体がばれたらまずいな。
前にスキルを調べるために使った技能鑑定紙みたいにうまいことごまかせればいいんだが。
あぁそうだ。重要なことを聞かねーと。
「俺の称号について知っているのは何人だ?」
二人は一瞬顔を見合わせ
「私のパーティーメンバーは誰も知らない」
「知っているのは俺とフィア、あとはうちの族長だけだな」
「族長?」
「俺とフィアはとある集落出身でそこを束ねてるのが族長だ」
「お前たち三人だけって話は信用できるのか?」
「そこは信用してくれとしか言いようがない」
ごもっともな意見だ。
「まぁ一応信じるとして…、ほかに僕のことについて何か知っていることは?」
今度はフィアが口を開く。
「あなたのスキルなら」
げっ、まじか。
「『
おぉ、やっぱりユニークか。それにフィアもこれを有用だと思っているのか。
「なおかつ、『
……オ、オンリーワン?
「『
スキルの威力を倍増するものから全く関係のないものまで多種多様に存在するともいわれている」
「そ、そんなものがあるのか?で、俺のはいったい…どんな効果だ?」
追加効果か…。ピンからキリまでありそうだが頼むからハズレはよしてくれよ。
「あなたの『
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