第17話
1日経った後の朝8時15分
大テリブン王国の艦隊は速力を増し襲撃する形に入った。
艦隊の指針はもちろん新鋭の戦艦がいると思われる地点だ。
弾薬庫からは弾薬が装填装置を通り砲塔に登り砲身に装填されていく。
戦闘準備は整った。
見張り要員は全力で敵艦を探している。
8時36分
大テリブン王国艦隊旗艦巡洋戦艦『モルヴェン』が移送中の新鋭戦艦を発見する。
それと同時に駆逐艦に曳航されていた新鋭戦艦はその曳航ロープを切り落とす。
曳航していた駆逐艦は戦艦からはなれ対魚雷用陣形を組む、だがたった4隻では十分ではない。
そして新鋭戦艦『シールド・デ・ネーション』と『スピーア・デ・ネーション』の砲塔が敵を撃つため旋回する。
35センチ連装砲を5門、それが2隻合計で20もの砲身が一斉に敵艦隊へ向き、コンマ数秒の差で一斉射された。
「バカな!!戦闘能力が無かったのではないのか!くぅ……やることは変わらん!巡洋戦艦と巡洋艦は砲撃を開始せよ!駆逐艦は接近して魚雷をたたきこめ!」
その命令で大テリブン王国巡洋戦艦『モルヴェン』と『エルムリッジ』と巡洋艦は砲撃を開始した。
駆逐艦はよく訓練されており全速力でセクザン帝国艦隊に向かって行った。
両艦隊の位置関係は、セクザン帝国艦隊のT字有利であり、攻撃力を全て発揮できるためセクザン帝国艦隊が有利であったが、艦隊の数では大テリブン王国が有利であった。
戦いは両者の砲撃の段階に入った。
両者ともまだ夾叉せず、つまり命中弾に近い弾がなく艦の遠くに着弾している。
砲撃の爆発音と着弾の水の音が連呼するなか、先に夾叉をしたのは大テリブン王国艦隊の巡洋戦艦だった。
練度の差であろう。
巡洋戦艦の32センチ砲の主砲連装砲4基かける2隻の16門がそれぞれのセクザン帝国海軍戦艦に狙いをつける。
一隻に集中するのではなく2隻をばらばらに攻撃したのはデメリットだけではなくきちんとメリットもある。
発射間隔を気にせず着弾が確認できるのだ。
2隻が一斉に同じ目標に砲撃するとどちらの砲弾か分からなくなる。
巡洋艦は駆逐艦に向けて砲撃をしている。こちらも同じ頃に夾叉した。
セクザン帝国の駆逐艦S-32に大きな火の手が上がる。
8時54分のことであった。
巡洋艦の砲撃が駆逐艦の中央の上部構造物に命中したのだ。
駆逐艦に装甲はないに等しく、駆逐艦相手なので徹甲弾ではなく榴弾を使用されたため大きな爆発が起こった。
「S-32被弾!中央上部構造物がやられました!」
「見ればわかる!」
現状は戦力比も同じくセクザン帝国艦隊が不利であった。
セクザン帝国艦隊が駆逐艦S-32に上がった火の手を見て不安を抱いた時、それは起こった。
『スピーア・デ・ネーション』が放った35センチ砲弾の一発がエルムリッジの第一砲塔上部に命中した。
砲弾の威力は砲塔の装甲を凌駕し貫通した。
砲弾は砲塔上部に斜めから入り込み砲塔内部で起爆。
エルムリッジの第一砲塔は吹き飛び空高く舞い、人々の目と耳を奪い海に轟音をたて沈んだ。
「ダメージを報告しろ!ダメージコントロール!弾薬に誘爆しないようにしろ!」
エルムリッジ艦橋では士官が騒いでいた。
「くそがっ!こちらの命中弾はまだか!」
このとき、弾薬庫の防火扉は開けっぱなしで戦闘をしていたが、運良く引火はしなかった。
「副砲の射程距離に入りました!」
「よぉし!撃ちまくれぃ!副砲の目標は駆逐艦だ!」
セクザン帝国の駆逐艦にとっては不利な状況だった。もともと不利な巡洋艦相手に砲戦をせざるを得なく、加えて戦艦の副砲まで射撃してくるとあっては。
9時21分
セクザン帝国戦艦の左前方に位置していた駆逐艦S-31に命中弾。
弾は巡洋艦から撃たれたもので、駆逐艦の船首に深々と穴を開けた。
そして内部で爆発し、駆逐艦S-31は船首に大きな損傷を受け、海水が激しく流入し、流線型の船体は乱れ水の抵抗が増し船体に負荷がかかる。左右非対称となりまっすぐ進むことが困難となる。
「駆逐艦S-31速力低下!艦列を離れていきます!」
「くっ……助かるまい……S-31に総員退艦を命ずる信号を送れ」
「はっ!」
信号は『シールド・デ・ネーション』から送られ、駆逐艦艦長も含めた全員が船を去り始めた。
艦列を離れたS-31にここぞとばかりに攻撃が集中するなか、駆逐艦員は脱出して行った。
9時30分
駆逐艦S-31は戦艦『モルヴェン』の副砲から1撃貰い、艦橋が斜めに傾斜し、命中した部分は赤く熱せられた。
それと同時に海水の流入は止められず艦は前のめりになるように海に沈んだ。
ここで最初の喪失艦であった。
「S-31!沈みます!」
「……」
「乗員は脱出できたようですな」
「それはただ一つの吉報だな」
そこに大きな衝撃音と振動が戦艦『シールド・デ・ネーション』を襲う。
「何が起こった!」
「バイタルパートに命中弾!装甲で防いだようです!被害軽微!」
「ふぅ……一安心だ。どうやら敵戦艦の主砲はこの戦艦の装甲を貫けぬらしい」
「慢心しないでくださいよ、装甲が薄い部分はたくさんありますからね。大事な部分だけ装甲が厚いんですよ」
「うむ、わかっておる」
「敵駆逐艦接近!副砲射程距離に入りました!」
「よろしい、撃て、近づけるな」
大テリブン王国駆逐艦7隻が魚雷発射のためセクザン帝国艦隊に近づく。
副砲の攻撃をかわし続け接近を続ける。
「命中!敵駆逐艦艦橋部に命中です!」
戦艦の副砲から放たれた砲弾が駆逐艦の一隻に命中した。戦える駆逐艦は6隻となった。
「敵駆逐艦転舵!我が艦隊と並行になります!」
主砲と副砲の砲撃が続くなか大テリブン王国駆逐艦6隻は転舵し、セクザン帝国艦隊と同じ向きになった。
「魚雷、来ます!」
「転舵90度!投影面積を最小限度にせよ!」
魚雷を避けるためには出来るだけ魚雷と並行になればよい。だが、戦艦の転舵は遅く、しかも転舵すれば艦隊行動は乱れ、射撃諸元も一からやり直しであり砲撃も期待できなくなる。
だが、魚雷があたるよりマシだった。
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