第3話

海の底に転がっている石をスキルで操ってみる。

石を投げたときと同じくらいの速度で思うがままだった。

しかし、動かせるサイズの上限を超えると動かせるが歩く速度ほどまでにゆっくりになるようだ。

「この浜辺は他とは比べ物にならないくらいに漂流物が多いな。潮の流れが作り出すんだろうか」

「そうだろうねぇ。で、どうやってカネ稼ぎにするんだい」

「潮の流れで漂流物がたまるってことはよ、大きな船とかも沈んだらここにたどり着くかもしれないだろ?だったらこのスキルで……」

「錆びてたり壊れたりしてそうだけどね」

「それはしょうがないだろ。そんな船を船の業界にもっていけば相手側は修理すれば使える船になるんだ。商品になるはずだ」

「ふぅん……」

「それに、もし宝を積んだ船とかが沈んでたら大金もちだぜ。昔本で読んだなあ、広大な海を航海して珍しいものや大量の金銀をつんだ船が沈んだ伝説とか」

浅瀬が広がってるためマストだけが海上に出ている沈没船がある。これを使ってスキルの確認をしよう。

まずはそのまま、動くように念じる。ザバッと水が動く音が聞こえる。じゃあ、今度は後ろを向いて船が見えない状態でやる。

すると……先ほどと同じように動いた。どうやら沈没物を認識していれば動かせるようだ。

動かした沈没船は今の衝撃でバラバラになってしまった。しかし財宝を積んだ船を引き上げるのが現実味を帯びてきた。

実は昨日、メモンと出会った後お願いしてスキルをもらった町に寄って地図を購入しておいた。ドレッドはどれだけ高くても買うつもりだったが、予想に反して結構な安値だった。印刷技術が発達したと知ったのは後のことだった。

「地図によると……ここから海沿いに西に行くと船の墓場があるようだ。潮の流れで沈没船が浅瀬に集まると」

「そこに行けばいいんだね?」

メモンはもうつばさを広げている。

「ああ、たのむぞ」

ドレッドはメモンの背中に乗る。



沈没船の潮の流れで行く着く先には、木片や割れた木材などがひしめき合っており、木片によってはとげとげしくなっていて人は寄りつくことさえ難しいだろうと直感した。

しかしドラゴンの獣人のメモンがいるなら話は別になる。危険な所を飛び越えればいい。

上空から見てみれば全体図が分かる。

何十隻もの木製の帆船がひしめいているなか、マストだけが海上に出ている船を見つけた。あの船なら誰も探索してないだろう。

「さあスキルの出番だ。やってくれよ俺のスキル!」

船を持ち上げようとすると大量の水が外に溢れ出て轟音を鳴らす。そしてそのまままた沈没しないように砂浜に船をあげる。

「やっとスキルが役に立ったな……なんだが嬉しいや」

引き上げたほどほどに形は保っている船に乗り込み探索をしてみることにした。

内部は風化でぼろぼろだったが、机の中などに仕舞われていた物たちは比較的保存されていた。

航海日誌、コンパス、方位磁針、地図を載せるであろう台、そして……船長室にあった鍵のかけられた小さな箱。

大事なものが入っていると予想するのは当たり前であった。ドレッドは渾身の力を込めるが開けれる気配がない。メモンに交代すると、メモンは拳に力を入れ箱を上下にあけようとした。すると箱の留め具ごとはずれて容易に開くようになった。

中身が気になる二人は中身に目をやる。

金で装飾されているであろう懐中時計、金色に光るネックレスやブレスレットなどが入っていた。

「……やったな!メモン!」

「ええ……でもこれを取ったら泥棒になるんじゃないかしら」

盗むことには抵抗があるらしく、嫌悪感をみせるメモン。

「航海日誌を読んだんだがな……どうやら嵐にあって小型ボートで全員脱出してるようだ。そこから先はわからないがな」

「だったらさ、将来、大量にカネを得たらその金額分をここに返しにこようぜ。それなら罪悪感はすくないだろ?」

「ええ、たしかにそれならいいわね……そこまねお金持ちになれるかは別だけどね」

隅々まで探索した後、上空でメモンの背中の上にいた。

「……メモンに頼りっぱなしだな。今回のはメモンがいなかったらできてないさ」

「仲間だからできないところは頼ればいいのよ。それに、船を見つけて探索しようってのはあなたの提案よ。少しは誇ったら?」


先日買った地図によると、ここから南は海、西は港町、もっと東にも港町があるようだ。北はドレッドとメモンが出会った方角だ。

手にした金をカネに変えてもらうために町に向かっている。

西の港町、ガタヤ。

漁と貿易で栄えた町のようだ。さっそく先ほど手に入れた金をカネに変えてもらう。

俺はまだこの世界の金銭感覚がわからないため、下に見られてぼったくられても困るためメモンも一緒に来てもらった。メモンに交渉を任せる他ないのだ。

「少しかけていたり劣化しているが概ね良好な状態だんねえ……んだった20万ディルヘイムでどうだい?」

両替商のじじいはメモンの方を見て言う。

「獣人だからって舐めてるのかい?40万はいくだろうに」

メモンは間髪入れずに喋る。

「おーおーそんなに怒るなよ試しただけさ、獣人は貨幣の価値も知らん輩が多いからねえ。俺が試してやってるのさ、親切にね」

ローブのようなもので体を隠していてもあやしく、着ていなくても獣人は目立ってしまう。

いいからはやくしろ、とメモンが目で訴える。

しっぽの動きが活発になる。怒るとそうなるのだろうか。

「……そういうのは良くないぞおっさん……人間も獣人もおんなじだろ。この人は俺の命の恩人なんだ。恩人を差別されるのはもっと嫌だ。差別はもうしないでくれよ。俺に帰る場所なんてないんだ。だったらこの店やあんたごとぶち壊したっていいんだぞ」

ドレッドに貨幣のことは分からなかったがメモンが差別されていることはわかった。

「わかったわかった。負けたよあんたがた。50万ディルヘイムでいいか?」

「まあ、十分だね」

さっと紙の紙幣をメモンが受け取り、中身を確認する。一番上のみ本物で他は偽物であったり、紙幣がちぎれていたりしていないかを確認する。

問題なかったようでドレッドに店を出るよう促す。

「ドレッド、あんた本当に通貨や経済がわからないのね……」

「すまない、色々あってわからないんだ」

「あのクソ親父、獣人を下にみやがって……でもあんたのおかげでスカッとしたよ。ありがとう」

メモンはつばさを広げ、ドレッドを巻き取るようにつばさを縮め、ドレッドを抱きしめる。

「……あっ、えっとこれは、私たちドラゴンの獣人の親愛の表現というか、こ、これは人間にやるもんじゃなかったかな……」

メモンは顔を赤らめ顔を逸らす。

「さてと!ドレッド、あんた今の物価とか学んできたらどうだい?」

なかば強制的にメモンはドレッドにカネを少し渡し食料を買いに行くよう促した。

「パンがだいたい100ディルヘイムくらいで、あ、地元でたくさんとれる動物の肉は1000ディルヘイムくらいなのか……」

ドレッドはパンとささやかな保存食を買ってきた。

「少しは経済が分かったかい?50万ディルヘイムなら数ヶ月はカネに困らないだろう。そんでもって、これからどうするかな。なにかあるかい?ドレッド」

「曖昧なものだけどさ、世界を回って困ってる人を助けに行きたい」

「あんたらしいや、賛成だよ」

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