第15話 試練の遺跡に向かって

 俺は宿屋の男湯、女湯の両方でお湯を出し、一度に5人ほどずつお風呂に入れた。


 お湯が汚れた場合は濾過能力を発揮して、綺麗なお湯に戻した。足りなくなった場合は追加でお湯を出した。


「お風呂何て...贅沢すぎる」


「お湯何て罰が当たる」


「いいのですか?私たちの身体は汚れすぎています。お風呂場を汚し、宿屋の大将に迷惑がかかるのではないでしょうか...」


 そう、最初はお風呂に入ることを渋っていた。本当は入りたいのだが、皆に迷惑をかけると、自分達にはもったいない、お風呂場を汚し、迷惑をかけると...。


 しかし今のような恰好では、働きに行くことが出来ずに、もっと周りに迷惑をかけることになると、時間をかけて説明をした。


 洋服を新調し、俺の前に現れた者達は、とても配給をもらって生活をしていた者とは思えぬほど、気力に溢れ鋭気に満ちた表情をしていた。


 好意でもらった洋服を「お金は給金から必ずお返えしします」と、涙を流しながら受け取っていた。


 炊き出しは、食材屋や近所に住んでいる者達が持ち寄ってくれた食材と、俺の弁当のごはんを入れて雑炊にした。


 味付けの決め手は塩だけだが...。美味しかった。


 更にキンキンに冷えたビールを大人に与え、子供には冷たい水を好きなだけ飲ませた。


 ビールを飲んだ者達からは、「何だこの美味しさは!口の中がシュワ―として、いくらでも入っていくぞ!エールを冷たくして、飲みやすくしたものだ!」と好評だった。


 広場では食材や洋服を提供した者、施しを受けた者...関係なく、夜遅くまでお祭り騒ぎとなった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そんな中、俺の頭の中でまた機械音が流れた。しかもラスリーの実体化に成功した時の、ゴージャスな機械音であった!


 その後に「おめでとうございます。獣人達の多くの者が、レンを救世主と崇めました。これにより獣人の精霊パラクードの実体化と、パラクードの試練の遺跡も復活しました!」


 そう聞こえた...。


 誰?パラクードって?分からないことは知っていそうな人に聞くものだ。


「精霊パラクード様の実体化と、試練の遺跡が復活したと、俺にお告げがあった。精霊パラクード様とは...誰のことか分かる?それと試練の遺跡とは?何のことなの?」


 早速、エルスに聞いてみた。


「まさか...精霊パラクード様の実体化ですって?私達獣人が崇める精霊様です。いや...私達獣人にとっての神様です。そのパラクード様が私たちの近くに現れて下さるなんて...」


 そう呆然とした顔で天を見つめた...。


「まだ...この地の食料や水が豊かな時には、もっとパラクード様の存在を感じることが出来たと、うちの亡くなった、おばあ様が言っていました。そして他国の者が攻めてきた時に負けない力を得るために、試練の遺跡で修業をしたとも...」


 食事処の女将である、モルスットが昔を懐かしむ表情で教えてくれた。


「その修行の1つで、試練の遺跡から運び出した岩を使って、城壁を作ったと言われております」


 あの城壁か!なるほどね。あんなに沢山の岩をどこから持ってきたのか気になっていたんだよね。


 農地ソロは現在、全盛期の1/3も使用されていない。深刻な水不足によってどんどん縮小されて行ったからだ。しかしソロの精霊ラスリーも復活し、土地が豊かになった。どんどん開拓をしていきたい。


 そんな時、城壁で囲まれていることが1つの懸念材料でもあった。


 仮に城壁を広げるとなった場合、その材料となる岩は、どこから調達すればよいのだろう?と思っていた。まだ先の話ではあるが...。



 試練の遺跡か...調べてみる価値はありそうだな...。


「言い伝えによりますと、たくましさと優しさを兼ね備えた精霊様らしいのですが...。ご先祖様も会ったことは無いと思います」


 バランも「聞いた話なので、なんとも言えませんが...」と、少しすまなさそうな顔で俺に教えてくれた。


 そんな中... 俺の頭の中で、何かが聞こえたような気がした...。


「レン...レンよ。こちらに来ると良い。試練の遺跡で待っておるぞ」


 そう頭の中で聞こえたような気がする。いや聞こえた。少し酔っぱらってはいるが、精霊様が俺を呼んでいらっしゃるようだ。それも試練の遺跡で...。


「試練の遺跡で、精霊様がお待ちの様だ。ちょっと会ってくる。皆はここで宴会を続けていてくれ」


 そう言った後、俺は空になった樽3本に、ビールをなみなみと注いだ。


「それでは私がご案内いたします」と、リュースが勢いよく立ち上がった。


「それは結構だ。エルス頼む」


 俺は娘ではなく、親の方を選んだ。初対面の精霊様と会った時に、失礼があったら困る。リュースには悪いが、ここにいてもらう方が賢明だろう。


 俺の意図を重々承知した様で、エルスは頷き...立ち上がった。


 そして...「リュースはここに残れ。精霊様とは初の顔合わせになる。お前が何かやらかしたら、先ほどのレン様のように...許して頂けるか、分からぬからな」


 そう言って、有無も言わせぬオーラをリュースに放った。


「はぃ...」と耳と尻尾がヘタレてしまった。そんなリュースは可愛かったが、思っていることを伝えるとつけあがるため、そのまま放置した。


 さて行ってみるとするか。どんな展開があるかは分からないが、損はないだろう。


 それよりも...試練の遺跡なるものは、どこにあるんだ?結構な距離があるのか?


「なあエルス?試練の遺跡は、ここからどのくらい離れているんだ?」


「そんなに離れておりませんよ。徒歩でも20分ほどです。先ほどの住む所に困っていた者達の、ねぐらにもなっておりました。昼間ならもう少し近づけば、肉眼でも見えるぐらい大きな建物ですよ」


「俺はエルス達獣人と行って来るから」と、奴隷達に告げたが「私たちも行きます」とエレンやドレン、カリン達と試練の遺跡へと向かった。


 バロンとルネッタは眠そうな目をこすりながらも、ついて来ようとしたのでモルスットに預けた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 日本と違い、辺りは真っ暗だ。夜目が利かないから松明無しじゃ俺は歩けない。


 獣人の殆どの者は夜目が利く。エルフも俺よりも夜目が利くようで、すたすたと歩いて行く。


 俺一人...おっかなびっくり歩いているため、時間がかかってしまう。申し訳ない...。


 するとカリンが「レン様、私の手を握り下さい。少しでも支えになれますので」と申し出てくれた。ありがたい。こう暗くては不安で仕方なかった。


「ありがとうカリン。助かるよ。すまない」


 カリンの手を握ると、とても安心できた。ただ...エレンは先を越されたと、悔しがっていたようだ。俺の知らない所でだが...。


「レン様、つきました。ここです。ここが試練の遺跡です」そうエルスが教えてくれた。


「そうか...」


 しかし俺には何にも見えない。瓦礫や石、岩などで歩きにくい、広い場所という感覚しかない。すると突然のことであった。


「よく来たなレンよ!そして私に力を与えてくれた者よ!私はレンのおかげで、こんなこともできるぞ!」


 大きく勇ましい声と共に、辺りが急に明るくなった。それは昼間のような明るさであった。


「うわ、眩しい」「きゃ!」「一体何が...」


 そう口々に言葉が発した。そんな中...俺は言葉を失った。


 そう俺の目の前には、パル〇ノン神殿と思わせるような、立派な建造物が 広がっていた。あまりに近くで見ているので、大きさや構造物の全体像は分からないが、とにかく圧巻の一言であった。


 あとで明るい時に...試練の遺跡を遠くから見たら、おおよそだが横30m、縦60m、柱の高さ10m、柱下部の直径は2m、建物周囲約150mに45本の柱が立っている様だ。


 ほぼパル〇ノン神殿と、変わりが無いと言ってもいい代物であった。


 そんな試練の遺跡を...只々唖然と眺めていると、遺跡の階段の上部から、一人の女性?が忽然と姿を現した...。


 彼女が精霊、パラクード様なのか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る