第6話 アリスト共和国の現状

 門番の案内で、王宮の玉座の間に通されることとなった。


 王宮内部はその、シンプルで無駄な物がない。


 観葉植物や美術品が適度な間隔で飾られており、温かみを与えている。


 そしてゴミ一つ落ちておらず、管理が行き届いている感じがする。


 レンの記憶には金の壷や金塊、モニュメントなど、センスのかけらもない物が、ファランダル国の王宮の至る所に見られる。 


 まあ、金はあるという事はわかる。


 ただセンスが無い。金は一族の繁栄を示す物だから、モニュメントをゴールドで飾ったりするのは、分からなくもないが...。


 ただし統一感が無い。センスの悪いリサイクルショップの様に、ただ並べて置いてあるだけのような感じを与える。


 アリスト共和国の王宮は、どちらかというと装飾品は少ない。しかし、展示されている作品はどれも、精巧に作られており、職人技が感じられる。


 そして簡素ながらも清楚なイメージをまとった王座の間に通され、そこには王様ではなく、王女様が座っていた。


「よく来て下さいました。我が父は今、床にふしています。代りに第一王女である私、ソマリアが対応させて頂きます」


 ソマリアか、外見からは人族だな。レンと同じくらいか、いやもっと若いな。20歳ほどか。

 

 170㎝を優に超え、均整の取れた手足に似使わない、豊満な胸と引き締まった腰回り。


 黒髪長髪で、 艶を帯びて輝く目。小さいけれどもはっきりとした輪郭を備えている鼻。チャーミングな唇。


 美しい王女様だ。


「初めましてソマリア様。私はレンと申します。作法については何も分かりません。気がつかないうちに、失礼なことをしてしまうことがあります。その時はご容赦下さい」


「大丈夫です。私も作法などは気にしません。気楽にして下さい」


 そう笑顔で答えてくれた。


 ありがたい気遣いだ。しかし、あんなに軽々しく国王が床に伏しているとか、言っていいものなのか?


 この情報をファランダル国に売れば、無理やり理由をこじつけて、アリスト共和国は攻められるだろう。


 こんな若い娘が、王女というだけで舐められる。


 しかしこの砂漠の国はある意味、立地に恵まれている。


 このオアシスの周りには、砂漠しかないのだ。つまり、四方を砂漠に囲まれているため、ここに来るには食料の他に水が必要なのだ。


 いくら水の魔法が得意な者でも、攻撃魔法と飲料水の確保では目的が違う。


 また地球の様にポリタンクの様な軽くて丈夫な器がない。更に、馬にも水を飲ませる必要がある。


 この立地だからこそ、他国から侵略をされることが無かったのだろう。更に手に入れたところで、得るものが少ないからだろう。


 要するに、攻め込むには大変な労力を要するが、かわりに得る物が少なすぎる。そう言う事だろう。


 逆に言えば戦争が起きる危険性が少ないという事は、周辺諸国の住民も分かっている。


 何とか、安住の地へと人がここへと集まる。そして色々な住民が集まることで、お互いの利点を高め合って生活をしている様だ。


 農業部門なら森と友達のエルフが、酪農なら獣人が、製造、開発にはドワーフと人族が等、お互いの得意な面を活かしながら、共栄共存の道を歩もうとしている。


 実際この体にあるレンとしての記憶と、まだわずかだがこの地の設備面などを見た限りでは、細かい所でファランダル国よりも高い様に思える。


 ただし非常に大きな問題を抱えている。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「私はあなたをここに呼びよせたのには、もちろん理由があります。前々からあなた様の事を、風の噂で聞いておりました」


 ソマリア王女は、俺を王座の間に呼んだ理由を話し始めた。


「一日に水を100リットル生み出せる男がいると」


 ソマリアは俺の目を見据え、静かに言った。


「私達からすれば100ℓですが、ファランダル国では相当な迫害を受けているともお聞きいたしました」


 まあなんせ、「一日に100ℓしか生み出せない男」と呼ばれていたからな。


「わが国を見てもらうとお判りでしょう。四方を砂漠で覆われております。つまり中心にあるモーゼに頼って、アリスト共和国は成り立っていると言っても過言ではありません」


 確かにアリスト共和国は、モーゼが無くならない限り栄え、モーゼが滅びればアリスト共和国も滅びると近隣諸国から言われている。


 それぐらいモーゼに頼っていることは、周知の事実である。


「また最近はファランダル国が、様々な諸国と戦争を行っている影響で、被害を受けたそれらの国民が難民化し、戦争が起こる危険性の少ない我が国に、急激な勢いで避難を求めてきます」


「つまり私が言いたいことがお分かりですか。レン?」


「はい、水不足ですね」


「そのとおりです。最近ではいかに農作物や家畜に水を回すか、毎日のように議論に上がっています。しかしいい案などでてきません。雨ごいなど、私は信じません。神がいるなら砂漠など作らないでしょうから...」


 神を見て、話してきた俺からすると、凄く微妙な気持ちになる発言だな...。


「色々な手立てを考え、着手をしても一向に問題の解決に届きません。そんな時にあなたの話を聞きました。あなた様を我が共和国にスカウトしようとしていました」


「えっ」


 もう少し早く声をかけてくれれば...。レンも死ななくて済んだかもしれないな。


「ただ暗部の話では、あなた様は崖から落ちてしまって消息が分からなくなってしまったと申しておりました」


 丁度俺が、神様に呼ばれていた頃の話だな。


「改めてお願いします。あなた様は1日に100リットルの水を生み出すとお聞きしました。あなたさえよろしければ、このアリスト共和国で働いてくれませんか?我が民を、いや農作物や家畜を含め、全てを豊かにする助けとなって頂けませんか?」


 ソマリアは、王座からすっと立ちあがり、レンに向かい頭を下げて頼み込んできた。


 この行為を見た周りの側近たちは、慌てふためき「姫様!お気持ちは分かりますが、現在は一国の長。初対面の男性に簡単に頭を下げられるのは、いかがのものかと...」とソマリアの振る舞いを正した。


「ロンダ、あなたは1日に水を100 ℓ出せますか?1日100ℓを出し、農作物や動物に今以上に水を与える能力がありますか?私の頭を下げることによって、1日に水を100ℓ得ることが出来るのであれば、頭ぐらい...いくらでも下げますよ」


 そう周りの側近たちを見つめソマリアは言い放った。側近たちは何も言い返すことが出来ずに、神妙な雰囲気が辺りを包んだ。


 俺は、レンもこういう所で働きたかったんだろうなぁ。可哀そうにと思った。まぁ悔やんでも仕方がない。


 俺がこのアリスト共和国の民を、作物を、そして生き物を幸せにしよう。


 レンの思いを継ぎ、そして隣国ファランダル国を俺が見返してやる。


「分りました。私でよければ力を貸したいと思います」


 そう決意を王女様に述べた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る