第1話 死にそうな目にあう。そして死にました

 本日の水やり場所はと、ここから7キロ歩いた南西部のプーセンの畑と、そこから2キロ先のドンバイの畑か...。


 私の名前はレン。一応ファランダル王国の宮廷魔法士団の一員。ただしとだけ言っておこう。

 

 私の魔法能力は水を出すこと。それだけである。それもなぜか一日100ℓまでである。それ以上は出せないし、出そうと思うと体が動かなくなってしまう。


 空気中の水素などの物質を、水に変換する魔力が枯渇してしまうのだろう。


 今日の現場は非常に暑い所だ。体力がどんどん奪われる。でもこの村の役人はお構いなしに、水を要求してくる。


「もう無理だ」


 何度も私が訴えてもこの村の役人は容赦がない。


「もっと水を出せ!宮廷魔術士様なんだろ!」


 ニヤニヤ笑いながら言ってくる。本当は分かってるんだろう。これ以上水が出せないこと。

 

そして畑にはもう,水の必要が無いことを。


 もちろん移動に馬車などは用意してくれない。どんなに疲れていても徒歩での移動だ。


 私はこのままだと死んでしまうかもしれない。いや殺されてしまうかもしれない。この腐った者達に...。


 それだったらいっそ隣国の砂漠の国、アリスト共和国にまで逃げた方がいいかもしれない。


 ここにいるよりも自分を高く買ってくれるだろう。


 アリスト共和国は、全体的に水が足りていない。何せ辺り一面が砂漠だから。


 そして一部のオアシスで、アリスト共和国の国民たちは、協力し合い生活をしている。


 ファランダル国とは大違いだ。

 

 ファランダル国は自分がよければそれでいい。相手を蹴落とし陥れおとしい、そして自分が成り上がっていく。それが当たり前となっている。


 もう嫌だ。体も心も限界に近づいてきている。


 ただ私がアリスト共和国に行くことを王族たちは怖がっている。私は1日に100ℓだけとは言え、砂漠では重宝される存在だ。


 私を散々いじめてきた宮廷魔法士や、王族や貴族の一部が、アリスト共和国で力をつけて、仕返しに来ると思っているからだ。


 でもどのみち、ここにいれば嫌がらせを受け、身も心も滅んでいくだろう。


 もう逃げよう。今日の夜中、アリスト共和国に行こう。私の中で故郷を離れる決心がやっとついた。


 しかし、私の行動の変化に感づく者がいた。


 同じ宮廷魔法士のファルトだ。ファルトは鑑定の使い手だ。


 私の行動の微妙な変化を、こっそりと影から鑑定魔法をかけ、私がアリスト共和国に逃れようとしてるのがわかったのだろう。


 何も知らない私は深夜、国を抜け出す準備が整い、静かに部屋を出た。


 私が部屋を出た瞬間、魔法により煌々こうこうと辺り一面が照らされた。


 どういうことだ?こんな夜中に大勢の者が、俺の家の前にいるんだ?


「それは俺のおかげだよ」

 

 ファルトとはニヤニヤした顔で俺を見ていた。


「くっ,ファルトか、俺に鑑定を使ったな」


 怒りを込めながら、問いかけた。


「呼び捨てにするんじゃない、裏切り者が!ファルト様と言え!」


 俺を見下すように言い放った。


「この者はファランダル国を裏切り、アレスト共和国に逃げようとした。向こうでの地位を高める為に、王族の情報を売ろうとした、売国者だ!」


ありもしないことを付け加えた。


「私はそんなことを考えていない。ただアレスト共和国で、静かに暮らしたいだけだ!」


 反論をしたが、周りの目は冷ややかだった。


 そりゃそうだ。周りも俺を必要としていないから。ここで殺してしまった方がいいと思ってる輩達やからばかりだから。

 

 ファルトは「この国を捨て、アレスト共和国に逃げようとした裏切り者だ!とらえて殺せ!」と大声で言った。


 その声に反応して、辺の者は俺に対し武器を掲げ、大声で何かを叫びながら向かってきた。


 もう逃げるしかない。しかしあまりに数が多すぎる。なんとか敵を振りきに、逃げてきた場所は崖の上であった...。


 高さはゆうに20mはあるだろう。落ちたら間違いなく死んでしまうだろう。

 ただ前方には、ニヤニヤと笑いながら迫ってくるファルトを含めた敵ども。


 追いつめられてしまったようだ...。


 もうだめか...。辛かった記憶がよみがえってくる。必要もないのに水を要求する役人ども。俺を馬鹿にする宮廷魔法士の連中。


 ごくごく一部の者を除いて、俺の味方などいやしなかった...。それなら...。


 それなら...


 それなら!ありったけの威力の水魔法を、お前らにぶつけてやる!


 崖に背を向け、俺は思いっきり叫んだ!


「喰らえ,俺の最大威力の水魔法だ!どうせ死ぬんだ、すべての力をお前らに喰らわせてやる!」


 覚悟を持った俺の水魔法はすごかった。俺に敵対する者達が吹き飛び、身体の1部がちぎれ、身体の一部が変な方向に曲がる者が多数現れた。


 ファルトにおいても、右腕が肩から先が無くなっていた。丘の上では至る所で血だまりができ、泣き叫ぶ声が鳴り響いた。


「ざ、ま、あ、み、ろ...。」


 代償に俺は、ゆっくりと呟きながら、崖から落ちた。


 ドサ。


 崖下で動くことのできぬ体で、俺はもう残りの命が少ないことを悟った。


 でも最後にやり切った。気持ちよかった。こんなに威力のある魔法が使えるなんて...。死を前にして。皮肉なもんだ。


「せっかく、能力の開放ができたのに...」


 薄れる意識の中、遠くから誰かが俺に語りかけている。死んだ母上の声か?


「レン死ぬな、やっと能力が解放できたのだろう!」


 はっきりと頭の中で声が聞こえる。


「だ、れ、だ...」


「だ、れ、か、しらぬが、む、ねん、、を、、はらして、、、」


 そう呟いて俺の人生は終わった。






 おまけ


「レンさん。レンさん」


 俺を呼びかける声が聞こえる。聞いたことのない声だ。


「私の名前は、女神ローラ。ここは天界です。次の生の場所を決める場所」


「あなたの次の人生は豆柴です。最初の2ヶ月までは辛く、酷い目に合うかもしれません。ですがそれからはとても優しい飼い主に拾われ、最高の人生が待っておりますよ」


 俺は次の人生、犬なのか...。


「ご主人様!待っているんだわん!すぐ会えるだわん!」

 

 勝手に俺は、何を言っているんだ?

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