会場のルール
軽くおさらいとしていうが、松木戸幸之助、通称幸作から特別な権利を与えられ、当主の立場から逃走した後、その権利を使い開催されるイベントに毎度のごとく参加して放蕩生活を満喫していた。
特に彼女との出逢いを果たすことになるイベントは最高傑作で、現在においても魅音座の稼ぎ頭の一柱として人気を博している企画だ。
八割がた幸作のアイデアや事件で世話になったところからの援助の結果のところはあるが、その発端を与えたのは自分で、内容的にはただの愚痴からだったはずだ。
いけ好かない話に聞こえるかもしれないが、富裕層に属する者たちは人付き合いを大切にする。そのため、名家に生まれた子供たちはよく大人たちに振り回られ、自分の意志とは関係なく会食や披露宴、外国人が参加するパーティーなど参加させれることが多い。自分もその例にもれず参加させられ、いろいろと不満を募らせたものだ。
例えば、服装についての事。服というものは一種の言語のようなもので、着こなしによってどういう人間性かがかなり透けて見える。
背広とかスーツを着るときにシャツをズボンに入れると思う。よくファッションでシャツを出してほっとき歩く奴がいるが、あれは話を知っている者からしたら下品な着こなしだ。何故なら、あれはシャツと下着の兼用の服装だからだ。つまり、パンツ丸出しにして歩いているということだ。それが女性となればドスケベだ。
他にも、いろんなメディアで見るセクシーなドレスを着る女性たちを見ると思うが、あれも文化の理解がなければ、ただの露出狂にしか見えないだろう。実はあれは自分の体型を見せつけちゃんと肉体管理をしていますと見せつける作法であり、わたしの魅力的な体を見ても興奮せず、紳士に振る舞えるかしらというメッセージが込められた服装なのだ。
このように服というものは相手に対し、あなたの国の文化について理解がありますよという意思表示であり、理解がありますのでうちの国においては失礼でも、あなたの国では礼儀であると分かっていますので、気兼ねなくしゃべってくださいという意味にだってなる。
しかし、恥じるべきことだが、この国の人間の大半はそのことを知らずに、やれ高級腕時計だ、このブランドを所有する高貴な人間だとか言って着飾り。礼儀もまた、服装同様に言語を持っているというのに、概念も知らずにすり寄って胡麻を
もっと言うと、そういった集まりが終わった後は決まって残飯の山。大体、三分の一は残ってしまう。この数値は、世界の残飯の量と割合が同じだ。この現実がありながら一時期、世界的食糧危機が起きると言われたところで、笑い転げてしまうのは関の山だとというところ。
もちろん、他にもいえることはあるのだが、長くなるのでここで切っておく。
こういった文句を聞いた幸作は、気持ち悪いくらいニタニタしながら、荒唐無稽なルールを考え出した。最初は皆、いくら幸作の考えた発想でも受け入れるのにかなり時間がかかった。まあ、それをアシストするように、そのアイデアを現実のところまで押し上げる事件があったのだが、とりあえず『衣装を提供してくれる店』だと頭に入れてくれたら十分だ。
で、そのルールとはなんと『女性に食事代を払わせ、男性には参加費と約三対一で女性を奪い合わせる』という、なんともぶっ飛んだ婚活企画だった。
まだこの時は荒削りだったものの、幸作曰く「食事の管理もできないのに何故男どころか子供の面倒が見れると思う。世間が草食とかいうが、鹿だって調子悪ければ小鳥(肉)を喰うし、心に火をつけさせたら男なんてすぐ燃えるものだぜ。いろんな意味で」と男女平等、ジェンダーが叫ばれる時代において、屈託も曇りもない口調で言い張るのだから、清々しい以上に言葉が見つからない。
実際、初回の時は批判の声は当たり前のようにあった。けれども、終わってみると参加者は感動のあまり、またやってくれ!だとか、最初批判ばかり言ってごめんなさいなどと大好評で、さっきも言ったが現在に続く人気企画になっている。
手ぶらで来てもというか、それを推奨していることも人気の秘訣と言えるだろう。
細かい事を丸々説明しても理解は難しいと思うので、その日参加していた内容に沿って語るとしよう。
この日は、参加している女性陣が二十四人に対し、男性は七十人。正確な計算上はあと二人は欲しいとこだが、約なので許容範囲といえよう。
女性陣が衣装や場所を仕立てている間に、男性陣は前座として説法受ける。説法と言ってもただの焚きつけだ。内容はその場その場のもので、トークのプロフェッショナルがそれを行う。今日は、取締役直々に盛り上げる日だったので、くつろぎながら聴いてた。
ざっくりした内容としては『今着ている服は何だと思う』というテーマだった。ざわざわしながらも緊張の糸が張られ、中には生唾を呑む男性も。ここからお得意の説法が始まる。尺の都合上抜粋するが、きっと読むだけでも興奮するはずだ。
「今着ている服は事実として古着だ。明日にでも棄てられるはずだったゴミだ。そういわれてきた人も多いことだろ。(中略)だが、忘れてはいないか。ゴミになるまでには歴史がある。今回身につけているのは、多くの者が鎧として身につけ、命がけで戦った証が確かにそこにある。それは少なくとも、今、隣にいる狩人と擦れてしまって、さらに汚れや
熱くなった男たちは、女性陣も引く張りに話しかけに行く。初期段階は女性陣の方が押されるが、流石というべきか、順応して男性陣をいろいろ転がして遊び始める。
倍率が約三倍だから回転率が高く、本気で好きになった女性がいたら、ずっと居座る者が次第に出てくる。いけない言い方になるが、これがあるからこそ、まず、売れ残る女性が発生することはない。あったとしても
それにくわえ、初期段階であれば、各場所を回ることで相手の食事の趣味や変わり種の料理などを食べれる機会がある。
女性の発想能力はすごいと思う点として、選定飯という、これを食べてくれないと相手にしないという特殊な料理もあり、見る側としては個性的なものが多い。中にはお手製の料理も混じっている時もあるので、美味しいと言った日には、その人の注目の一人になるのは間違いない。
幸作のアイデアもそうだが、一般の方々の発想能力も良い意味でいかれてると、つくづく感嘆させられる。
そんな、戦いが繰り広げられている中、自分の未来の妻となる女性がいて、はじめ目にした時、嗚呼、あの娘は絶対に誰かに取られる……と確信を持った。
体躯のラインがよく分かるドレスと完璧に礼儀や作法を解って着こなす真っ直ぐな姿勢。個人個人をちゃんと見ながらも、えり好みもせずに平等に接してゆく。その姿には、可憐さがありながらも奥ゆかしさがあり、他者への気遣いを忘れない気骨さが透けて見える。自分の代理妻にしても良いと生意気にも思ったほどだ。
イベントも終盤に差し掛かり、男性陣は気に入った女性の元に行き最後のアプローチを行いはじめ、中には諦め会場を出る者も出てくる。食事場の料理もほとんどなくなり、終わりが近くなっているのをひしひし感じるようになってきた。
そんな中、たった一人。誰も相手がおらず俯いている女性が一人いた。ふたたび、その女性を目にしたとき、今度は文字通り目を疑って何度もこすった。まさかの注目していた女性が、未亡人かよ!と思わず心の中でツッコんで叫んだほどだ。
時は経ち。ほとんどの女性陣は選抜した男性たちとの連絡交換をやり終え、いる人間の数も三々五々から
さらに時は過ぎ、このままだと従業員だけになると思いは言い訳として、シビれを切らした自分は、この企画で売れ残りを出すことが気に食わないと思い、彼女の元へと歩みを進めた。
そこで初めて、当時相坂要という女性だった彼女との出逢いを果たす。
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