ダブルクロスリプレイ『プレゼント・ゲーム』

山本黒壱

第0話「はじめましてのおくりもの ~Who,is the present for?」

SCENE00 おもいで





 ──石ころの多いアスファルトを踏んで、バスが揺れる。

 いつも落ち着きなくよく喋る幼馴染みは、夏夜の隣り。

 やっぱり、どこかそわそわとこちらの様子を伺っては、口をもごもごさせていて。



空下ハル :

「久しぶり、だよねえ」


奥津城 夏夜 :

「ん……そうだね」


 わずか、うたたねを振り払って返す。


空下ハル :

「あ……ごめん。起こしちゃった」


奥津城 夏夜 :

 あまりにも居心地の良い温度。


 幼なじみのぬくもりを隣に感じて、少し気が緩んでいたかもしれない。


奥津城 夏夜 :

「いいよ。昨夜あんまり眠れなくて……」


 楽しみだったからね、と夏夜は少し笑う。


空下ハル :

「そっかあ」

 ふにゃ、と笑い返す。

 いつもと同じ、下がり眉。


「あたしも楽しみだったんだよ。でもね、逆にめっちゃ目冴えちゃって、今まで」


「いつぶり、だっけ?」


奥津城 夏夜 :

「どうだったかな、小学生の頃の遠足が最後? 中途半端な距離だから中々行く機会がないよね」


  窓の外に目をやる。山道を走るバスの窓から、御久里坂の遠景が見える。


「また一緒に行けて良かった」



空下ハル :

「…………、」


 返す言葉が詰まったように、視線をふらふらさせた。


奥津城 夏夜 :

「どうか、した?」


空下ハル :

「……えっと」


 それから、ようやく夏夜の前髪辺りにどうにか目線を結び付けて。


 眉を下げて、曖昧に笑った。


空下ハル :

「なんでもない」


奥津城 夏夜 :

「もう、いつもそうだね」


 少し不満げに、でも苦笑しながらハルのおでこを指で押す。


奥津城 夏夜 :

「言いたいことがあるなら言ってよ。言える時に言わないと、いつまでも言えないんだから」



空下ハル :

 声をきゅうと漏らしておでこを抑えて。


 いくつか唸り声を出して、やっぱり視線をうろうろさせてから、


「……ううん」


「なんでもない。のーみそ突っつくから忘れちゃった」


奥津城 夏夜 :

「……まったく」


空下ハル :

  ハルはごめん、とぽつり言って。


「じゃあ、あの」




「────思い出したら、言うね」






 ──バスが止まったのは、それからすぐのことだった。










   ――――――――――――――――


 昨日と同じ今日。今日と同じ明日。

 世界は繰り返し時を刻み、変わらないように見えた。

 けれど世界は、既に変わり果てていた。


   ――――――――――――――――




『みなさん、はじめまして!』

︎︎︎  なくしものが手に入る。

 ほしいものが手に入る。

 不思議なアプリの噂。


『ほら、見て! 実はこれ、みなさんのとーっても大事なモノなのです』


 街の裏側の異世界モラトリアム

 十二人の異能者マージナル

 誰も知らない、悪夢のゲーム。


『なんとなんと――これは、みなさんの“思い出”なんです!』


『今回は、みなさんにこれのとりあいを楽しんでもらおうと思って、やってきました』


 思い出せない、贈り物。


『ぜひぜひ! 勝ち残って、じぶんの大切な思い出を持って帰ってくださいね!』


 贈りたいヒトは、誰だったろう。

 贈られたモノは、何だったろう。

 何を言って贈りたかったのだろう。

 これは、誰の贈り物だったのだろう。

 

 思い出さなきゃ、いけない気がした。

 


『題して――』

 


   ダブルクロス the 3rd edition

      「プレゼント・ゲーム」


   第零話「はじめましてのおくりもの~Who,is the present for?」


 ダブルクロス――それは裏切りを意味する言葉。

 


   ――――――――――――――――

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