爆発するTornado Ⅳ
「お前の、せいでっ! 俺はっ! いつも惨めな気分でっ!」
「……」
灰崎の言っていることは一方的なものだ。失敗を知らない人間が、一度の挫折で心を折られてしまい、その原因を他人に求めて八つ当たりをするようなことでしかない。灰崎にとって、その相手は抵抗しない僕だったんだろう。最初から僕が少しでも反抗していれば、灰崎はこんな暴走をせずに済んだのだろうか。
「……大人しくしてくれ」
「うるせぇっ!」
「これ以上、裏世界を破壊される訳にはいかない。手荒な手段を取らせてもらうよ」
きっと、灰崎にとっては裏世界での出来事が現実である表世界に影響を及ぼすなんて、難しい考えはない。彼にとって、裏世界は自分が特別である為に用意された場所でしかなく、そこで行ってきた破壊行為なんて現実離れしたゲームのような感覚なんだろう。そうやって現実から意識を離してしまったから、レボリューショニストに唆されて暴れている。
加速の倍率を一気に二十倍程度まで引き上げて、灰崎の足を払って腹へと掌底をめり込ませる。
「ぐぇっ!?」
普通の人間なら死んでもおかしくない威力だが、灰崎は胃液を吐き出すだけでまだ意識を保っていた。地面に倒れ伏した状態のまま、胃液を吐き出しているのに灰崎はまだ僕に向かってギフトを放とうとしている。
再び加速して、後頭部へと拳を思いきり当てる。ボクシングではラビットパンチと呼ばれる立派な違反技だが、この戦いにおいてはルールなんて全くない。ラビットパンチが禁じられているのは、単純に人が死ぬ可能性が高いからなんだけど、流石に顎に掌底を当てられても意識を保っているような人間は頑丈だ。ふらついた様子も見せずに立ち上がろうとしている。
「こ、ろして、やるぅ……殺してやる!」
攻撃が当たらず、普段とは真逆で自分だけが殴られている状況に怒り心頭の灰崎は、ギフトである『発火』を全力で解放しようとしたので、僕はそれよりも先に時間を停止させる。
時間が静止した世界で一人動く僕は、灰崎の腹に再び掌底を叩き込んでから胸を強く蹴った。
「ぐぼぇ!?」
停止した時間が進み始めると同時に、掌底と蹴りの勢いを同時に受けた衝撃によって校庭を何度も跳ねながら吹き飛んでいき、もう一度起き上がろうとしてそのまま倒れ込んだ。流石に、ここまでやってまだ立ち上がろうとしたら、非常に疲れることになりそうだったが、なんとか灰崎の意識を奪うことができただろうか。
「お、おま、え、さえ……」
「まだ、意識がある」
いくらなんでもタフすぎやしないか。それとも、まだ僕が裏世界に馴染んでいないから貧弱なだけなのだろうか。しかし、灰崎は既に意識があるだけで指一本も動かせない状態の様だ。
ゆっくりと灰崎へと近づいていくと、空から百足のような頭をしたモンスターの死骸が校庭まで飛んできて、その頭が見えないなにかによって捻じり切られた。
「……椿、速かったね」
「結構時間がかかった方だと思うけどね」
そこには、ゆっくりとこちらへと向かって歩いてくる青騎士幹部「ヘルヘイム」の姿があった。
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