第40話 校外学習
数日が経ち、ついに校外学習の日がやってきた。
今朝は母さんと一緒にテーブルに座って朝食を食べている。
窓の外から見える空は快晴。今日は絶好の校外学習日和だ。まあリープ前も雨で潰れた記憶はない。ぼっちで困った記憶はあるけど。
「おはよぉ~……あれ? にーちゃん早いね……ってそっか。今日出かけるんだっけ」
眠たそうに目を擦りながら杏沙がやってきた。
そしてなぜか近くに立ち、そのまま腕を組んで俺を見てくる。
「な、なんだ?」
「……にしてはなんか気合入ってる感じするね。にーちゃん、校外学習とかで盛り上がるタイプだったっけ……」
「ギリギリ悪口じゃないかそれ」
でもその疑問は正しい。実際、リープ前の校外学習は非常に寂しいものだったのだ。微妙な空気感から離れるため、一人でそっと薪を集めていた……。
(でも今回の俺は一味違う)
過去の俺とは違って友人と呼べる相手もいるし、いざという時は動かなければという使命もある。なので気合も入ろうというものだ。
そんな感じのことを言おうとしたら母さんが口を開いた。
「柊介の班、日奈ちゃんとアイドルの子がいるみたいだよ」
「えぇ嘘!?」
「ごほっごほっ!」
むせてしまった。
「にーちゃん。もしかして女子がいるから張り切ってるの? 日奈さんはいいけど……紗良さんはダメだよ」
「ダメってなんだよ。…………いや、いいってのもなんだよ」
別にいい所を見せようとかそういうわけではないのだ。というか。
「なんで母さんが俺の班のメンバー知ってんの……!?」
「三鳩さんに聞いたよ?」
「三鳩さん!?」
いつの間にそんな情報網が。
「だって柊介が全然喋らないから聞かないと学校生活のことわからないし」
「いや、それはいいんだけどさ……」
拗ねたように言われる。前にも母さんと三鳩さんで喋ってるような話はあった気がするけど、まさか俺の班のことまで連絡を取ってるとは思わなかった。
「三鳩さんも気合入ってるみたいだったよ」
「……三鳩さんも?」
なんで気合を入れる必要があるんだろう……校外学習に保護者は来ないはずだけどな。
母さんが笑ってぽんぽんと俺の肩を叩いた。
「ま、楽しんでおいで。運動もしてるし、男らしいとこ見せてきな!」
「にーちゃん、二人の写真撮って送ってね! あ、にーちゃん写ってるのは平気だから」
二人ともずいぶん適当なことを言う。
こっちも「はいはい」と適当な返事をして、また朝食の残りに手を付ける。
(食べたらさっさと出発しよう……)
◇
そうして始まった校外学習。
バスに乗って着いた先。そこは木々が立ち並ぶとあるキャンプ地であった。開けた場所で、各々料理の準備をする。
まずはそれぞれの班に分かれてカレーを作るのだが……。
「えーっと、火起こし担当が男子で、料理担当が私たちでいいかなーと思うけど……どうかな?」
「はい。がんばります!」
皆森の分担に、夜宮が包丁を持って自信満々に頷いた。
黒髪ロングの夜宮が両手で包丁を握りしめて立っているとちょっと怖いがそれは置いといて。
ゆっくり、俺は手を上げる。
「一応、俺も料理担当にいてもいいか?」
「榎並くんも? それは別にいいけど……」
「火起こしだと余りそうだし、料理の方が作業はありそうだから」
一応、ここでも皆森の様子を見ていたい。
皆森が今日襲われないとも限らないのだ。可能性としては低いと思うが、念を入れるに越したことはない。
俺を入れてくれ、という念を込めて皆森を真っすぐに見つめる。皆森は戸惑うように周囲を見渡した。
「え、えっとじゃあ、一旦それでやろうか……?」
そういうことになった。
◇
まずは具材の皮を剥く。
じゃがいもを洗ってからピーラーで上から下に。
まな板や包丁など数は限られているので、それぞれ分担しながら作業をしている。俺はピーラー係だ。皮を落としつつ、周囲への警戒も怠らない。皆森も無事だし、変な様子もない。
……ただ周りを見ながら作業をしていると非常に遅い。ジャガイモ一つに俺は何分かけてるんだ。
などと思った瞬間、ぱきぱきと森の方から小枝を踏み折るような音がした。
「うわ!?」
「えっ? お、おお、榎並。俺だよ……どうした?」
出てきたのは薪を運んできた鬼崎くんであった。よかった……不審者ではない。
「ごめん。なんでもない」
「そうか、それならいいけど……」
謝罪して、引き続きじゃがいもに視線を落とす。
今度こそピーラーで皮を剥いて――
「うわ!?」
「……え、柊介? 何かあった?」
また同じ音がしたので振り向くと今度は綾人であった。
まずい。神経が過敏になっている。
「あの、柊くん」
「おわっ……って夜宮か」
「柊くん。昨日はちゃんと寝ましたか? なんだか今日は変な気がします」
変と言われてしまった。でもたしかに普段より緊張をしてしまっているのは確かだ。
皆森も複雑そうな目でこっちを見ている。
「……榎並くん。退場!」
「た、退場……!?」
「なんか料理に集中できてないみたいだし、そんな状態で刃物持つの危ないでしょ……。とりあえず薪チームに異動です」
がくりと肩を落とす。おっしゃる通りである。刃物というのは繊細に扱うべきなのだ。こんな物音でいちいちびっくりしているようでは、危なっかしいことこの上ない。
「はぁ……」
溜息を吐きながら薪チームこと鬼崎くんと綾人の元へ。
二人とも仕方なさそうな顔で俺の肩を叩いた。
「らしくないぜ榎並。もうちょっと落ち着いて行けよ」
「そうだよ柊介。今日は楽しいイベントの日なんだから」
楽しいかどうかは安全であることが前提なのだ。気にしすぎなのかもしれないが、何か起きるのではないかと思って不安になってしまう。
「……柊介、こっそりあっち見てごらん」
綾人がそっと指を向ける。
何かと思ってゆっくり目線だけ向けてみる。……しかしよくわからない。
「よく見てみて。迷彩の服着てるから」
迷彩服……? ――って、あれは!?
「み、三鳩さん……!?」
そういえば今朝、母さんから気合を入れてたとか聞いたけど!
自然に溶け込む迷彩姿でなぜか大きいカメラを構えている。レンズの先にいるのはやはり夜宮である。
でもどう見ても不審者だけどな……。
「さっき声かけてみたんだけど、一応先生から許可は貰ってるらしいよ」
「よく声かけれたね」
許可を貰ってるならセーフだろうか。ちょっと夜宮家のパワーを振りかざしてはいないだろうか。
「……なんで来てるのか、とか聞いた?」
「夜宮家のメイドとしては当然みたいだよ」
その理屈だと他にもメイドが来てないとおかしいけど…………いや、いないよね?
「まあでも……あの人がいるなら柊介もあまり心配しないでいいんじゃない?」
そう言われてはっとする。確かに、三鳩さんならば夜宮に危害が降りかかるようなことは先んじて対処するだろう。同時に一緒にいる皆森のことも守ってくれるはずだ。
「……たしかに」
「だよね。じゃあ張り切って薪を集めようか」
「……なんかよくわかんねえけど、問題ないなら行こうぜ」
よかった。俺の心配はなんとか払拭できそうだ。
でも薪を集めるついでに、母さんから三鳩さんの連絡先を聞いて『普通に気づいてる人もいるので程々でお願いします』とは伝えておいた。
◆
――そんな男子の様子を、皆森紗良は遠巻きに眺めていた。
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