第38話 声掛けの理由

 校外学習の班決めでぼっちに怯える俺に差し出される一筋の光。


 なんと綾人が柔らかスマイルで手を差し伸べてくれていた。

 なんだろう。

 胸がどきどきしちゃうな。


「あれ柊介聞こえてた? 僕と一緒の班はだめかな?」

「綾人様……」

「うわ。様付けされると気持ち悪いね」


 手を取って崇めたら笑顔で辛辣な言葉を食らった。

 まあそれはともかく。


(こんな俺と組んでくれるのは助かる……!)


 夜宮と皆森という二大人気美少女。そんな二人と一緒の班になろうという俺は明らかにアウェーだった。そこに綾人がするりと先打って班に立候補してくれたのだ。圧倒的感謝である。


「……あの、俺もいいか?」


 しかも綾人のおかげで流れができたのか、もう一人声をかけてくれた。

 顔面だけは強面ヤンキー。いかつい見た目とは裏腹に慎重なその様子は。


「鬼崎君じゃないか……!」

「お、おう。なんかテンション高いな」


 なんと鬼崎君もやってきてくれた。

 鬼崎君はありがたい人材なのだ。けっこう圧があるし、一緒にいれば不審者も寄ってきづらいのではないか。顔が怖いというのが頼もしい。


 来てくれて嬉しい。でも夜宮に告白しようとしたら急所を思い切り蹴るけど。


「よろしく頼むよ!」

「そんな歓迎されるとは思ってなかったけど……まあよろしくな」


 鬼崎君は急所の危機になど気づかず、まんざらでもなさそうな顔で頭を掻いている。

 意外と、美少女二人と一緒になって鼻の下を伸ばすでもない。どちらかというと、俺と一緒になれたことを喜んでいるような……? 自意識過剰かな……?


 綾人が女子二人に尋ねる。


「夜宮さんと皆森さんも僕らが一緒で平気?」

「は、はい。大丈夫です」

「うん、平気だよ」


 夜宮は少々緊張している感じだったが、二人とも女子との距離感に今のところ変な部分は無い。綾人はともかく、鬼崎君もたぶん気を使えるタイプのようだ。


 綾人が爽やかスマイルで黒板を指さす。


「じゃ、みんなの名前書いてきちゃうね」


 ということで俺たちの班が決まった。班に入ろうと様子を見ていた他クラスメイト達が愕然としている。先着順だったのかよという顔だ。


 綾人が綺麗な字で名前を書いていく。……ぼんやり見ていたらなぜか勝手にリーダーが俺にされていた。何してるんだ。別にいいけどさ。


 黒板を見るクラスメイトの顔は無念そうだったり、なんかヘイトを買っていそうだったり様々だ。覚悟のうえだったとはいえ、注目を買ってしまった。あんまり平穏な班ではなくなってしまったかもしれない。


 綾人ってこういう目立つ時はあまり前に出てこないイメージがあるけど。


(というか綾人はなんで声をかけてくれたんだ)


 あとついでに鬼崎君も。



 ◇



 その後の昼休み。


「柊介、お昼ご飯一緒に食べない?」 


 非常に珍しいお誘いがあった。綾人と鬼崎君だ。膨らんだコンビニのビニール袋をすっと差し出している。


 いきなりすぎるし、綾人の笑顔が爽やかすぎて怖い。


「い……いいけど、何も出せないぞ」

「はは、何に怯えてんの。班メンバーで親交を深めようってだけだよ」


 笑顔が爽やかすぎて意味深に聞こえてくる。親交を深めるって本当に親交を深めるって意味だよね? なんかカツアゲとかされないよね?

 鬼崎君も綾人に続くような形で声をかけてくる。


「一緒に食おうぜ。俺たち……この前変な感じで喋ったきりだろ」

「……まあ、そうかも」


 鬼崎君とはこの前、詰められるような形で喋っただけだった。普通に話をしたことは無かったと思う。というか、俺はやっぱり生来のコミュ障が出てしまって他の人に話しかけられていない。


 というわけで、かなり珍しい面子で屋上までやってきた。


「柊介さ。なんか今日一人だけ焦ってる感じだったよね」


 ぺりぺりとサンドイッチの袋を剥がしながら綾人が言ってくる。


「そうだな」


 そう言う鬼崎君は可愛いお弁当ケースの蓋をぱかりと開けている。

 ……なんだこのアウェーな雰囲気。


「……鬼崎君、お弁当箱が可愛いね」

「おお。お袋が作ってくれてんだ」


 中身は綺麗に彩られたお弁当である。


「榎並のは?」

「俺も母さんが作ってくれたやつだね」


 おにぎりと、タッパーに詰められたちょっとしたおかずである。

 もぐもぐとみんなで食べ始めるが……無言。何か言ってほしい。俺たちはお弁当談義をしにきたわけじゃないのでは。


 結局俺が口を開くことになる。


「……俺、焦ってた?」

「そういう風に見えたよ僕は」


 綾人の言葉に、鬼崎君も頷いていた。

 焦っていた。言われてみれば、皆森のことを考えていて、余裕は少しだけなかったかもしれない。


「まあ、柊介が焦るのは別にいいんだけどさ。何か困ってるならもう少し頼って欲しいなって思っただけだよ」

「え?」


 綾人はいつも通りのスマイル……ではなく、少しだけ照れくさそうな色が顔に混じっている。

 鬼崎君も同じくだ。


「一応クラスメイトだし、仲良くやろうぜ。困った時くらい言えよ」


 そんなシンプルな事を言うためだけに、わざわざ一緒の班に入って、こうして昼食を誘ってくれたらしい。


「なんでそんな……」


 理由を聞くとなぜか言いづらそうに苦笑いされた。


「まあ柊介ってあんまりみんなと喋らないからさ」

「お前、だいぶ勘違いされそうだからな」


 なんか乙女ゲームのヒロインみたいなことを言われている。俺がクラスメイトと関わってこなかったゆえにこんなことに。

 でも、ありがたいことだ。周りを見ていなかったけど、いつの間にか俺を気にしてくれている人がいたのだ。


 反省だ。俺自身も、もっと周りに目を向けなければ。


 そんなことを思っていたら、スマホにメッセージが飛んできた。

 差出人は皆森である。


『今日のことについて説明を求めます! 放課後カフェに集合すること!!!』


(……な、なんか怒られそうで行きたくない)


「……ちょうど困った事になったんだけど相談していいでしょうか」

「どうしたの?」

「どうした?」

「俺がやらかして叱られそうなんだけど、どうやったら回避できるかな」 

「それは大人しく叱られた方がいいんじゃない?」

「大人しく叱られるべきだな」


 至極まっとうな意見に、がくりとうな垂れる。

 でもなんとなく二人との距離感は縮まったのであった。

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