第9羽
私が到着する頃、兎が鍵を盗み終えているだけでなく、作戦と違ってはいるがすごい穴を掘り終わり、トラックから離れた場所でくつろいでいた。
「おっ! 似合ってんじゃん! もしもがあってもこれなら安心ってやつだな! ちなみに、鍵は盗めたがあっさりしすぎてさ! ついつい傑作を掘っちまったや」
茶化しながらいつもの調子で兎が話しかけてくれて、緊張の糸がちょっとだけ解けていった。
「蛇さんの話を聞いてたおかげだし、止めなかった兎さんのおかげでもあるよ。ありがとね。にしても、すっごい穴だね」
兎は鼻の下をこすりながら自慢気に笑っている。
「走り出したときが楽しみってもんさ」
二人でこっそり笑い合っていると、鳩が率いる山の仲間たちがやってきた。
「こんなにたくさんの動物初めて見たかもしれない! えっ熊さんまでいるの? すごいなあ」
大はしゃぎしてしまったのを少し反省しつつ、熊と話せると思うと興奮してしまった。
「……喜んでもらえたのに申し訳ないのですが、私は世間一般で怖がられているような熊じゃないんですよお」
少しだけもじもじしながら話してくれた熊はとても可愛い声をしていた。子供のような声だ。
「こいつはまだ子熊なんでな。子熊ではあるが自分なりに協力したいんだとさ」
鳩が私の肩に止まった。
熊の紹介からはじまり、集まってくれた動物たちを紹介してくれた。
「狐と狸は相棒同士だ。世間一般じゃあ狐と狸は不仲だと言われちゃいるが、こいつらは非常に仲良しで連携は抜群だろう。一緒に狩りに行くことが大好きなやつらさ」
紹介された狸と狐は前足を揃えてゆっくり頭を下げてお辞儀した。可愛い!
「あとは俺の悪友どもだ」
「おい鳩! このクソ野郎め! もっとちゃんと紹介してくれよ! 適当すぎんだろ!」
適当に紹介されたカラスたちがカーカーと鳩に抗議しているが、鳩はそれを軽くあしらった。羽でシッシとしている。鳩らしい。
紹介し終えると、作戦の手順の説明に入った。
まずは私が立ち塞がり説得を試みてみる予定だったが、くつろぎながら様子を見ていた兎の情報によると、どうやら言葉が異なる相手らしい。
とりあえず言葉をかけてみてダメだったら、最もシンプルでわかりやすい手段をとるとのこと。……力で解決するのだ。
なんか緊張するなあ。
衣装に乱れがないかみんなに確認してもらい終え、桃泥棒たちの前に立ちはだかった。
「そこまでです。大人しく桃を農園に返しましょう」
できるだけそれっぽく、蛇が神妙な顔つきで話をしてくれた雰囲気をイメージしながら口を開いた。
泥棒たちは一瞬手を止めこちらを見、怯えた顔をする者もいれば、再び盗みを続ける者もいた。
すると、怯えた表情の人間がなにやら手に持ち、こちらへと歩いてくるではないか。なにやら言っているが、兎の情報通り言葉がわからない。
なんとなくだが、身の危険を感じた。
具体的に感じた危険はというと、お化けかなにかだと勘違いされて怖がられ、実体のあるなにかかどうかを殴るかなにかして確かめに歩いてきているのだと察した。
拳を構えて交戦の意思を示す。これはみんなで決めた交渉決裂、第一段階失敗の合図だ。
私の背後で子熊が一生懸命咆哮をあげた。
狐と狸は私の横を走り抜け、歩いてきている人間の足に噛みついたあと素早く後退し、二匹同時にみぞおちへタックルを決めていた。
見事で華麗な身のこなしに思わず拍手を送ってしまう。すごい!
カラスたちと鳩はファサファサハトハトと羽音を立てながら盗んでいる最中の人間に襲いかかった。
私も負けちゃいられないぞ!
逃げ出そうとしているうちの一人に襲いかかり、締め上げて失神させた。
なんだかちょっと気分が悪い。暴力は向いていなかったようだ。
なので、桃を抱えて逃げようとしている人間から強奪する方針に切り替え、桃を奪い取りに走り回った。
ちらりと兎を見ると、石をカチカチ鳴らしながら荷台で作業をしている人間に火をつけようとしている。
それはちょっと場所的に危ないぞ!
「兎さん! そこで火をつけたら危ない! 爆発しちゃう! 掘っちゃえ!」
自分でも言っていることがめちゃくちゃな自覚はあったが、咄嗟すぎて、兎のお仕置きといえば鳩にやっていたアレが真っ先に頭に浮かんでしまい、思わず出てきてしまった言葉だった。
兎は大笑いしつつ、持っていた石を捨て、なんだかちょっと照れくさそうに頭の後ろをかいた。
「自発的にする分には全然恥ずかしくないんだがなー。リクエストされるとなんだか照れくさいもんさなー」
積み込みをしていた人間は兎を蹴ろうとしたがヒラリとかわされ、腰にしがみつかれた。しがみつかれてしまった……。
自分で言い出しといてあれだが、後のことは何も言うまい。強いて言うなら、言葉の異なる国の人間でも、叫び声というのは同じらしいということくらいか。
「あああああああああ!」
泥棒たちを一網打尽にし、山にある蔦で作った縄で拘束した。
逃がしてしまった人もいたが、たくさんの桃を守ることができた。
「ここの農園の人って誰かわかる?」
鳩とカラスたちに尋ねてみると、カラスのうちの一羽が心当たりがあるというので、一緒に呼び出しにいくことになった。
「気をつけていってらっしゃいー!」
みんなの声が温かい。これから山で一緒に暮らすのを思うととてもワクワクできるのだった。
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