第18話 俺も魔法少女に!?
その後も、色々な魔法を2人で試してみた。そして分かったことがいくつかある。
・呪文は特に必要ないということ。「炎出ろ」とか、「水出ろ」って言ったら、出る。
・予想はしていたことだが、完全に俺と実幸の魔力量は、実幸>>>>(越えられない壁)>俺である。
・1つの魔法を使うたび、俺は1分以上休まないと疲労感が凄まじいが、実幸はケロリとしている。実幸の上限はまだ不明。
・実幸は完全なパワー型。そして俺はコントロール型。
……そして……。
「何で呪文、魔法少女っぽく言わないと駄目なんだ!?」
「夢、かわいいよ?」
「殺すぞ」
地面に両膝を突き、項垂れていた俺は、実幸の慰めとは言えない慰めに、勢いよく顔を上げる。そんな言葉で俺が喜ぶとでも思ったのかこいつは。いや、楽しんでるだけなんだろうな、知ってた。
……気を取り直して、説明しよう。というのも、俺たちが魔法を使う際、「魔法少女っぽく」言わないといけないのだ。
例えば先程言った、「炎出ろ」じゃ駄目なのだ。そういう投げやりな感じじゃなくて、「炎よ、出ろ!!」と、ノリノリで言わないと駄目なのだ。この前実幸が使っていた、物体を小さくする魔法も、ただ単に「小さくなれ」と言うだけでは駄目だった。もっと、「小さくなーれっ」とノリノリで言わないと。
「何が悲しくて、健全な男子高校生が魔法少女の真似事しないといけないんだよ……いや、したい人はすればいいと思うけど……俺はしたくないんだよ!!!!」
「すっごい自己完結」
実幸が俺の屍をつついてくる。やめろ、そっとしておいてくれ。
「……ねぇ、夢」
「……何だよ」
「私、思ったんだけど」
顔を上げると、実幸は自分の頬に人差し指を当て、首を傾げる。
「覚えてる? 幼稚園くらいのときに、私が見てるからって、夢も一緒に魔法少女のアニメ見てたの……」
「ああ……そんなのもあったな……」
「夢、それを潜在的に覚えてて、『魔法はああいう感じで使うものだ』っていう風に……自然と考えてるんじゃないかな」
「……」
魔法は言葉と、言葉に付与されたイメージ、そしてそのイメージを深く、心の底から信じることで、魔力と共鳴し、魔法が使える……。
そのイメージに、俺の思う「魔法使い像」も、反映されているとしたら?
心の中で、習ったことを復唱し、予想を立てる。そして導き出した結論は。
「有り得る…………」
「えっ、ほんと? 私、もしかして今日は冴えちゃってるのかも!?」
「そういえば俺、この約16年間生きてきて、魔法もの見たのってあれが最初で最後だわ……もっと……もっと魔法ものの経験を積んでおけば良かったッ……!!」
「魔法ものの経験って何?」
珍しくボケとツッコミが入れ替わっている気がする。気がするが、今はそんなことはどうでもいい。俺は屈辱に床に倒れている。……だが、なんとか杖を手に取ると、体を起こした。
「……いいじゃねぇか、やってやるよ」
「……夢?」
「魔法少女にでも何でもなってやるよ!! それで5歳児なんて言われないくらい強くなって……!!」
「な、なって?」
「魔法少女にならなくても魔法を使えるようにする!!!!」
「諦めてなかった」
今は仕方ない。魔法少女にならないと魔法が使えないのだから。今は経験を積むことだけを考えよう。恥は捨てよう、一時的に。
……とは思うが、気分はなかなか上がらない。
「台詞だけなのに、そんなに恥ずかしいの?」
「お前には分からないだろ……俺の気持ちが……」
「そのイメージに任せて、変身とかまでしなくて良かったって考えたら」
「今の状況超ラッキー」
サムズアップをする。確かにそれよりはマシだ。
そして相変わらずジルファ先生は、話に置いて行かれていた。
「現状は、実幸様は力は強いのですが、それに振り回されている。そして……夢さんは、その見てくれの割にコントロール力は文句なしなのですが、恐ろしいほど弱いです」
「おっと悪口か????」
「いえ……意外と繊細なタイプなのだと思っただけです」
「意外とって言ってる時点で悪口じゃねぇか……」
まあ、いちいち突っかかっていても仕方がない。黙って話の先を促した。
「お2人とも、現状打破の方法は1つしかありません。……練習あるのみ。魔法を使って、使って、感覚を掴むのです」
「ええ……」
「文句言うな、実幸」
実幸はこういう、忍耐、努力、根性、みたいな類が苦手だからな……とにかく集中力が続かない。勉強とかも苦手なのは、同じ理由だ。
「……お2人のこの弱点と言いますか、そういうのを一発で打破する方法が、1つだけありますが」
「えっ」
「そっ、それは一体!?」
ジルファ先生に対し、俺も実幸も身を乗り出す。特に実幸は、「楽にレベルアップが出来るなら!!」と期待に満ち溢れている。……友情・努力・勝利、っていうコンセプトを全否定だな……。
ジルファ先生は指を鳴らす。そして笑顔で。
「前回同様、お2人が共に魔法を使うことです」
「共に……」
反芻し、実幸の方を見る。実幸も同様に、俺の方を見ていた。
「見た上での予測に過ぎませんが、あの時貴方は実幸様の力を受け取り、それをコントロールしてザックラバスたちに命中させた……違いますか?」
「はい、あってます」
俺は頷く。……あの時は無我夢中だったから、今同じことをやれと言われると……どうなるかは分からないが。
「魔力の受け渡しを、魔法を使わずに行う場合、それは互いの深い信用が必要です。……そうしないと……」
「……そうしないと?」
俺と同様、嫌な予感を察したのだろう。実幸が若干青ざめた顔で問いかける。
ジルファ先生は、相変わらずの笑顔で。
「受け渡しに失敗し、魔力が暴走し、その場で破裂します」
「はっ!?」
「れつっ!?」
「……本当に仲が良いのですね、貴方たちは……」
俺たちが自然と1つの単語を完成させてしまうと、ジルファ先生がそう呟く。少し呆れ気味だった。
だが、それよりも。
「夢と心中なんて死んでもごめんなんだけどっ!!!!」
「こっちの台詞だお前のお人好し精神のせいで俺まで死んでたまるか!!!!」
ぎゃいぎゃいと言い合いが始まる。確かに俺たちは信頼し合っているだろう。でも、相手のために死んでもいいと思ったことは無い。
……たぶん。
あれ? こいつら本当に仲良いのか? いや、一周回って仲良いと言ってもいいんだろう……みたいな、1人百面相をしていたジルファ先生は、気を取り直したように手を叩く。
「しかし、それさえ成功してしまえば、まさに互いの弱点を補っている、理想的な戦い方だと言えましょう。……現に貴方たちは、それであの屈強な魔物、ザックラバスに勝利したのですから」
「まあ……確かに、一理あるが……」
それにしても、魔物に対抗するために死ぬリスクに晒されるなんて、本末転倒だ。それに、こんなよく分からないところで死にたくない。せめて親のいる世界で死なせてくれ。
実幸も同じ気持ちなのだろう。複雑そうな表情を浮かべていた。
「……ですが、実際のところ、お2人が常に一緒にいることは不可能でしょう。片方が不調だったらその時点で崩壊しますし、魔法無しの魔力の受け渡しが、必ず成功するとは言い難い」
そこで、と、ジルファ先生は俺たちを安心させるよう、微笑んだ。
「まあ簡単な話、魔法を使って魔力を渡してしまえばいいんですよ」
その言葉に対し。
確かに……と、俺たちは深く納得するのだった。
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