第45話(上司サイド)誤算

「く、くそっ!」


 テンガの目の前に立ちはだかる、四天王のシシリィと謎のゴーレム。

 そして、大魔王ログラース。


『じゃあ、いくぜ?』


「お、お前ら! 散開しろ……!」


 配下のモンスターに、とっさに指示を出すテンガだが。


『遅え! シシリィ!』


 魔王とその四天王は一瞬のスキを見逃してくれなかった。


『メガバクハ!!』


 ゴオオオオオオオッ!


「あ、あああああっ!?」


 7体のイヤシブロブのうち、5体が爆炎魔法の炎に巻き込まれる。

 レベルを上げてあるとはいえ、戦闘性能自体は最下層のモンスターである。


 上位爆炎魔法の威力により、あっさりと灰になる。


「く、くそぉ!」


 ゴゴーーーム


 ズドン!

 バシュッ!


 せっかく逃げおおせた残り二体のイヤシブロブは、ゴーレムの化け物に回り込まれ、岩でできた拳であっさりと潰される。


「があっ!?

 か、回復手段が!?」


『なんだなんだぁ?

 モンスターをティムできる人間が現れたと聞いて楽しみにしてたが、こんな雑魚モンスターばかり連れてやがんのかぁ?』


「ちいっ!」


 こうなったら攻撃に移るしかない!

 幸い、あのゴーレムは動きが遅い。


 魔法主体のシシリィを俺が抑え、犬ガキに魔王の障壁を破らせれば!


「トードナイトA! オレ様についてこい!」


「トードナイトB! お前はあのゴーレムを抑えろ!」


 トッ!

 トトトッ!


 テンガの指示に忠実に動くトードナイトたち。

 トードナイトAはレベル30、Bはレベル20まで鍛えている。

 足止めくらいにはなるだろう。


「犬ガキ! お前は魔王を攻撃しろ!」


「…………!」


 ティムの魔石が紫色に輝く。

 我関せずと突っ立っていたアルフィノーラが反応し、信じられないスピードで魔王に肉薄する。


 どんっ!


『……ほお?』


 初めて、魔王ログラースの声から余裕の色が消えた。


「今のうちに、シシリィを!」


 テンガはレイピアを煌めかせ、四天王シシリィに突撃する。


『メガカマイタチ!!』


 バシュバシュバシュッ!


「ぐあっ!?」


 真空の刃がテンガを切り裂くが、止まるわけにはいかない。


「くらえっ!」


 ドシュッ!


 ザンッ!


 テンガのレイピアがサキュバスの胸を貫き、トードナイトの剣が漆黒の翼を切り落とす。


「……よしっ!」


 運よくクリティカルヒットが連続した!

 動かなくなったシシリィからレイピアを引き抜く。



 キイイイイイインッ!

 パリインッ!



 その瞬間、待ち望んでいた音が、魔王城の広間に鳴り響いた。


「や、やったか!?」


 振り返ると、テンガが望んだとおりの光景が広がっていた。


『がっ……があああああああっ!?

 闇の……障壁がっ!?』


 アルフィノーラのトンファーが、ログラースの上半身にめり込んでいる。


 パキパキ……パリイッ!


 鱗がこぼれ落ちるように、黒いパネルの様なものが大魔王の身体から剝がれていく。

 魔王を守る絶対無敵の障壁……今それが勇者の力によって破られたのだ!


「ふはははははっ! 行ける、行けるぞぉ!」


 犬ガキの力は思った以上だ!

 アイツを使い潰して魔王のHPを削れば、オレ様とトードナイトAで魔王ログラースを倒すことが出来る!


「いけ! 全力攻撃だ!」


 自身とトードナイトAを回復魔法で癒しながら、アルフィノーラに更なる指示を飛ばす。


「…………!」


 ブオンッ!

 ドシュッ!


 アルフィノーラの一撃が、ログラースの下半身に命中し、スキュラの触手を一本吹き飛ばす。


『ば、馬鹿なぁ! コイツはまさか!!』


 テンガは己の勝利を1ミリたりとも疑っていなかった。


『…………なんてなぁ!』


「ふははははは……はぁ?」


 ガキンンッ!


 トドメとばかりに繰り出されたアルフィノーラの蹴りが、何かの壁に跳ね返される。


『慎重派の俺様は……もう一つの障壁を用意してたってわけだ』


 ばしっ!


 ログラースの下半身から生えた細い触手が、アルフィノーラを絡み取る。


「…………なん、だと?」


 魔王が何を言っているのか理解できない。

 魔王を守る闇の障壁は1つ。

 勇者の一撃で破ることが出来れば、あとは普通にダメージを与えられる。


 もう一つの障壁があるなど、ありえない事だった。


 じゅる……じゅるるる。


 ログラースの触手が、アルフィノーラの太もも、腹、可憐な顔までも這いまわる。


『ふうん……やはり”勇者”か。

 んん? 見慣れねぇ力も感じるな』


『面白れぇ……この大魔王ログラースの贄にふさわしい』


「ま、まてっ!!」


 犬ガキの事なんざどうでもいいが、ソイツは勇者。

 もう一つの障壁も、勇者がいないと破れない。


「離れろっ!」


 キイイインッ!


 ティムの魔石の力を最大にするが……。


『はんっ! コイツは俺様が貰う』


 ばしゅっ!


「なにっ!?」


 魔石の力はログラースにあっさりと吹き散らされる。


『ゴゴーム!!』


 ゴゴゴゴゴームッ!!


「しまった!?」


 いつの間にかトードナイトBを始末したゴーレムがテンガの背後に回り込んでいた。


 バキイッ!


 拳の一撃を受けたテンガは、なすすべもなく吹き飛ばされるのだった。

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