第34話 決勝戦、開始
『さあ、武術大会もいよいよ決勝です!
勝利の栄光を掴むのは、一体どちらか~!!』
司会者の煽りに、盛り上がる観衆たち。
さすがに決勝戦ともなると観衆のほとんどは一般市民だ。
”仕込み”が無いことはあきらか……観衆がどちらの勝利を願っているのかも。
『まずは閃光のように現れた救世主! ヒーガの塔を攻略、上級モンスターをティムし、破竹の勢いで魔王の手下を打ち倒す、われらが第一王子……テンガ・オージ!!!!』
うおおおおおおおおっ!
爆発的な歓声が、テンガのパーティを迎える。
『対戦相手はハジ・マリーノ村のロリコン救世主(笑)、モーブ・ジュンヤ。
……と、某(なにがし)のそっくりさんその他1名~!』
テンガに比べて雑な紹介。
司会者の言葉には確実に(笑)が混じっていた。
テンガの情報操作を真に受けているのだろう、失笑が観客席を包む。
ピキッ!
後の二人から青筋の立つ音がした。
心配するな、俺がぶちのめした後にたっぷり仕返しさせてやるから。
そう目で伝えると、いい笑顔をするふたり。
俺たちの気合は十分だ。
「性懲りもなく上がってきやがったかぁ~?
オレ様自らブッ飛ばしてやれること、幸運に思うんだなぁ!」
そして、ニヤニヤと厭味ったらしい笑みを浮かべて俺たちの目の前に現れたのは、今一番ブッ飛ばしたい男、俺の元上司で現第一王子であるテンガとその一味。
貴族風にもみあげを伸ばし、ギラギラと悪趣味に光る鎧を身に着けたテンガの後ろには、熊型のモンスターと寡黙な大男が一人。
”主人公”を引き立てるための地味なパーティメンバーなのだろう。
『それでは、決勝戦の開幕です!!』
ドラの轟音と同時に、大男とモンスターが俺たちの前に立ちはだかる。
「…………」
俺が用があるのは、そこのクソッタレ元上司にだけなんだが。
一人と一匹を睨みつけると、恐れをなしたと誤解したのだろう。
テンガの”口撃”が始まる。
「ん~?
顔色が悪いのか?
宿の食事が合わなかったのかぁ?」
なんとも白々しい。
デバフ薬の入った食事は俺がすべて平らげた。
後で”効果”を見せつけてやる。
「お前はいつも大事な時にダメな男だなぁ!」
「それに」
テンガの視線がフェリシアとアルの方を向く。
「廃品回収をしてくれるとは、ご苦労な事だ」
「しかもお膳立てしてやったというのに、手を出す勇気もなかったようだなぁ!
おお、犬ガキは調子が悪そうで……」
ブンッ!!
おお、手が滑った。
最小限のモーションでぶん投げたロングソードは、テンガのもみあげをかすめ、背後の壁に深々と突き刺さる。
「……んなっ!?」
コイツの目には何が起こったか分からなかっただろう。
パサリと切られたご自慢のもみあげが地面に落ちる。
テンガの顔がみるみる赤くなるが、俺はすぐさま畳みかける。
「ああ、俺は剣の扱いが上手くないもんで……ハンデとして、素手でお相手しますね?」
「モオオオオオブウウウウウウウウッ!?!?」
テンガは格下と思っている奴から手を出されるのが大嫌いだ。
あっさりと俺の挑発に乗り、激昂する。
「クマ!! デカ!!
馬鹿モブを殺さずに俺の前に連れてこい!!
オレ様自らとどめを刺してやる!!」
いや、建前上魔王に対抗する戦士を探すための武術大会なのだから、
相手を殺したら反則負けである……自分でそう言ってたくせに。
ガウッ!
「…………」
あまりにあんまりな名前を持つテンガの手下が飛び掛かってくる。
だがその動きは呆れるほどに……遅い。
「くははははは!
クマはオレ様が自らティムし、鍛え上げたノルドベアー!
その爪の一撃は、鉄鎧すら切り裂くぞ!」
ブンッ!
クマの一撃が俺の脇腹を捕らえるが……。
ガンッ
「くははははは……はぁ?」
鋭い爪は何の変哲もないジャケットに受け止められ、一ミリたりとも刺さらない。
「く、くっ。
デカは新進気鋭のSランク戦士!
そのレベルは……推定60!!
攻撃力だけならオレ様を上回る強者だぁ!!」
グオッ!
グレートソードの一撃が、轟音を立てながら俺の首を狙う。
ぱしっ
その一撃を、人差し指一本で受け止める。
「なっ……なんだとっ!?」
そろそろ見せてやってもいいだろう。
俺はテンガに見えるように設定を切り替え、ステータスウィンドウを展開する。
わかりやすく現在値/最大値表示にしてみた。
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モベ ジュンヤ
LV6 ヒューマン
HP :2,650/2,950
MP :1,080/1,430
攻撃力 :1,367/1,521
防御力 :1,063/1,211
素早さ :710/821
魔力 :792/911
運の良さ:777/891
E:ロングソード(攻撃力+10)
E:ファイバージャケット(防御力+50)
魔法:ヒール、ホノオ、コオリ、テンイ
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「ばっ……!?」
信じられないという表情を浮かべ、硬直するテンガ。
ホテルの朝食にデバフ毒を混ぜる……ヤツの陰謀は確実に効果を上げていた。
限界突破した俺のステータスの前では誤差だったけどな。
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☆戦闘スキル熟練度:11
…………
--->new 武神乱舞…… 使用回数3
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せっかくなので、新しく覚えた戦闘スキルを使ってみよう。
「はあああああああああっ!!」
ガオッ!?
「……!!」
両腕を振り上げクマの爪とデカのグレートソードを振りはらう。
「”戦闘スキル:武神乱舞”!!」
右腕に装着した小型の盾をデカの顔面に叩きつけ、左の拳から撃ち出した衝撃波をクマの急所にぶち当てる。
ドカバキッ!
悲鳴も上げずに吹き飛び、動かなくなるデカ。
クリティカルヒットしたのか、小さな宝石と化すクマ。
「さて、残るはアンタだけですよ……テンガさん?」
驚きの余り尻餅をついているテンガにゆっくりと歩み寄る。
「なっ……なんでモブごときがこんな力を!
モンクエのステータス上限は999だぞ!?
何かの間違いだ!」
パニックのあまり青くなったり赤くなったり、せわしなく顔色を変えるテンガ。
「そ、そうだ……バグに違いない! リセットさえすれば!!」
ようやく自分の中で整理がついたのだろう。
立ち上がったテンガはその右手に持ったレイピアを振りかぶる。
ビシュッ!
この世界の基準では、神速……ともいえる突きが俺の急所に迫る。
だが……!
ぱしっ
レイピアの切っ先を、右手のひらで受け止める。
「くそっ……このっ、このおおっ!?」
どれだけ力を入れても、1ミリたりとも刺さらない。
汗まみれになり、伸ばした前髪が額に張り付いているテンガを見下ろしながら俺は言うのだ。
「テンガ!
俺の家族に手を出した……その報いは受けてもらう!!」
「!! モ、モブ……お前はっ」
最後まで言わせない!
ぱきん!
右手のひらを押し出し、レイピアの刃を折るとその勢いのまま拳をテンガの頬に叩きつける。
「ぐべえええええええええええっ!?」
ドガッ!!
鼻水をまき散らし、吹き飛んだ第一王子テンガは壁に激しく叩きつけられた。
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