第16話(上司サイド)嫉妬に狂う男、ストーカーする


「くそったれ、どこに行きやがったあの馬鹿エルフ!」


 ザンッ!


 最底辺の雑魚モンスター、エビルラットをレイピアの一撃で真っ二つにする。

 手に入る経験値も金もわずかで、ストレス解消にすらならない。


 序盤の強化イベントがある”エルフの村”の存在を思い出したテンガは慌てて城に戻ったのだが、一足遅くフェリシアは辺境の視察に出向いたという。


 どこに行ったのか言いたがらない下級兵士をシバキあげ、ハジ・マリーノ村に向かったことを聞き出したテンガ、マージ王も国際会議への出張で不在であり、誰もついてこないので仕方なく一人で出かけたのだが……。


「どいつもこいつも!

 オレ様の思い通りに動かない!!」


 オープニングイベントで魔王ログラースに襲撃された村は廃墟のままであり、街道を行きかう旅人を締め上げ、ようやくニ・シーノ丘陵に村が移転したことを突き止めた。


 村は全滅したと思っていたが、性懲りもなく生き残った人間がいたらしい。


「はあっ、はあっ……もう夕方か」


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 ブジン テンガ

 LV9 ヒューマン

 HP  :32/54

 MP  :1/22


 攻撃力 :41

 防御力 :30

 素早さ :19

 魔力  :31

 運の良さ:20

 E:マジックレイピア(攻撃力+20、魔力+5)

 E:チェインメイル(防御力+15)

 魔法:ヒール、ホノオ、イカヅチ、コオリ、ライトフォグ

 EX:2,430

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 ニ・シーノ丘陵に入った途端、モンスターの出現率が高くなった。

 この辺りの雑魚モンスターなどオレ様の相手じゃないが、とにかく数が多い。

 MPは尽き、全身が傷だらけでとても痛い。

 連れて来たイヤシブロブも使ってしまったので、もう盾役すらいない。


「臭いからと言って、リンゴ野郎を連れてこなかったのは失敗したな」


「底辺兵士どもめ……」


 これもすべて、「城の守りを王に命じられていますので」と頑なに護衛役を拒んだ兵士どものせいである。

 盾役のいないバトルがこんなに辛いとは……。


 王都の酒場で冒険者を雇おうかとも思ったが、人間とパーティを組むと獲得経験値が少なくなるし、報酬も払わなくてはいけない。

 城の兵士ならいくらでも補充されるので遠慮なく使い潰せるのだが、冒険者は面倒だ。


「下等世界のくせに、契約だけはしっかりしてやがる!」


 報酬の分配比率に負傷・死亡時の保証金まで……書面で契約書を交わさないと冒険者と契約できないのだ。

 たいした物件でもないのにいろいろな特記事項を要求してくるクライアントの顔を思い出したテンガは、冒険者と契約する事をあきらめた。


「仕方ない、あそこで一泊するか……」


 王宮ですらマズい飯に段ボールレベルの寝具なのだ。

 ド田舎の村の宿屋がどんなレベルなのか、考えるだけでうんざりとしてくるが背に腹は代えられない。

 主人公なので、一泊すればHPもMPも全快するのだから。


「……救世主特権で金を出させるか」


 せめて金でも貰わないとやってられない。

 そう考えたテンガは、田舎の村のクセにやけに立派な門構えの砦に向かって歩き出すのだが……。


「……という事でジュンヤさん。

 貴方を私の故郷であるエルフの村にお招きしたいのですがっ♪」


「!?」


 砦の入り口が開き、数人の男女が外に出てくる。

 ボロボロの姿を見られたくないと、手近にあった木の陰に隠れるテンガ。


「あれは……!」


 驚きに目を見開く。


 ---


「ヒューバートさんに聞いたんですが、エルフの村は秘奥中の秘奥で選ばれた人間しか足を踏み入れられないとか……。

 俺なんかが入って大丈夫ですかね?」


「アルはエルフさんの村、楽しみ!」


「ふふっ。

 ジュンヤさんとアルちゃんは真の救世主様ですから……当主もお喜びになると思いますわ」


 ---


「モブ……なのか?」


 黒髪の男が茂部(モブ)だとは、一瞬分からなかった。


 てっきり魔王の攻撃で死んだと思っていた。

 自信なさげでいつもオレ様にへこへこしていた情けない(テンガ主観)姿はそこには無く、堂々とした立ち振る舞いは既に熟練冒険者のそれだ。


「それに……!」


 既に何度かバトルを経験し、レベルアップを重ねたテンガには分かってしまう。

 腕の太さ、感じる魔力……それが自分を凌駕していることを。


「何故、あんなモブがっ!!」


 メキッ


 口惜しさのあまり握りしめた木の幹がわずかに軋む。


「さあっ、参りましょう!!」


 何より腹が立つのは、フェリシアが満面の笑みを浮かべている事だ。

 俺の世話をする時はあんなに嫌そうで事務的なのに!!


「ふざけるなよ、馬鹿エルフ……!」


 別にあの女の貧相な身体になど興味はないが、下僕にした女が他人に……しかもモブなどに尻尾を振るなど大変不愉快だ!


 城に戻ったら折檻してやる……!


 テンガという男は病的に嫉妬深いのだ。


 ヴィンッ


 フェリシアがエルフの村に繋がる転移ゲートを展開し、モブたちが後に続く。


「くそっ!」


 モブの事は腹立たしいが、今後のチャートのためにもマッドゴーレムを手に入れる必要がある。

 テンガはフェリシアたちの気配が完全に消えたことを確認すると、薄くなりかけた転移ゲートに飛び込むのだった。

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