ステータス上限999世界のモブに転生したけど俺だけ上限9999、魔王退治は上司に任せて楽しく生きる ~序盤で滅ぼされる村を救ったら、何故かクソ上司が破滅してんだけど~
第1話 俺のステータス上限は9999です
ステータス上限999世界のモブに転生したけど俺だけ上限9999、魔王退治は上司に任せて楽しく生きる ~序盤で滅ぼされる村を救ったら、何故かクソ上司が破滅してんだけど~
なっくる@【愛娘配信】書籍化
第1話 俺のステータス上限は9999です
「遅い!」
飛び掛かってきた狼型モンスターに向けてロングソードを振るう。
ギャンッ!?
悲鳴を上げ草むらに倒れ込むモンスター。
「ヴェアウルフを一撃!? ジュンヤ凄い!」
だきっ!
「おっと」
背後から抱きついてきたのはピンク髪の犬耳少女だ。
同じ色の犬耳と尻尾が嬉しそうに揺れている。
「ふふっ、今日は美味い物を食わせてやるぞ?」
「!! ジュンヤ大好き!」
にぱっ、と音がしそうなほど華やかな笑顔を浮かべる少女。
その笑顔にやられた俺は、ふわふわのピンク髪を優しく撫でてやる。
ああ、なんて可愛いんだろう。
とても癒される。
「ふふっ、まったく大したもんだ。
中堅冒険者でも苦戦するようなモンスターだぞ?」
少女を追いかけて来た中年男性は感心しきりだ。
「そうなんですか? よく分からないです」
(何しろエアプだし)
「ジュンヤはアルたちの救世主だから強いんだよ!」
「うっ……」
手放しの称賛を受ける事なんてほとんどなかったので、思わず顔が赤くなる。
ただ、駆け出しなのは本当だ。
ステータスを確認してみよう。
======
モベ ジュンヤ
LV1 ヒューマン
HP :230 最大値:9,999
MP :120 最大値:9,999
攻撃力 :150 最大値:9,999
防御力 :110 最大値:9,999
素早さ :80 最大値:9,999
魔力 :105 最大値:9,999
運の良さ:70 最大値:9,999
☆戦闘スキル熟練度:3
☆築城スキル熟練度:5
E:ロングソード(攻撃力+10)
E:布の服(防御力+5)
======
そう、ステータス上限が999のこの世界で俺だけ上限が9,999なので、
レベル1の初期値でもそこそこ強いと言うだけなのだ。
「ただ、やっぱりレベルは上がらないな……」
何しろステータスに経験値の欄が無い。
「はぁ……」
何でこうなったのか、俺は数日前の事を思い出していた。
*** ***
「貴方は適格者として選択されました。
世界No272671、モンランドを魔王の手から救ってください」
「へっ?」
意識が覚醒するなり意味不明な事を言われ、思わずマヌケな返事をしてしまう。
上司と一緒にクルマで外回り営業に出ていて、前を走っていた大型トラックが荷崩れを起こし大量の鉄骨が転がってきたところまでは覚えている。
「良いですね、モブ・ジュンヤさん?」
いや、俺の苗字は茂部(もべ)だから……そう訂正する間もなく目の前の女性は話を進めていく。
「申し遅れました。
私は転生担当女神のユーノです」
「は、はぁ」
よく分からないがユーノと名乗った女性は宙に浮いている。
ゲームでしか見たことのないキラキラと光るローブを着ている事から見ても、人間ではないのだろう。
「心配する事はありません。
貴方にはこのわたし、女神ユーノから特別な力が付与されます。
魔王を倒せば元の世界に戻れますので、ゲーム感覚で気軽に挑戦して頂ければ。
そうすれば最底辺なわたしの評価も……こほんっ!」
……なにやら彼女の個人的な欲望が混じった気がしたが、
なるほど、ラノベでよくある異世界転生ってヤツか。
「その通りです!」
俺の心を読んだのか、満足そうにうなずくユーノ。
それにしても……まさか自分が異世界転生を経験する事になるとは。
終わったと思っていた俺の人生は、どうやらもう少し続くようである。
「モンランドは貴方たちの世界で超有名なゲーム……モンクエによく似た世界ですので、攻略の参考になるでしょう」
「えっ……?」
聞き捨てられない事を言われた気がする。
モンクエ、正式名称モンスタークエストは国内販売1,000万本を超える国民的RPG。
だが実は俺、プレーしたことがない。
まとめサイトなどで断片的に情報を知っているだけのいわばエアプである。
これはマズい、転生先を変えてもらおう。
そう思った瞬間、男性の声が響き渡る。
「ふん、お前も生きていたのかモブ。
しぶとい奴だ」
「な!?」
俺の事をモブと呼ぶのは(目の前の女神を除いて)一人しかいない。
何より聞き覚えのある声に慌てて振り向くと……。
「お前の好きな異世界転生(笑)ってヤツか?
まったく、お前が鉄骨をちゃんと避けないからこんなことになっただろうがぁ?」
厭味ったらしい声色で俺を睨みつけてくるのは、髪を茶色に染めびしりと高級スーツを身に着けた30歳前後の男性。
元の世界で俺の上司だった舞人 典雅(ぶじん てんが)さんだ。
「い、いや……俺はクルマを止めようとしたのに典雅さんがそのまま突っ込めと言ったんじゃないですか」
「ふん、あのまま止まっていたら大事な商談に遅れていただろう。
モブ、お前はいつもオレ様の人生の邪魔をするな」
「…………」
無茶な事を言う。
今回の商談は、俺が数か月にわたり関係性を築いて契約に漕ぎづけたモノだ。
それを典雅さんは横取りして自分の手柄にしたのだ。
「それにしても、異世界にまでお前がいるとはなぁ。
オレ様の英雄譚の邪魔をするなよ? せいぜい引き立て役になれ」
自信満々の典雅さんの様子にこっそりため息をつく。
この人はいつもそうだ。
少年時代の事故で天涯孤独になった俺。
なんとか高校を卒業し、就職した会社で配属されたのが典雅さんが主任を務める営業部だった。
だが不幸な事に、会長の息子と言う立場を利用して傍若無人に振舞う典雅さんは、他人の成果は自分の功績、自分のミスは他人のミスにするような人だった。
必死に働いてゲットした契約は全部典雅さんの功績にされ、典雅さんの作業ミスはすべて俺のせいにされた。
会社からは、無能社員をフォローしつつ営業部の成績を伸ばす有能リーダーという評価を得て部長まで上り詰めた典雅さん。
俺は彼の立場を守るため、長時間のブラック労働を強いられていた。
異世界転生でそのブラック労働から解放されると正直ほっとしていたんだけど、この人も一緒だとは……。
「まあ、オレ様が速攻クリアするから、モブのお前は何もできないかもな!。
くははははは!」
何が面白いのか、高笑いする典雅さん。
だが、典雅さんの自信は本物だ。
モンクエのRTA(リアルタイムアタック)日本ランカー。
基本一本道のモンクエだが、プレーの効率性を突き詰め裏技を使うことで大幅な時間短縮が可能でありRTAが盛んにおこなわれていた。
(はぁ……)
何やら俺の異世界転生はしょっぱなから怪しい雲行きだが、それをさらに決定づける出来事が起きる。
カッ!
「ほ~っほっほっほ!
ユーノ! しょせんあなたはモブしか担当できないようね?」
ヒールの音も高らかに、典雅さんの後ろから現れたのは、派手なローブを着た蒼髪の女性。
「エリスさん!?
なんでここに!」
「ほ~っほっほっほ!
上位女神のわたくしが、優秀な転生者と契約したからに決まってますでしょう?
世界No272671の救済スコアは頂きますわ!」
「そ、そんな横暴……
って、モブさんはモブキャラじゃないからっ!
訂正してよ!」
「ふん、名前からして既にモブ! 雑魚女神の貴方にお似合いですわ!!」
「ざ、雑魚じゃないもん!」
「何をおっしゃいますやら、貴方がいままでに救った世界は0
……女神界始まって以来の落ちこぼれのクセに。
1つの世界にふたりの転生者と言うのは異例ですが……テンガ殿が世界を救う所を雑魚モブらしく一緒に眺めている事ね」
「ううう~っ!」
エリスとやらも多分女神だ。
とりあえず俺は茂部(もべ)なんだけど。
エリスの話を聞いて、典雅さんのいやらしい笑みがさらに深くなる。
「はっ! モブのお前にお似合いだな!」
「お~っほっほっほ!」
ばしゅん!
言いたい事だけ言うと、典雅さんとエリスはこの空間から転移してしまった。
「…………うぅ」
「……ユーノ」
口惜しさに涙を流すユーノを見て、俺の中で1つの決意が形を成していく。
ぽん
ユーノの肩を優しくたたくと、高らかに宣言する。
「俺、典雅さんより先に世界を救うよ。
ユーノ、君のためにも」
正直、あの
いつも典雅さんに虐げられていた自分の境遇に似ていて、ユーノに同情したということもある。
転生先はゲームに似た世界。
ユーノから特殊能力を授けてもらえば、俺だって頑張れるはずだ!
「ずびぃ。
その気持ちは嬉しいんですけど……」
かっこよく決めたはずが、なぜか困惑した表情を浮かべるユーノ。
「エリスさんの方が女神ランクが高いので、テンガさんが主人公、ジュンヤさんは残念ながらモブキャラとなります……」
「……は?」
聞き捨てならない言葉に、ユーノの肩に手を置いたまま、ぴしりと固まる俺。
「それに、”モンクエ”なるゲームはわたしもエアプですので。
どんな力を授けたらいいかよく分かんないな~。
適当にジュンヤさんの記憶から……」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ったぁ!?」
とんでもない言葉を口走るユーノをなんとか止めようとするが……。
「それではジュンヤさん、頑張ってください!」
視界が真っ白な光に包まれる。
「うわ、うわあああああああああっ!?」
ばしゅん!
茂部 純也(もべ じゅんや)23歳、初めての異世界転生はどうやらモブキャラとしてスタートする事になりそうだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます