レーフェ編 第19話 殲滅

「なるほどなぁ。おい、あれなんだと思う?」


 そう言って指差したのは遥か遠くにうっすら見える大きな黒い影。それがなんとなく近づいてきてるような気がする。


「あー……狼だ」


「だよな」


 遠くに見えている影はとても大きいが何がくるかわかってる俺にはそれが大きさではなく多さなのがわかる。普段群れない生物がなぜこんなにも群れているのだろうか。何か理由がありそうな気がする。こっちに走ってきている理由もそうだ。

 それはそうと勝てんの?これ。


「なんか作戦とかある?」


「特に考えてなかったけど……。正面から向かい打っても厳しいよね」


「そうなんだよ。……俺が引きつけてミシアがやる?」


「え?なんで?」


「いやさ、俺のこれって対集団で強いわけではないだろ?でも引き付けるにはこの盾があるからいけるかなーって」


「確かに。じゃあ私が周りのやつを殺していくね。だから死なないでね」


「頼むぞ」


「そろそろくるよ。構えて」


「わかってるって」


 さっきの大きな影がどんどん細かくなっていく。

 ポケットから盾を出して展開する。左手で持って今は右手を盾に添えておく。必要な時が来たら殴る。

 手が震える。力をこめているからか緊張しているからか。

 

 どんどん近づいてくる。

 次第に足音も聞こえるようになってくる。

 ついに目があった。


「コウシ!!!!」


「おうよ!」


 どう立ち回るかずっと考えていた。狼を盾で空に打ち上げればミシアは狩りやすいだろう。ただ、そうすると体がガラ空きになってしまう。そこまで無茶する必要はないと思う。


 特に回り込んでくるとかはしなかったため一方向からくるがそれもそれで衝撃が連続で加わってきつい。もう何回か盾が割れた。十発ぐらい食らうと割れる感覚。

 約束通りミシアは外側で集団から外れたやつを着実に狩っているようだが俺からしたらまだ何も変わっていない。


 狼の猛攻が半分過ぎた頃からUターンしてきた狼が後ろから俺のことを襲い始めてきた。

 俺はそんなことした事ないはずなのに足音だけで距離と跳躍したかを判断して正面を盾で防ぎながら後ろのやつには回し蹴りを入れてぶっ飛ばしている。ただの後ろ蹴りでは足を喰われて終わりだ。

 正面からの猛攻は収まったが逆にさまざまな方向からくるようになってしまってどこに集中すればいいのかわからなくなる。

 全方位の狼を警戒していると、戦っているミシアの姿が目に入り、その時だけミシアのことを認識するのかスキル名を連続で叫ぶ声と血の噴き出る音が聞こえる。

 二方向なら対応しきれているが三方向は無理だ。少し走って攻撃されるタイミングをずらして方向を絞らないといけない。とっととスキルを使ってしまいたいが使ったタイミングで盾が割れてしまうと魔力操作が難しくすぐに治せない。と、思う。だからスキルは使わずに蹴りと殴りだけでなんとかしている。


「はぁはぁ、あと何体!」


「あと、……九!!」


 よし、もうすぐだ。だんだんと数が減ってきたのが考えずともわかる。

 狼は体幹が強いのかただ横に吹き飛ばしても時間稼ぎにしかならない。上に飛ばしてもそれがミシアによって倒されたか、体勢を直して反撃してくるかなど意識を割かないといけなくなるからだめだ。

 狼の頭には二本のツノが生えており、弱そうな顔面を狙ってもそのツノで刺されないように気をつける必要がある。既に何回か刺さった。

 だんだんと何が強いのかわかってきた。前蹴りは弱い。踵落としが強い。って言うか、とにかく頭の上を殴って地面に叩きつけるのが強い。


「あと二!!……オラッ!!あと一!」


 残り一体になった。あとは普通に二対一でボコボコにするだけだと思っていたが何か様子がおかしい。


 そいつは死んだ狼のツノを噛んで砕いて飲み込んだ。

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