レーフェ編 第9話 初戦闘
なぜか俺の旅に着いてくることになったミシアと門を出て、一本道に出た。
「ね、ねぇ、これからどこに向かうの?」
「あーとりあえず人がいっぱいいるとこ。どっかの国?」
「あ、そうなんだ……。ここらへんの土地は詳しいんだっけ?」
「いや、全然」
「コウシはどれくらい強いの?Cランクぐらいは狩れる?」
「C?わかんない。戦ったことないし、初めて見た魔物?もあの赤龍だし」
「え。それなのに一人で旅に出ようとしてたの?」
「うん。なんとかなるでしょ」
面接のようなミシアの質問攻めが一旦終わったのか少し沈黙が訪れる。
この女はなんなんだ。
「あのさ、え、どこまで一緒なの?」
「ん?ずっとだけど。あーでも、二十五歳になったら一旦帰ろっかな。神器もらいたいし。コウシのためにもね」
「ってことは、後三年はとりあえず?」
「うん……じゃなくて後四年じゃない?私二十一だよ?」
「二十二だろ。っていうかその嘘ついてたら帰るの二十六になるけどいいのか?いいならいいけど」
「ぐ。っていうかなんで知ってんのよ」
「セシアから聞いた」
「もうお姉ちゃん……」
「あ、そうだ。昨日の赤龍を殺したのってセシアだろ?めっちゃ強いじゃん。ミシアもあれぐらい強いの?」
「あーあれはね、まぁ元々お姉ちゃんが剣の扱いがうまかったのもあるけどそれよりもお姉ちゃんの神器の力だよ」
「神器?さっきも言ってたけどそれなんなんだ?」
「んっとね、神器っていうのは成人したら貰えるんだけどそれがね、めちゃめちゃ強いんだよね。特にお姉ちゃんの霊剣は最強レベル」
「お前の村の成人って色々すごいんだな。俺がいたところはマジでなんもないぞ。酒とタバコが食えるようになるぐらい。しかも、大体の人がその前から使ってる。多分。あとは決まった日に成人式って言ってみんなで集まって駄弁る。参加したことないから合ってるかわかんないけど」
「へー、そうなんだ……。成人ってそりゃ神になるんだから。すごくないわけないじゃない」
「ん、神?」
「うん。だから神器だし。っていうかさっきからずっと成神って言ってるじゃん。神に成る、で。なんだと思ってたの?」
「あぁ……そっか。確かに。いやぁ、うちはさ、人に成るって書くのよ。今考えるとその前から人なのにな」
「人に成るで成人か……。コウシの地元はどういう種族なの?」
「普通に人だけど」
「え……それなのに?うちはさ、人以外もいるから成人はあり得ないわけ。人しかいなくても成神だけど。あれ、メローナちゃんとか会わなかった?あの子精霊よ?」
「メローナ……会ってねぇな。精霊って見た目でわかるのか?」
「んー、よく見れば?人との違いは浮けるとかちょっっっとだけ!透明だったり」
「うわ、だいぶ精霊だな。一回ぐらい会いたかったな」
「三年後会わせてあげるから。ちょーかわいいよ?おっぱいでかいし。脚がえっち。あとめっちゃ強い」
「へー。強いってのは人間じゃないからか?」
「んーこういう差別的な言い方ほんとに好きじゃないんだけど……まぁそうだね。魔力が普通の人間より多いし、綺麗だし、魔法の行使も人間には使えない高度なものが使えたり……。あの子は神器にも恵まれてるしね」
差別?
「あぁ、そうなのか。お前はさ、差別ってどういうものだと思ってるんだ?」
「えー……例えばさ、さっきの話だと、人間だからこうで精霊だからこう。人間の中でもあいつはあれでこいつはこう……みたいな感じで、なんていうんだろ。個人の話に種族とか団体とかの話を持ち込まれるとダメじゃない?個人は個人だし」
「なるほどね。わかった。俺の個人的な見解だけど、俺が思うに、差別ってのは絶対に無くならないものだと思う。お前の村とか宗教の力を持ってしてもそういう概念を教えなくても、どんな差別の解釈でも無くならない。俺たちは目の前の対象を要点要点でまとめて区別する。能力の話だと……お前の姉ちゃんは剣がうまくて誰だっけ、メローナ?は魔法が強い。んだろ?こんなふうに人間がどうとか言う前に分類したがるんだよ。っていうかそういうふうに脳が処理するからな。そうしてる時点で差別は無くならない。この分類は見た目の話にも通ずるしな」
「で……何が言いたいの……?」
「その上で、お互いがその分類されることを『なんでもないこと』として認めるしかないんだよ。そうすると人間が上だとか精霊が上だとか、強いから上だとか金を持ってるから上だとか無くなる。なんせ、それらは個人を形成し、理解するための一個の点でしかないんじゃねぇかな。俺はこんな風な解釈」
「つまり……?」
「ちょっと話逸れたけど、言いたいのは俺は人間とか精霊で区別したが侮辱はしてないしどっちが上とかも考えてない。だから、その理解というか。差別的に聞こえたんだろうけど、俺は一切そう思ってないってことを伝えたかった」
「な、なるほどね……。コウシ、意外と真面目にそういうの捉えて考えてるんだね」
「うわ!それよく言われるわ。マジで失礼だかんな。気にしてないけど」
「あーごめんごめん。見た目がチャラすぎるか……ら、ん……ちょっと。止まって」
「どうした?」
「静かにして。魔物がいる。戦いたくないでしょう?」
「いやぁ。まぁ、うん……」
「何よその反応。っていうか、バレてるっぽいわよ……」
「まじ?じゃあ迎え打とうぜ。それとも逃げる?」
「うーん、そんな強そうじゃないから迎え撃ってもいいわよ。ほら、あれ。いけそう?」
よし、初めての戦闘だ。ミシアに指さされた方向を見ると大きめの蜂がいた。そいつはバレてないと思ってるのか静かにこちらに近づいてくる。
「じゃあ、コウシが前張ってもらえる?私は後ろでトドメ刺すのを待つから。危なくなったら助けるし」
「了解。信じるよ」
正直、こいつと協力して命のやりとりをするのに不安が募るが信じるしかないだろう。ここで死んだら運が悪かった。それだけ。
蜂がある程度の距離まで近づいたところで一気に尻尾の毒針を突き出して突撃してくる。
「はっや!!いし、でかい!!」
だけど見えてるし、反応もできる。
こんなんビビったやつが負けだろ。
「おらぁぁぁ!!」
その毒針の先端に触れないように針を掴んで背負い投げの用法でそのまま地面に叩きつける。一メートルないぐらいの大きさの蜂が地面に伏すがすぐさま飛び立とうとしてくる。尻尾も動かして俺のことを狙おうとしてくる。
ただ、俺の行動は叩きつける前から計画していた。毒を溜めてるのか膨れた腹を踏みつける。本気で。
すると意外にあっさりと「パンッ」とお腹が弾け、中の液体が俺にもかかる。一瞬、終わったかと思ったがそれは毒じゃなく、胃液のようなものだった。おかげで死なずに済んだ。
「これで終わりだよな?意外と弱いな」
「まぁ、終わりだけど……怖くないの?」
「うーん、あんま?」
「へーすごいね。剣とか持った方がいいような気もするけど。ずっと素手で行くわけにもいかなくない?」
「剣かぁ。使ったことないし。自分に当たりそう。高そう。手入れ大変そう。小回り効かなそう」
「偏見すごいね……。まぁ慣れないのに慣れるまでの時間が無防備だし、使えても最強ってわけじゃないしいいんじゃない?」
「だよな。俺もそう思う」
そんなこんなで初めての戦闘は俺の完封で終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます