カルミル村編 第7話 準備
目を瞑っていても瞼の裏に刺さる窓の外は光は明るい。カーテン閉めればよかったな。
眠れなさそうな、ら…………。
ん。あ、異世界か。
普段通りではない起床に働いていない脳が疑問を持ちながら目覚める。
そういや、昨夜シャワーも何もしなかったせいで頭がぐしゃぐしゃだ。気持ち悪い。
洗えるとこがないか後で聞いてみるか。
とりあえず机のパンを処理するか。昨日三食分もらったがまだ一個しか食べてない。どうしようか。一応何個は持ってけるしそうした方がいいか。
食べるのは……朝だしせつ菜と豆と揚げパンにするか。残すのもそうだけどこの部屋を開けるんだから荷物は撤去しないと。
それらを無理くり口に詰め込んで飲み込む。普段こんなに朝から食べないから困るな。
感想としてはせつ菜パンはほうれん草みたいなふにゃふにゃの草がところどころに入っていて結構美味しかった。これは当たり。
豆パンは先ほど同様豆が散りばめられていて食感はレーズンパン。ただ、豆の味がよくわからなかった。大豆とかも本体は味しないよな?そんな感じ。
揚げパンはコッペパン?的なやつを砂糖があるのかわからないけど甘い砂糖みたいなやつをまぶして揚げたやつ。普通に美味しかったけど朝はきついな。
残ったのは俺の世界の菓子パンであるチョコが入っているメロンパンとウィクパン。
っていうか結局ウィクってなんなんだ?
そう思って中を覗くとピンクの液体の中に葉物や肉?の具材が入ったものを焼きそばパンのように挟んでいる。食欲は一切湧かない。
まぁいいか。
それをポケットに入れて部屋を出る。
「おばちゃん、俺今日で部屋出るわ」
「えー!!もっといていいのよ?どうしたの?」
「んー、ここにいるだけじゃダメかなって。もっとこの世界を楽しもうと思ってさ」
「あらぁ、そうなのねぇ。わかったわ。ありがとね。鍵は持ってる?」
「あぁ、鍵ね。はい。あ、あとさ、ここって体洗えるとこある?」
「ありがと。洗い場は食べ物屋の裏を少し行ったあたりに魔法陣があるからそれを起動してそこを使ってね。タオルとかも使っていいし使ったあとは多分わかると思うけど乾燥装置のなかに入れてね」
魔法陣?を起動?そんなこと多分できないぞ。やったことない。
「魔法陣すか?それってどうやって起動するんすか?」
「あら、もしかして魔法陣見たことない?じゃあ一緒に行ってあげるから覚えとくと便利わよ」
俺でもできるのだろうか。
それから少し歩き、食べ物屋の近くにきた。そこにはウィーンがもう品出しを始めていた。
「おう、コウシ!今日はどこで働くんだ?ここでもいいぞ!」
「あぁ、すいません。もうここを出ようと思って。なんでもうどこも働きませーん!」
「あぁそうなのかい。死ぬなよ。かーはっはっはっは」
「大丈夫っすから。へへっ」
死か。全然ありえるんだもんな。昨日みたいな魔物が出たらどうしよう。ちっこいのは素手で殺せるかもだけどあんな龍みたいのは無理だ。逃げるしかないか。
食べ物屋の建物を回り込むと森があった。ここをちょっと進むんだよな?
この森を色々見ていると遠くの方には足がない幽霊みたいな鹿だったり錯覚のようだが明らかに顔がついている木があったりして面白い。死ぬほど怖いけど。
これ、裸の時に襲ってきたら終わりだよな。
そんなことを思っていると不自然に木が伐採されて開拓されている場所がある。てっきりこういう民族は「森を大事に。」とか「森の精霊が……。」とか言うタイプかと思ってた。
平気で森を破壊する系か。
そこに入ると森の地面に機械的な人一人分ぐらいの丸い枠があり、その上にはおそらく魔法陣がある。初めて見るしこれがそうなのかはまだわかんないけど。
その円の周りは少し濡れていてついさっき使ったことがわかる。
そのそばには聞いていたカゴのような乾燥装置?がある。
「これっすよね。どうやるんすか?」
「えっとね、この魔法陣は今は色がついてなくて無色でしょ?これに絵の具を垂らすみたいに色をつけていくの。できる?」
「うーん。イメージできないんでちょっとやってもらっても?」
「わかったわ」
そういっておばちゃんは腕を上に伸ばしてその魔法陣に触れる。それは実体がないのか貫通している。それを全然気にしてないのを見るにそれが常識か。
「こうやって、ほら見て、どんどん赤色が付いてくでしょ?これが魔力。魔力っていうのは、体の中にある……なんていうんだろう。気?みたいな。血みたいに実物があるわけじゃないから、本当に気みたいな。イメージはなんとなくできるでしょ?それが多分それよ?」
気か。俺は立場上なんとなくそういうのは関わりあるけど……。それって多分、錯覚か酸素とか血液の流れだよな?その錯覚を魔力っていってるんだろうけど。
「ふぅ……」
一度深呼吸して腕を伸ばして魔法陣に触れる。それを見ておばちゃんは身をひいてくれる。
なんとなく、目を瞑って本当に想像だけで魔力を感じる。あっちの世界だったら妄想に過ぎないけど、この世界では実現するんだろうな。
心臓、いや肺かな。とにかく胸の辺りにあったかいものを感じる。そのあったかいのを触れている左腕まで持っていき、そのまま手の指の先に移す。これでいいんだよな?
恐る恐る成功しているか確認するために目を開くと、さっきおばちゃんの魔力に反応していた魔法陣はその赤色を少し残して大部分がうっすい黄色に光っている。
「これは……?」
「できてるわよー。っていうか、これ、あなた……無宗教なのよね?」
「え?はい」
「本当に……?いや、そうだとしても……」
「あの、どうしたんすか?俺の魔力が変なんですか?」
「変っていうか……。あ、これからまた旅に出るんでしょ?あまり魔力を見せびらかさない方がいいわよ」
「あ、わっかりました……」
どういうことなんだろう。なんか、特別な力が?みたいな?
思い浮かぶのは実家のことか神様から能力をもらったこと?ぐらいだ。
「じゃあ、これでお別れね。良い旅を!」
そう言っておばちゃんは村の方に戻って行った。
俺は服を全て脱いで少し固そうな土において丸い枠の中に入る。
すると音自体はなってないが「かちっ」という感覚があり、頭上の魔法陣から水が出てくる。あの世界のシャワーのように繊細なものではないが、体や髪を洗うには十分に水が排出されている。
髪や体をタオルで洗剤もなしに洗うのは慣れなかったが、高校の時と違って恋愛だとかはないし、そこまで清潔感とかもいらないだろ。って思って自分が満足するぐらいで洗うのをやめた。
体と顔を贅沢にもさっきと違うタオルを使って水気をとり、元の服を着直す。そういえば、制服ってこの世界では珍しいよな?この村では全然気にも留められなかったが。宗教の教えもあるんだろうけど。
そんなことを思いながら門を出ることを決心した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます