第30話 神々の記憶
王城から厄災の種の浄化のため不屈の洞穴に転移(ワープ)した全と武仁は電灯(ライト)の灯りを頼りに土神の大樹を目指す。
洞窟の中は入り組んでおり分岐に差し掛かる度にまた行く通りの新たな分岐にあたりまるで蟻の巣の様だ。
しかし2人は迷うそぶりもなく全を先頭に洞窟を進んでいく。
これは全の強かな賢者の称号の効果を試すためで、分岐の度に全が思う通りの道を選び進んでいた。
洞窟の中は蝙蝠(こうもり)でも出そうな雰囲気だが、出会う魔物は岩や土の質感をした傀儡(かいらい)のようにも見えるゴーレムと言う魔物だけで、一線交えると動きは鈍いがゴーレムの攻撃力は相当高いのだろう、振りかぶったゴーレムの拳を武仁がヒラリと交わすとその拳から繰り出されたパンチは洞窟の硬い地面を大きく削る。
しかし体勢を立て直す間に武仁の勇者の剣(バット)による一撃で粉砕されるとゴーレムの核と呼ばれる小さな玉を残すと跡形もなくサラサラと砂状になった。
何体かのゴーレムと遭遇した以外では特段トラブルもなく不屈の洞穴の最奥にあるとされる土神の大樹まで到達すると、呼んでもいないズチが姿を現す。『武仁殿、我は土神様の使い、この浄化を見届けたい』ズチはそう言うと土神の記憶や自らが聖人の器だった時を思い出しているのか切なそうな表情を見せた。
土神の大樹は火神より幹が立派で洞窟の中だからか背丈こそさほどではないがその枝には鼈甲(べっこう)のような葉が天井一面を覆いどこか幻想的にも感じる。
ズチと武仁が見守る中、全は厄災の種を取り出すと火神の大樹の時のように種は光を放ち宙に舞うとその姿を鼈甲のような美しい宝珠に変えた。
それを手にし2人は大樹に触れ創生の記憶を見た。
それは土神の視点だからなのか、火神の時に見た記憶とは少し印象が違った。
この世界を創生するにあたり一番積極的に取り組んだのは火神であった。
火神は数え切れない世界を見て数多の理不尽に怒りを覚えそのような事はあってはならないと強く訴えている様子で、土神は火神の姿勢を、そして他の神々の意志を静かに聞き届け、その最中食い違う意志もありながら一番最後に『ならば私は揺るがぬ大地としてこの世界に安寧の地を築こう』と一言発するとそこで創生の記憶は終わった。
2人は土神の真珠を見つめるズチに気がつくと「僕たちはまだ創生の記憶を全て見た訳ではないから上手く言えないけれど、土神はきっとこの大地のように寛大な神様なんだね、ズチは慌ただしいけれど寛大だしどこか似ているよ」と全がズチに声をかけた。ズチは『ありがとうございます』と言うとスッと姿を消した。
「創世の記憶は神々の視点や意志によって同じ創生時の記憶でも少しニュアンスが異なるのかもしれない、火神の時はもっと平和な世界を創れなかった憤りを全体的に感じて結果この世界の成り立つきっかけを知れたけれど......土神の記憶ではどちらかと言えば神々の意志に重点を置いているのが印象的だね」
全が武仁にそう語りかけると、武仁は「あぁ......わからねぇが......なんかモヤモヤするぜ......このままフォルダンでもう1つも浄化して水神の記憶も見てみようぜ」と言うと全もそれに同意し転移(ワープ)でフォルダンへ向かった。
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