第62話 聞き込み ~幼女エルフを助ける

「うわー! ほんとにかっるいねー!」


「ふわふわ。スース―するけど。心地いい」


「うーむ。なるほど、これは……」


 レリア、マティ、エリーザの三人にも、エルフの民族衣装を着てもらった。

 皆、白くて極薄、いろいろ透けてるけど問題はない服を身にまとい、着心地の良さに感動している様子。


 この中ではマティが一番似合ってるな……


 妹をひいきにしてるんではなく、こういう服は胸が控えめな方が合う気がする。

 エルフも、痩身であまり……おっと。

 何となく妹に睨まれた気がするので、これ以上は。


「しかし、これ一度脱いだら、絶対自分で着直せないぞ……」


 自分の姿を見下ろしながらつぶやく。どういう布の巻かれ方をしてるんだか全く分からない。


「大丈夫。わたしが覚えた」


 マティ頼りになる!

 全員の着付けをするのは大変だろうけど。


「これは、なかなかですね!」


 エリーザも結構気に入ってる様子だ。

 可愛い系は好きなくせに一向に着ようとはしないけど、こういう系統は大丈夫っぽい。


 しかし、彼女が歩くといつも以上に揺れる……

 この服の構造上、縦揺れはまだ良いけど、横に揺れたらまろび出てしまいそうだ。

 

 俺も気を付けよう。


「多少、胸の支えが足りないのがやや不安ですね!」


 ばるんばるん。

 ……これはこれで、見とれてしまう。


「シルヴィアちゃん!?」


 レリアに睨まれた。


「え、えーと。じゃあ、情報収集にでも行こうか」



 会計の時、自分たちの通貨が使えなかったので、ひと悶着あった。

 仕方ないので、アイテムボックス内の、エルフが喜びそうな金細工ものをいくつか提供することで解決。


 俺たちは無事店を出た。



「……まだ、なんかじろじろ見られてるような?」


「若い人。居ないからかな」


 民族衣装で馴染む作戦、失敗じゃないか。

 俺たちはいったい何のために……


 外国へ旅行に来た一団が、テンションの上がるままにご当地の衣装に身を包んだ、って感じになったかも。


「仕方ない。


 せめて、私たちはエルフをリスペクトしてますよ感が出てれば、良しということで。


 このまま、ギルドに行こう」


 念のため俺のブースト強化を使って、皆の民族衣装に疑似オリハルコンコーティングをしておいた。

 また奇襲がないとも限らないし。

 

 それ以前に、防御力ゼロ感が心細過ぎたってのもあるけど。




「ミュール街一番地の酒場、『銀杏亭』のとなり……あった!」


 服屋の店員に教えてもらって、俺たちはギルドまでやってきた。

 扉をくぐって中に入る。


「うんー?」


 レリアが変な声でうなって首をかしげる。


 それもそのはずで、ギルド内には冒険者らしい者は一人もいない。

 そのうえ、ギルド職員は全員老エルフだった。


 さすがにこれは、不自然すぎる。


「……どういうことだ? エルフの襲撃者も老人、入国管理官も老人。


 そしてギルドの職員も老人……」


「けっきょく街にも、老人と幼児しかいませんでした。どういう事でしょうか」


 職員に尋ねるしかない。

 この状況と『冒険者狩り』はどういう結びつきがあるというんだ……



「……お答えできかねます」


 しかし、ギルド職員は質問には一切答えようとはしなかった。


「なぜです? 我々はただ状況を知りたいだけです!」


「……」


 エリーザが語気荒く問い詰めるも、職員は首を振るだけ。

 そして、すぐに奥に引っ込んで出てこなくなってしまった。


「なんなんでしょうね!?」


「職員さん。怯えていたみたい」


 確かに。

 俺たちとの会話の間、周囲をうかがって誰かに見られてないか、気を配っているように見えた。

 この里で、何かが起こっているのは確かなようだが……いったい何が。




「……何も分からないままだねー」


 ギルドを出た俺たちは、周囲のエルフの人々にも聞き込みをして回った。

 しかし、現状については誰も何も答えようとしない。


 そして全員、すぐに家に引っ込んでしまうのだった。


「やっぱり、何かに怯えてるみたいですね……」


 何か、下手な事を言えば例の襲撃者が来たりするのだろうか。

 俺たちは当てもなくうろついているうちに、裏通りっぽい場所に迷い込んでしまっていた。


 すると、道の先で何か争いごとのような物音と、声が聞こえた。

 走って駆けつけてみると、数人の男の幼エルフたちが、一人の女の幼エルフをいじめている様子だ。


「こらこら。寄ってたかって、女の子をいじめるんじゃないよ」


 声をかけると、男の幼エルフたちはこちらを睨みつけた。


 「ちっ。いのちびろいしたなダークエルフ!」


 そう女の幼エルフに叫んだあと、


 「よそ者がエルフの服を着てんじゃねーや!」


 とわめいて、俺たちの横を走り去っていった。


「あいた。去り際に私の胸をはたいて行きましたよ……」


 エリーザさんのそれは目立つからね……ってはみ出てます!

 とたんにレリアに目を手でふさがれた。


「大丈夫?」


 マティがうずくまっていた幼エルフの子に、手を差し伸べる。

 エルフには珍しそうな、褐色の肌に銀髪のその子は、マティの手を掴んで立ち上がった。


「……ありがと、助けてくれて。誰なの、あなたたち?」




「へえ……何年ぶりかじゃないかな。外の世界から来たなんて。


 リナ、初めて見たよ」


 銀髪の幼エルフ……リナ・サブリンは、木の株の椅子に座って、物珍しそうにこちらを眺めた。


 ここは、リナの家。

 助けてくれたお礼と言って、招待された。


「エルフ料理、おいしいね!」


「この木の実スープなんて、絶品だ」


「簡単なものだけどね。ほんとに」


 リナにエルフ料理なるものをふるまってもらって、それを皆で味わいつつ、落ち着いたところだ。

 樹の上にある集合住宅の一室が、リナの家だった。


「窓の外は絶景ですね……ちょっと怖いですが」


 エリーザが怖いというのは、家の土台が無い造りのせいだろう。

 ほとんど吊り下げられてるような感じなので、俺もちょっと気持ちがわかる。


「良い所。空気も美味しい」


 マティの言葉にそうでもないよ、とリナは足をぶらぶらさせながら答えた。


「リナちゃんは、一人暮らしなの?」


 レリアが人懐こそうな笑顔で尋ねる。


「いらない、ちゃん、は。リナは、リナでよろしく。


 一人暮らしだよ……今は」


「ちょっと、尋ねたいことがあるんだ」


 と俺はさっそく切り出した。

 この里の、年齢層のかたよりについて。

 若者はいったい、どこへ行ってるのか。



 リナは声をひそめ、周囲を警戒しながら、疑問に答えてくれた。

 だが、その答えはちょっと驚くべきものだった。



「シュイロークァ遺跡に送られたよ。若い人たちみんな。


 エルフは代々、遺跡を守るもの。


 でも……新しく王になったエルフはその使命を改めた。


 遺跡の中にある星の舟を掘り出して、空の果て……


 宇宙、って言うところへ行くんだって」

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