第16話
「おい聞いたか?遂に外れに住んでたマコフの野郎がキノマシナの残骸を見つけたらしい。それも、劣化がほとんどない状態でだ」
「あぁ、知ってるよ。でも今朝殺されてたって話だぜ?あいつらの残骸は宝の山って言ってもどうせ殺されて奪われるのが目に見えてんだから、探すなんて馬鹿な真似はやめた方がいいのにな」
「それもそうだ。ここじゃ学ばない馬鹿から先に死んでくからな」
様々な情報が行きかい騒々しい酒場、ここに通うのが最近の日課になっていた。といっても、情報を得られる手段が今のところこの場所しか無いので仕方なく通っているだけなんだが。
飲み終わり金を出して席を立つ。辺りがざわめくがここ2週間ほど通い続けてこの反応をされるのはもう慣れた。
酒場を出れば道行く人にジロジロと見られるが気にせず歩く。今日の日課は済ませた。後は食料と必要な物を買ってとっとと家に帰ろう。
食べ物を売っている店に行けば気味が悪そうな顔で見られ、道具屋に行けば金を置いてとっとと出てけと言われるが売ってもらえるだけありがたい事だ。
いつもの道を通って通路を出ればやっと壁の外に出ることができた。身を隠すように纏っていたローブを脱ぎ一息つく。
「なんでこんな事になったんだ……」
タクトが現在の状況になってしまったのは一か月前まで遡る───
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
タクトが壁の外に住み始めて数週間経った頃、スラム内では一つの噂が流れていた。
曰く、壁の外にある廃墟に住みついた者がいる。
曰く、その者は子供で数週間に一回希少な金属を換金してお金を得ている。
曰く、その者は人間では無く後を追いかけたものは肉体を食い散らかされる。
タクトがカイから初めてこの噂を教えられた時は驚いた。どうやらスラム全体でこの噂が出回っているらしく、タクトがスラムの者に狙われていないかカイは心配していてくれたらしい。
一応自分の身を守るためにも何か自衛の手段を持っていた方がいい、とカイにアドバイスされ買ったのが小型のナイフと身を守るためのローブ。今も使い続けているタクトの愛用品だった。
そして、ナイフとローブを買ったその翌日に事件は起こってしまった。といってもタクトに被害があった訳ではなく、タクトを狙うもの達が被害にあった残酷な事件。
曇り空のある日、いつものように金属を換金したタクトは久しぶりの給料に心を躍らせていた。今日くらいは贅沢しても良いだろうと、資金もほとんど溜まって無いのに甘味を買ってしまうくらいには。
いつものように通路を通り壁の外に出ると如何にも雨の降りだしそうな曇り空。遠くで鳴る雷の音も聞こえてくる。雨が降り出してしまえばここはキノマシナの活動区域になってしまうため、走って家まで向かうタクトだったがその後ろには複数の人影があった。
最近、高額な金属を多数換金している子供。その後つけて家を確認した後子供を殺して全てを奪う。それがこの集団の目的だった。
タクトが後ろにいた者達に気づくことなく家に到着すると、タイミングよく雨が降り出してくる。土砂降りの雨が建物にあたり、聞こえるのはザーザーと鳴る雨音だけ。
突然走り出したタクトは運が良かったのだろう、タクトを追う者達は急に走り出したタクトを見失い、足跡を頼りに家の近くまで来た頃には辺りは土砂降りの大雨。リーダーらしき男が子供を探せと命令するが場所が悪かった。雨音にかき消されないよう大声で言った命令が呼び出したのは複数のキノマシナ。
悲鳴を上げて逃げ惑う人々、しかし既に接近を許してしまった唯の人間は奇跡が起こらない限り死を待つことしかできない。一人、また一人と四肢をもがれて痛みで叫ぶが、キノマシナが止めを刺すことはない。移動する手段を奪いゆっくりと嘲笑うように殺していく。
自分の部屋で買ったばかりの甘味を味わいながら食べていたタクトは、雨音の中から聞こえる異変に気付いた。雨音と一緒に聞こえてくる悲鳴、状況を考えるに命知らずが雨の中金属を探してキノマシナにでも襲われたんだろう。自分以外が死んだってどうでもいいんだが、家の周辺で何かを起こされても困る。ため息をついて雨具を着ると屋上へと向かう。
屋上から悲鳴の発生源を探していると見つけたのはキノマシナの集団。そしてその中央に見えるのは食い荒らされた人だった物。前にダストが死んだのを見てから何も感じなくなった死体に対して、よくもご近所で死んでくれたなと悪態をつきキノマシナ達があの死体のすべてを食べてくれるのを願って部屋へと戻る。
あの調子じゃ、生存者はいないだろう。タクトの頭の中は既に甘味を食べることに移っていた。
タクトの願いも届かず派手に食い散らかされた死体を見てため息をつく。大雨は過ぎ去り、昨日から一日経った今日の天気は快晴。このままにしておけば確実に腐っていき、自分の家の周りに酷い臭いが漂うことになる。それが我慢できなかったタクトは意を決して掃除をすることにした。
トングを使って掃除を行い、満足するまで綺麗にすること数十分。袋に入った者をどこに置いておくか考えた末、そのままどこかに捨て置くのも可哀そうなので死体焼却場まで持っていくことにした。ローブを羽織り、黒い袋を持って壁の中に入るといつもは感じない視線を感じる、と言っても何故見られているかも分からないので袋を焼却場の前に置いていきそのままカイの家へと向かう。
お邪魔します、と言うと出てきたのは心配そうな顔をしたカイ達4人。何故そんな顔をしているのか尋ねると、スラムの一つのグループがタクトを殺す計画を昨日行ったのでタクトが殺されたのかと思った、とのこと。
昨日はすぐに家に帰ったので身に覚えは無い。他に何かあったか…と考えていると浮かんでくるのはついさっき置いてきた袋の中身。キノマシナに殺された彼ら達のことだった。
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
その事件の後、黒いローブを纏い死体の詰まった袋を運んだ化け物、その者に近づけば殺され死体を食い漁られるという噂が流れ始める。そして、その噂は実際に死体を運んだのを見たという者の発言から信憑性を帯びてしまった。
そして今では、スラム内で黒いローブを着るものには近づくな、というのは一般常識になっている。
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