第12話
「それでわざわざカイがここに来たってことは何か聞きたい事があるんだろ?」
「あはは… ミモザさんにはお見通しですね」
「お見通しも何もカイが来るときはいつも何か聞くために来てるじゃないか」
「ちょっと、別にそんな事ないですよ!用事が無くても全然来てますから!」
カイとミモザさんが楽しそうに喋っている中ちびちびとと果実水を飲むタクト。話す話題が無いせいで会話に参加することができず疎外感がすごい。
「ほら、それでカイはここに何をしに来たんだい?タクトも一緒ってことはそっち用事なのかい?」
「そうなんですよ!タクトは今自分の家を探してるんですけど、ミモザさんが知ってる誰も住んでなさそうな家ってありますか?」
「誰も住んでなさそうな家ねぇ… そう簡単に言うけどここら辺に空き家なんかないし、住むとなったら外壁近くの光の当たらないボロ屋くらいなもんだよ。タクトがそれでもいいなら教えてあげるけど?」
「そういうのでも大丈夫です。とりあえず雨風がしのげればいいですから」
逞しいねぇ、と言いながらミモザさんが教えてくれた家は四件のボロ屋。どれもカイの家から歩いて数十分の距離にあるとの事だった。しかし、雨風がしのげれば良いと軽率に言ったタクトが悪いのだが、どの家も光が当たらない以上のデメリットがあり衛生観念が前世基準のタクトでは耐えられない建物ばかりだ。
「さてと、今紹介できるのはこのくらいなもんかね。まぁ、もう一つだけあるんだけど… あまりお勧めはしたくないんだが、知りたいかい?」
タクトでは耐えられないボロ屋を教えてくれたミモザさんがお勧めできない家… 自分では絶対住むことは無いだろうな、と思いながら聞くのは無料なので聞いてみる。
「うーん、まぁ聞けば私がお勧めできない理由も分かると思うよ」
そう言ってミモザさんが教えてくれた家は先ほどの四件とは違いまさかの璧外。確かにミモザさんがお勧めできないのも分かる。食料の受け取りや買いたい物を買うときに一々死地を通らないといけないのは欠陥として酷すぎるだろう。
「ははっ、そんな家誰が住むんだって顔をしてるよ。まぁ、でもタクトの言いたい事も分かる。辺りをキノマシナが徘徊する家に住む奴なんていないさ。でもこの家は璧外だけで言えば最高の立地なんだよ。ある程度の高さがあって奴らは上ってくることができず、建物も頑丈。おまけに不快な匂いもしないし、あそこの浄水機能が生きていれば水には困らない。どうだい、キノマシナさえ気にしなければ最高だろ?」
「そのキノマシナがいるのが一番の問題じゃないですか。そんな所には住まない…… いや、そこの家の場所教えて貰えませんか?」
そういえば、自分には約に立つ知識があったことを思い出す。ダストが教えてくれたキノマシナに関する法則。あの時はイレギュラーのせいで滅茶苦茶になったが、今こそあの知識の使いどころなんじゃないだろうか。
「本気かい?正直、あんなところにタクトみたいな子供が行くのは死にに行くようなもんだよ?」
「そうだよタクト!家が見つかるまでうちにいてもいいから璧外はやめようよ」
「大丈夫です、一つ策があるのでそれを試してみるだけですから」
渋々璧外の家までの道を書いてくれた紙を受け取り、カイと共に酒場を出る。出る時に料金を払おうとしたのだが、飲み物はミモザさんの奢りとのことでありがたく好意に肖った。
「カイ、そんなに拗ねなくても大丈夫だって。わざわざ死にに行くようなことはしないよ」
「それならいいんだけど… タクトはいくらでも家にいてもいいってこと、忘れないでね!」
璧外にまた出ていくと言った時から拗ねてしまったカイの機嫌を取る。もちろん自分から死ぬようなことはする訳ない。でも、あのダストから教えられた知識が正しい物だったらただ同然で完璧な物件が手に入る。このチャンスを逃すわけにはいかいない。弾む心を抑えながら帰路についた。
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