「僕は小説を作ってたつもりだったけど、実は・・・」

「僕は小説を作ってたつもりだったけど、実は・・・・」


「今の小説家志望のやつって、誰かに読ませたい為に書いてるよな。大体、プロの小説も読まないような奴がド素人の小説読みたいわけ無いだろ」

僕は雅人(みやと)。小説家志望だ。将来の夢は、圧倒的存在感を放つ小説家。芥川賞も夢じゃない。僕の好きな言葉は『夢は夢のままで終わらせたら、一生夢のまんまだ』その言葉を糧に今日も文章を書き連ねて行く。




1(3)地上界へと降り立った名無し@ (12:08)

自分で考えた小説のタイトル「転生したら世界終焉五分前だった」これどう?


2地上界へと降り立った名無し@(12:09)

なにそれ?


3地上界へと降り立った名無し@(12:09)

タイトルは面白そう


4地上界へと降り立った名無し@(12:10)

5分前だけに5分間で読み終わりそう


1(4)地上界へと降り立った名無し@(12:11)

あらすじはこう。冴えないサラリーマンの奥根間洋一は、自殺する直前に遺書を書こうとした。だけど、勢い余って遺書を書く前に自殺した。死の残留思念が残った奥根間洋一(おくねまよういち)は、運良く異世界に転生することに成功した。だけどその異世界は、滅亡する5分前だった。


6地上界へと降り立った名無し@(12:15)

ストーリーなら誰でも考えられるから、内容早よ


7地上界へと降り立った名無し@(12:16)

素人レベルだから、別の道を探せ。がちでつまらん


1(5)地上界へと降り立った名無し@(12:17)

そんなに面白くない?結構良くない?


8地上界へと降り立った名無し@(12:18)

ゴミwww素人の俺でもいけるレベルww


1(6)地上界へと降り立った名無し@(12:19)

素人なんだから当たり前だろ


9地上界へと降り立った名無し@(12:20) 

今の小説家志望のやつって、誰かに読ませたい為に書いてるよな。大体、プロの小説も読まないような奴がド素人の小説読みたいわけ無いだろ 


 



ブルーライトが漏れ出すパソコンから顔も名前も知らない人に罵倒される。文才とか、語彙力とか、アイデア力とか、そんな面倒いものは僕は持ち合わせていない。だけど、唯一の取り柄が『ストーリー』だったのに。それすら罵倒される。バカにされる。コケにされる。

お前らの方がよっぽど馬鹿だ、クズだ、糞だ。それを分からせてやる。有名になって、お前らに見返してやる。


“タイトル”

「僕は小説を作ってたつもりだったけど、実は…………」



 僕の母、ペー子は小さいときに死んだ。父のウリタも小さい時に死んだ。それから僕は、お婆ちゃん三木里子(みきさとこ)と一緒に住んでいる。問題点がないといえば嘘になるけど、それといった大きな弊害はなく、不自由なく暮らしているつもりだった。今日までは・・・。

「なんで仕事やんないのーー!!」

初めて聞いたおばあちゃんの怒号が、旧年代物の一軒家に響く。ビクッとした僕だったけれど、普段通り平然を装っておばあちゃんに近づいた。

「どうした・・・」

「また小説とかくだらないもん書いてるんじゃないでしょうねー!!」

僕の言葉がおばあちゃんの声のボリュームにかき消される。何で、しかも、今日、急に、ばあちゃんは、僕を、怒りだした?

「どうしたの、今日何かあった?」

「仕事はみつけたの?ねえ」

「話聞いて。小説家志望だから僕。仕事はしないの。でも、イイ感じだよ、小説。ネットにあらすじだけ晒したら皆大絶賛。最高に喜んでくれて・・・」

その瞬間、僕の頬に痛みが走る。婆ちゃんの平手打ちが僕の頬にダメージを与えたのだ。何でそんなことするんだよ、お婆ちゃん!!僕は、小説家になる為に頑張っているのに、どうして分かってくれないんだ。・・・あ、分かった。


こいつも馬鹿なんだ。だから、僕の小説の素晴らしさを理解してくれないんだ。年老いて、もうすぐで死ぬ老いぼれに「字」なんて読めねぇもんなぁぁぁぁぁ!?

「分かったよ、婆ちゃん。今から、タウンワーク行って来る」

そう言って僕は、ネットカフェに行った。



1(3)そびえ立った名無し@(18:09)

急募、小説のあらすじを考えてくれ


2そびえ立った名無し@(18:09)

あらすじじゃないけど、いい文章貼る。小説の内容に役立てるかも


1(3)そびえ立った名無し@(18:10)

いい文章?貼ってくれ


3そびえ立った名無し@(18:11)

わくわく


2そびえ立った名無し@(18:12)

髪の先端を引き千切り、掻き毟った。忽ち、指の合間に付着した血。指からぽたぽたと溢れる血液が、僕のバイタルサインをグリングリンと昇らせる。ガッチガチに固まった安全装置を引き抜くと、表情がブラックホールより深く沈む手足のついた物体。あれ、おかしいぞ。手足のついた物体は、ロボットなのかもしれない。よく出来たロボットだ。メキメキと表情筋を変えるから、最初はよく出来た機械だと思った。欠点を言うとしたら、喋る言葉のレパートリーが少ないことくらいだ。僕は、駈け寄って、挨拶した。ロボットの瞳に映った僕の顔立ちを見て、僕は飛び退いた。酷いな、これはあまりに酷いぞ。もっと、グチャグチャにしなければ、僕はこのまま醜いままだ。髪の毛ボサボサの妖怪のような、そんな僕の姿。止めて、なんでそんなこと言うの。僕は耳を塞いで、彼と僕に障壁を作った。壁三枚分の分厚い板にアクリル板を挟んだ高級障壁。耳は無料、産まれ落ちた時にオプションでくっついた。だから、僕は・・・翔平は、耳を切り落とした。


1(3)そびえ立った名無し@(18:15)

何が言いたいのか分からんけど取り敢えずもらったわ



そう呟いて、パソコンの画面を閉じた僕は見慣れない空間を見渡した。

「家より雰囲気いいね」

 強いて言えば、壁に貼られた女優のポスターが気になるくらいだ。僕はそんなことを考えながら寝た。


   



次の日、朝起きると警察官が目の前にいた。正直、心臓が飛び出るかと思った。んで、警察の話を聞いてみると変な話だった。

取り敢えず説明すると、昨日、実はあれから「カクメル」と言う小説投稿サイトにあの文章を投稿した。それが、どうやら警察沙汰になっているらしい。理由を聞いてみると、あの文章と同姓同名の翔平という男の子の両耳だけが見つかった。でも、翔平くんはみつかってない。つまり、あの文章と似たようなことが現実に起きてしまった。もし、誘拐事件だとすると犯人はアイツだ。昨日、僕とやり取りを交わしたあの名無しだ。


「君、小説で有名なんて無理だよ、今どき」

そんで、警察署に何故か連れて行かれて職質までされた。もうありとあらゆるもの全て暴露した。というか暴露させられた。お婆ちゃんと暮らしていること。そして、小説家志望のこと。そのことを言ったときの警察官の話を今でも覚えている。今でもって言ったけど、今日はその日の夜だ。よく覚えているに決まっている。

「あんた、働きたくないんでしょ。だから、小説っていう所に一生懸命しがみついてる。あんたは猿じゃないんだから。人なんだから。人は木に登れないんだよ。有名になるのは、諦めな。無職さん」




三日後、僕のケータイにメールが届いた。宛主はわからない。


《久しぶり、君。今から送る文章をそのまま「カクメル」に投稿して》


 それから、長蛇の小説のような文章がドバっと送られてきた。読みやすいとは到底言えない文章力の作品だったけど、この文章に文章力は然程重要じゃない。読み勧めていくと、とある一文が僕の心に引っ掛かる。

「気障山の奥、古びた小屋」

 だって、この山。実際に有る山なんだから。

 



僕はすべての文章を「カクメル」に投稿して、警察に応援要請を出した。

「この小説で、人を救ってください」

僕は、そう警察にお願いした。




 半年後、僕は違う意味で小説から有名になった。小説で人を救う、前代未聞の展開。まさにそれこそ小説だ。簡潔に言うと、「気障山の奥、古びた小屋」に翔平君はいた。翔平君は助かったのだ。

 あとそうだ。実はあれから、一回だけニュース番組で出させてもらった事がある。まあ、出演依頼はお気づきだとは思うけどね。で、文字通り小説が有名になった僕は、ある一つの小説を書いている。

「僕には、耳が無い」

 その小説を、翔平君は楽しそうに読んでくれている。耳が無くたって、楽しめる物はこの世界に存在するんだ。それを翔平君は教えてくれた。


 僕は、家に帰って一人の人間にメールをした。

「翔平君の耳を切り落としてくれてありがとう。お陰で、有名になったよ」

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