第43話 飛蝶が秘書に?
もともと鼠なので自分に直接関係すること以外危機感を感じないアーチが他人事のように「飛蝶って日本を思いのままに操る、そんなことを企めるほどの大物なんですね。私達鼠があいつに働かされてた時、あいつ自分が知ってる狐の化け物がたくさんの男を色仕掛けでたぶらかして、さんざん好き勝手してたって言ってましたよ。他人の悪口を言うなんていくら凄い能力を持っていても、こいつ小物だなって思ってましたけど」と言った。華菜が「やっぱりあいつ誰彼かまわず私とボスの悪口言ってたんだ。捕まえて働かせてた鼠達にまで言いふらしてたのか」と言うと求美が「私達の悪い噂って飛蝶のやつがそうやって広めていったんだ、やっぱり決着つけないと」と言った。飛蝶が言ってた狐の化け物が求美と華菜のことと、今気付いたアーチが慌てて口を手で押さえた。求美と華菜が化け物というにはあまりにもかけ離れた美しいビジュアルだったので思いもしなかったのだ。だが求美と華菜は飛蝶の自分達への悪口を気にしただけで、アーチが言った狐の化け物という言葉は気にかけていなかった。華菜が「そんなこと言っててもボス、優しいからなー。いつでも誰にでもそうだった」と言うとアーチが挽回のチャンスとばかり「それが求美さんですからね、そこが大好きなんです」と言った。求美が笑顔で「ありがとうアーチ」と言った。その後暫く黙って何か考えていた求美が早津馬に視線を向け「私達これから出かけるけど心配ないから、早津馬は連絡があった地元のお友達のお見舞いに行って」と言った。そして「華菜、アーチ、行きたいところがあるから付いて来て」と言った。早津馬が不満そうにしながらも、友達付き合いも大事なのでおとなしく従った。それからすぐ、求美は華菜とアーチをお供に…
って書くと華菜が怒るかな?気を使うなー
求美と華菜とアーチの三人はアパートを出ると求美の先導で阿佐ヶ谷駅方面に向かった。華菜とアーチは何処へ行くか聞かされないまま求美の後をついて行った。阿佐ヶ谷駅の近くまで行くと、求美が「そこに入って」と物陰を指差した。物陰に入ると求美が華菜とアーチに何か話した。アーチは嬉しそうだったが華菜は不満を顔に出していた。それでも華菜が求美とアーチを何時ものように覆い包むと、あっという間に三人共消えた。消えたように見えたが実際は三人共求美の妖術で蛾に変身していた。なぜ蛾に変身したか?それは求美の「早津馬にこれ以上負担をかけたくない」という思いからだった。電車賃をケチりたいという妖怪とは思えない健気な心からだった。蛾に変身した華菜は相変わらず不満を口にしていたが、アーチは空を飛べる初めての経験に期待を胸に膨らませていた。求美が初めて飛翔するアーチに飛び方を教えた。教えるとすぐ人目につきにくいルートを選び、阿佐ヶ谷駅のホームの屋根の上に向かって飛んだ。アーチの飛翔する姿を見て求美は「早津馬より上手い、野生の感て凄いな」と思った。前回の経験でどの電車に乗ればいいか分かっている求美は目的のホームの屋根の上に降りると電車が入って来るのを待った。東京二十三区のこと、電車はすぐに来た。求美が先導し、車両と車両の間をつなぐ貫通幌の上に降り、風当たりが弱いと思われる先行車両側の幌と車両の接続部まで移動した。発車メロディが鳴り終わると電車が走り出し、徐々に風当たりが強くなってきた。昼間とはいえ、春というにはまだ早すぎる時期に加え、日本海の寒気が上空に移動してきていたため肌寒く、寒さがじわじわと身にしみてきた。三人?ではなく三匹は体を寄せ合った。華菜が「蛾じゃ見た目悪いし寒いし、お金あるんだから電車に乗ればいいのになあ…」と呟くとアーチが「飛蝶ってこんな寒い思いをして飛んでたんですね。移動そのものは楽でしょうけど」と言った。華菜が「あいつすぐ疲れるのに寒さには強いんだよ、何故だか知らないけど。馬鹿だからかな…」と言い、求美が「寒さを我慢できれば蝶として飛ぶのがいいけれど、残念ながら私の妖術では蛾にしかなれない。蛾では長距離を飛ぶのは大変だから。お金ももったいないし」と言った。そして続けて「あんな悪事を働く飛蝶が蝶で私が蛾なんて、絶対おかしい」と言った後、黙ってしまった。暗い雰囲気にしてしまった責任を感じたアーチが明るく「私は今楽しいです。鼠なのにこんな経験できて、全然寒くなんかないです」と言った。だが声は寒さで震えていた。その後は誰もしゃべらず、三匹固まって新宿駅に着くまで風の寒さに耐えた。そして新宿駅に入り電車が減速すると求美の先導でホームの屋根の上を目指して飛び立った。屋根の高さに達した後もそのまま上昇し続けると、他を圧倒する巨大な東京都庁のビルが見えてきた。求美の後に付いて飛んでいた華菜とアーチにも巨大なビルが見え、求美の目差すところが都庁ビルであると見当がついた。そこで求美は上昇するのを止め都庁ビルに向かって水平飛行にうつった。蛾の経験が初めてのアーチを気づかう求美が、少し飛ぶと降りやすいところを探して降りて休み、また飛ぶを繰り返し、新宿駅から大きな通りを越えた人気の少ない細い道を選んで降下しビルの壁に張り付いた。そして人目がなくなる瞬間を待って人の姿に戻った。三人共息が切れていた。華菜が求美に「やっぱ電車がいいよ」と言った。求美も「そうだね」と言った。求美達三人は都庁ビルに向かって歩き出した。蛾のときは出なかった汗が人間の姿になると出てきて、また体が冷えてきたアーチだったが妖術を使えないので我慢しているとそれを見た求美が何かした。するとアーチの汗が一瞬で雲散霧消した。何も言わないのに求美が妖術を使って汗をなくしてくれたのが分かるアーチが求美に抱きついた。華菜が「ボスは私のもの」と言って引き離そうとしたが求美が嬉しそうなの見て、自分も求美に抱きついた。「歩きにくいよ」と言いながらも求美は嬉しそうだった。ふざけながら歩いているうちに都庁ビルに着いた。ビルを見上げた求美が華菜とアーチに「都知事の執務室があるはずだから探して様子を見てくる。二人はここで待ってて」と言った。そして求美は周りを見渡し自分への視線がないのを確認すると姿を消し風になった。そして都庁ビルの壁を昇っていった。それを見たアーチが「求美さん風になれるんですね」と言うと華菜が「そうだねー。ただボス本人以外を風にすることは出来ないんだよね。でも私はボスと一体になれるから経験したことあるよ気持ち良かったよ」と自慢げに言った。風は都庁ビルの壁を縦横無尽に流れた。そして最上部辺りで止まった。求美の一部である華菜にはそれが分かった。華菜がアーチに「ボスはもっともっといろんな能力があるのに使わないんだよね。心だけでも人間でいたいんだろうね」と言うとアーチが「求美さんてそういう人、じゃない狐ですよね」と言った。都知事の執務室らしき部屋を見つけた求美は中の様子を覗っていた。するとちょうどその時ドアが開いた。そして二人入ってきた。一人目がドアを開けて二人目を導き入れていた。二人目の顔を見ると、早津馬から見せてもらったネットの記事の写真の都知事だった。間をあけてもう一人入ってきた。黒のスーツに身を包んだスタイルの良い女性で部屋に入るなり全体をくまなくチェックしていた。それは飛蝶だった。何時もは派手な身なりの飛蝶が秘書のような出で立ちをしていた。
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